「ビザの有無にかかわらず、夫を愛したことに変わりはない」 スリランカ人男性の難民認定・在留特別許可を求める訴訟で原告の訴えが棄却

12月17日、スリランカ人男性が難民認定や在留資格に関する不認定・不許可処分の取り消しを請求して提起した訴訟で、訴えを却下する判決が出された(東京地裁)。
迫害から逃れて留学、授業料を着服されてオーバーステイに…本訴訟の原告は、スリランカ国籍の男性・ナヴィーンさんと、その妻で日本国籍のなおみさん。
2001年からスリランカで父親と政治活動をしていたナヴィーンさんは、2004年、対立政党の支持者から父親と共に襲われ、大ケガを負う。同年、迫害から逃れるため、日本語学校に留学した。
なおみさんと出会ったのは2005年。同年、仲介業者に渡した授業料の半分が着服されて支払われていなかったことが原因で、ナヴィーンさんは日本語学校に通えなくなってしまう。12月に留学の在留資格を継続できずオーバーステイの状態になるが、迫害のおそれがあるためスリランカには帰国できなかったという。
その後、ナヴィーンさんはオーバーステイのまま日本に住み続ける。
2013年2月、難民認定申請を行うが、翌月に不認定処分となり、退去強制令書が発付される。
2016年、ナヴィーンさんはなおみさんと結婚。
2017年、二回目の難民認定申請を行うが、2022年6月に難民不認定処分となる。同月、日本人(なおみさん)との結婚を理由に申請していた在留特別許可についても、不許可処分となった。
婚姻関係は「違法状態の上に築かれた」として、在留特別許可が認められず本訴訟は、ナヴィーンさんを難民と認定しない処分の取り消し、ナヴィーンさんの難民認定の義務付け、在留特別許可を不許可とする処分の取り消し、在留特別許可の義務付け、退去強制令書発付処分の無効確認を国に求めるもの。2022年11月に提起された。
今回の判決で、裁判所は「スリランカ政府に迫害者を食い止める力が無いとはいえない」として、ナヴィーンさんの難民該当性を否定した入管の判断を追認した。
また、在留特別許可についても「婚姻関係は不法残留という違法状態の上に築かれたものだった」として退けられた。
判決後の記者会見で、原告代理人の浦城知子弁護士は「苦難を乗り越えて築かれてきた、かけがえのない夫婦関係が尊重されない結果になったことは残念に思う」とコメント。
同じく代理人の桐本裕子弁護士も「裁判所は、ナヴィーンさんの留学ビザが切れてオーバーステイになったことについては本人に帰責性はないとしながらも、『安易に不法残留に及んだものであるから、ナヴィーンの在留状況を悪質であると評価することの妨げにはならない』との判断を下した。自分たちの力不足も感じつつ、残念な判決だ」と語った。
「夫婦が共同で暮らす権利」は十分に保護されていない今年9月、小泉龍司法務大臣(当時)は、日本で生まれ育った在留資格のない外国人の子らのうち全体の8割を超える212人に在留特別許可を与えたことを明らかにした。日本政府は、外国籍の子どもの権利・利益については一定の配慮を示す姿勢を取っている。
一方、夫婦が共同で暮らすことの権利・利益については、国際人権法によって定められているにもかかわらず日本政府は十分な保護を与えていないという。
また、今回の判決については、裁判所がナヴィーンさんとなおみさんの婚姻関係の背景にある事情を考慮せず、「違法状態で築かれたもの」として保護の必要性を低く判断した点に問題がある、と弁護士らは指摘する。
なおみさんと出会った時点では、ナヴィーンさんには在留資格があった。そして、二人は出会った当初から惹かれあっていたという。
しかし、当時シングルマザーであったなおみさんは「子どものことが第一」「自分の恋愛をする前に、子どもをちゃんと育てなくては」との考えから、「子育てが終わる10年後に結婚しよう」と、ナヴィーンさんと約束した。そして、実際に10年以上、子育てを優先しながらナヴィーンさんとの交際を続けた。
つまり、もしなおみさんがナヴィーンさんと出会った直後に結婚していれば、婚姻関係は適法状態で築かれたとして、在留特別許可が認められていた可能性がある。
会見でナヴィーンさんは「『10年後に結婚する』と約束をした時点では、その後にこんな事態になるとはわからなかった」と語った。
「裁判所や入管、国には、結婚の価値を、もっと大事に考えてほしい」(ナヴィーンさん)
「夫婦が一緒にいてこその結婚生活」なおみさんは「ビザがあろうとなかろうと、夫に惹かれて、愛したことに変わりはない。だから、ビザが切れた後にも交際を続けた」と語る。
「高望みをしているわけではない。夫に在留資格を与えていいただき、安心して普通の生活をしたいだけだ。
夫婦が一緒にいてこその結婚生活、離れ離れになることは考えられない。今後も夫とともに、日本で暮らしていきたい」(なおみさん)
在留特別許可に関わる訴訟では、裁判所は「法務大臣に広範な裁量がある」としながら、入管の判断を追認する場合が多いという。桐本弁護士はこの状況について「人権が劣位に置かれている」と指摘。今回の判決についても「ナヴィーンさんを救済しようとする意図が全く感じられなかった」と、裁判所を批判した。
2021年に出版された、作家の中島京子氏による小説『やさしい猫』(中央公論新社)では、シングルマザーの日本人女性とスリランカ人男性の恋愛・夫婦関係が描かれており、なおみさんとナヴィーンさんの境遇に類似しているという。同作中でもスリランカ人男性の在留資格を求める訴訟が行われているが、男性の訴えが認められる「ハッピーエンド」となった。
浦城弁護士は、フィクションと異なり現実ではナヴィーンさんにとって厳しい判決になったことを指摘しつつ、「裁判所が出した判決は、一人ひとりの日本国民が望んでいる結果なのか」と問いかけた。
原告側は控訴する意向だ。