「セダン絶滅」へ一歩? 日本のクルマ市場は欧米の10年後の姿か 世界でセダンは今

トヨタ「カムリ」の国内販売が終了すると、国内新車のラインアップからセダンがほぼ死滅。コンパクト、SUV、軽自動車などがますます台頭していきます。クルマの基本であり「万能車」のはずのセダン、世界ではどうでしょうか。
トヨタのセダン「カムリ」が販売終了になるという話題が飛び交っています。トヨタからの正式アナウンスはないけれど、もしも、それが本当であればひどく残念なこと。さらにセダンが絶滅に一歩近づくことを意味します。
「セダン絶滅」へ一歩? 日本のクルマ市場は欧米の10年後の姿…の画像はこちら >>カムリ北米仕様(画像:トヨタ)。
実際に2023年2月の販売ランキングを見ると、50位以内にあるセダン専用モデルは「カムリ」「プリウス」「シビック」だけ。ただし、独立したトランクを持った古典的な3ボックスのセダンは、このうち「カムリ」だけとなります。他に「カローラ」「マツダ3」などにもセダンが存在しますが、同じ名前でハッチバックやクロスオーバーなども含まれています。なお新型「クラウン」は、現在販売されるのはクロスオーバーであるSUV。セダン型の「クラウン」は、この後に登場する予定です。
より高級セダンであるトヨタ「センチュリー」や日産「スカイライン」の販売は続きますが、販売ランキング50位圏には入っていません。それだけ、今の日本のマーケットでは、セダンの人気がなくなっているのです。
もともとセダンを買い支えていたのは、高齢者だと言われていました。2021年に終了した日産「シルフィ」が最後まで灰皿を残していたのは、喫煙率の高い「高齢者向けのクルマだから」と日産は説明していました。個人的には「高齢者が買う」のではなく、「古い価値観の人が買う」と解釈した方がいいのではないでしょうか。

実際に、昭和の時代はセダンがよく売れました。というか、最初に買うのはハッチバックのコンパクトカーかもしれませんが、最後は大きなセダンを手に入れるのが常識でした。「いつかはクラウン」というCMコピーが昭和の時代を象徴していたのです。
確かにセダンは、古くからある車形であり、フォーマルな雰囲気を抱いています。また、クルマの基本形として、人やモノを乗せるオールマイティなクルマです。ところが、昭和を経て豊かになった日本では、平成に入って、さまざまなセダン以外のクルマが人気となりました。それがミニバンであり、SUVです。また、近年は軽自動車の性能が向上したことで、「街乗りには軽自動車で十分」と考える人も増えました。
新しく人気を集めた、これらのクルマは「セダンよりも人やモノをたくさん運べる」「悪路や雪道を走れる」など、万能型のセダンよりも、一部の機能が勝っています。さらに、価値観も非常に多様になっています。
その結果、「いつかは高級セダン」と考えずに、自身のクルマの使い方にあった機能的なクルマを選ぶ人も増えたというのが現状ではないでしょうか。
では、日本ではなく世界市場はどうなっているのでしょう。
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新型クラウン。トヨタはSUVに分類している(画像:トヨタ)。
現在の世界で最もクルマの売れる市場は中国。そして、それに続くのがアメリカです。そして、その2大マーケットではセダンが人気となっていました。しかし、近年は、どうもアメリカや中国でもセダンの人気に陰りが見えているようです。

アメリカの最近の販売ランキングを見ると、ベスト10の中でセダンは、実のところ、トヨタの「カムリ」しかありません。他はすべてピックアップトラックとSUVばかり。日本車だけでなく、アメリカ車でもセダンは売れていないのです。
また、中国ではセダンが4割ほどを占めていますが、一方でSUVも着実に伸びています。急速に発展する中国では、初めて購入するクルマにセダンを選ぶことが多いようです。かつての日本でもそうでした。一方で、近年のSUVブームは日本だけでなく、北米や欧州、中国、アセアンなど世界的な規模で吹き荒れています。その風を感じた人が2台目のクルマを選ぶとき、「前回(セダン)とは違う車形」としてSUVを選ぶのは当然の流れとなるでしょう。
一方、欧州市場はどうかといえば、こちらは昔からセダンの人気はいまひとつ。現在の売れ筋は、コンパクトなハッチバックとSUV。ベスト10にセダンは存在しません。
そしてアセアン。タイはピックアップトラックが強く、インドネシアはMPV(日本でいうミニバン)が売れているなど、国によって様子は微妙に異なります。
とはいえ、世界全体を見渡してみれば、確実にセダンの販売は減少傾向と言っていいでしょう。また、同じ車種を世界各地で販売する「グローバルカー」という手法が万能ではないこともハッキリしています。オールマイティなセダンは、そうした「グローバルカー」に選ばれていた車種も多かったのですが、近年は、各地域の事情にあわせた車種を用意するケースが増えています。
残念ながら、万能で、フォーマルで、グローバルなセダンはいま、生きづらい時代になっているのでしょう。