クルマの安全技術に関する国際会議を取材していたら、いつもと雰囲気の違うホンダの電気自動車(EV)「ホンダe」(Honda e)を発見した。フロントグリルには光るパネルを搭載。クルマの前後にも見慣れないパーツが追加になっている。このホンダe、いったい何者?
変わったホンダeに出会ったのは「自動車安全技術国際会議」(第27回ESV国際会議)の会場だ。ESV国際会議は自動車の安全に関する世界規模の国際会議。通常は2年ごとだが今回はコロナ禍を経て4年ぶり、日本では実に20年ぶりの開催となった。
ホンダが会場に展示したのは安全に関するさまざまなアイデアを詰め込んだホンダeだ。特に光・照明を使った斬新な機能が多かった。説明を聞いてきたのでひとつずつ見ていきたい。
○交差点右折でバイクと意思疎通?
ホンダeのグリルは普通であればグロスブラックのパネルだが、展示車は光るパネルになっていた。いつ、何のために光るのか。説明員によると、このパネルはドライバーがブレーキペダルから足を離したとき、つまりクルマが動き出す際に点滅する。何のために光るかというと、前から来る車両にこちらが動き出すことを知らせるためだ。説明員が例に挙げたのは交差点の右折時。直進してくるクルマやバイクと事故を起こしやすい危険なシーンのひとつである。
もちろん直進してくるバイクやクルマを待ってから曲がるのが基本だが、右の矢印が出ない交差点など、タイミング的に微妙になってしまう場所は確かにある。そんなとき、点滅するパネルでこちらの動きを周囲に知らせることができれば、事故の危険性は抑えられるかもしれない。もちろん最初は、「ホンダ車のフロントパネルが光っているけど、あれってどういう意味?」と思う人が大半だろうから、この手の技術にとっては「周知」も重要な要素となる。
○見通しの悪い曲がり角で自己主張!
このクルマ、普通のホンダeであれば何も付いていない前輪のフェンダーあたりに黒いパーツが付いている。これは何かというと、斜め前の地面を照らすライトだ。
道路の両脇に塀や生け垣があって、途切れたところが交差点や十字路になっている場所がある。もちろん「とまれ」だったら一時停止をして安全確認してから動き出すし、「とまれ」じゃなくても細心の注意を払うべきシーンだし、カーブミラーがあればしっかり見るのは当然なのだが、そうはいっても死角から人や車両が迫っていて驚くことはある。
ホンダeの展示車両が装着しているフェンダー付近のライトは、そのような場面で役に立つ。曲がりたい方向の地面を照らしてくれるから、そちら側から接近してくる人や車両に注意を促すことができるのだ。
ちなみに、今回の車両ではわかりやすいように黒く塗ったライトを取り付けているが、照らす機能だけならヘッドライトに入れ込むことができるそうなので、同機能を実用化してもデザインを邪魔することはないらしい。
○網目状のライト照射で何が変わる?
今回の展示で驚いたのが、網目状に前方を照らすヘッドライトの技術だ。
街灯がないor貧弱な夜道をヘッドライトの光を頼りに走っているとき、びっくりするのは歩行車が前方の道路を横断してきたときだ。早めに歩行者に気づくことができれば準備も対応もできるのだが、意外に気が付かず、ヒヤッとすることがある。
そんなとき、前方を照らすライトがまんべんなく全体を照らすのではなく、歩行者がいそうなところを網目状に照らしているとどうなるか。デモ映像で確認すると、歩行者がチカチカと点滅しているような見え方になるのだ。LEDのヘッドライトにはたくさんの光源があるので、いろんな照らし方ができることは知っていたのだが、網目状というのは面白いアイデアだなと思った。
○反射板を肩口に取り付けるだけで…
後ろから見てみると、このホンダeは肩の部分が後ろに少し出っ張っている。通常なら丸くてつるんとした後ろ姿なのだが……。
これはけっこう単純な話で、リアの左右上端に反射板が取り付けてあるだけだ。ホンダの説明員によると、タイでは夜道で止まっているクルマに後方からバイクで突っ込む事故が多いのだそう。そうした事故を防ぐ工夫として、リアの肩口に反射板を取り付けることを思いついたらしい。さすがはホンダ、込み入ったものからシンプルなものまでいろんなアイデアを出してくる。
ホンダは「2050年に全世界で、ホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロ」という目標を掲げている。これについては「野心的」といわれることもあるそうだが、大小さまざまなアイデアを組み合わせて、できれば前倒しでの達成も狙っていただきたいところだ。
事故死ゼロに向けホンダでは、クルマとクルマが通信を介して互いの動きを知らせ合うような、コネクティッド技術を用いた車車間通信による事故削減などの研究も当然ながら進めているのだが、これを社会に実装するのは大変そう。他社とシステムを統一することになったら、すり合わせにかなり時間がかかるかもしれない。なので、そちらはそちらで研究を進めつつ、現実社会に実装できそうな技術についてはどんどん実用化していってもらいたいと思った。
ちなみに、今回の展示車にはクルマのライトに関するいろいろな新機能が備わっていたが、クルマのライトの照射の仕方については法規で決まりがあるそうなので、実用化するにはそのあたりもクリアする必要があるとのことだった。