居宅介護支援事業所も「介護予防支援」の担い手に!? 2024年度改正案を先取り解説

2023年3月22日から、国会において「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための法律案」の審議が始まりました。
この法律案の中には2024年度に施行される介護保険法の改正案が含まれ、それまで地域包括支援センターが中心的な担い手となっていた「介護予防支援」を、居宅介護支援事業所も担えるようにする内容も盛り込まれているため、介護業界で現在注目を集めています。
介護保険法の改正案は、地域包括支援センターの負担軽減が目的です。法の施行により、今後は居宅介護支援事業所が市町村から指定を受けて介護予防支援を行えるようになります。指定を受けた居宅介護支援事業所は、市町村・地域包括支援センターと連携しながら、介護予防支援を実施するとされています。
全国的に高齢化が進む中、地域包括支援センターの繁忙度が深刻化。その繁忙を招く大きな原因となっている介護予防支援を居宅介護支援事業所に任せることで、地域包括支援センターがより多様な福祉ニーズに対応できる体制を作ることを国としては目指しています。
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地域包括支援センターとは、地域に住む高齢者に対して、福祉に関する「総合相談支援」「権利擁護」「包括的・継続的ケアマネジメント業務」「介護予防サービスへの対応」などを行う公的機関です。

冒頭で紹介した改正法では、「介護予防支援」に関わる業務を居宅介護支援事業所に任せられるようにするという内容です。
居宅介護支援事業所とは、介護保険サービスの利用計画書であるケアプランの作成支援、介護サービス提供事業所との連絡・調整役、提供サービスされた内容のチェックなどを担う事業所です。
利用者ごとに事業所に所属する「ケアマネージャー」が担当者となって対応。ケアマネージャーが行う一連の支援業務は「ケアマネジメント」とも呼ばれています。
今回の改正案が施行された場合、居宅介護支援事業所はこれまでの通常業務に加えて、介護予防支援の業務も担うことになります。
介護予防支援とは、高齢者の自立支援を目的とし、心身状態や生活環境、利用者本人の選択内容などを踏まえ、介護予防につながるサービス利用の支援を行うことです。

基本的な業務内容としては、介護予防サービスの利用計画書の作成、介護予防サービス提供事業所との連絡・調整役、提供されたサービス内容のチェックなどを行います。要介護者を対象とした居宅介護支援(ケアマネジメント)と同様のプロセスです。
介護予防のためのサービスは、2015年の介護保険法改正によって始まった「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」において内容に変更が生じました。
総合事業は、要支援認定を受けた人、または自治体の基本チェックリストにて総合事業の対象となった人に提供する「介護予防・生活支援サービス」と、65歳以上であれば誰でも利用対象となる「一般介護予防サービス」で構成されています。
このうち前者の介護予防・生活支援サービスには、「訪問型サービス」「通所型サービス」「その他の生活支援サービス」、「介護予防ケアマネジメント」の4つが含まれます。つまり、これらのサービスは、自治体の総合事業の枠内で運営されることになったわけです。
しかし、上記4つ以外の介護予防のサービス、例えば「介護予防訪問入浴介護」や「介護予防訪問看護」「介護予防訪問リハビリなど」などについては、従来通り「要支援1~2」の認定を受けた人を対象とする「介護予防給付」により提供されます。
これら総合事業の枠に入らない介護予防サービスを利用する場合に行うのが、「介護予防支援」であるわけです。
現行法だと介護予防支援は地域包括支援センターが担うとされていますが、冒頭で紹介した改正案が施行されることにより、指定を受けた居宅介護支援事業所が担えるようになります。

では実際のところ、各地の地域包括支援センターにとって、介護予防支援は現状どのくらいの負担となっているのでしょうか。
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所は、2021年10~11月に全国の市区町村1,741カ所、地域包括支援センター約5,200カ所を対象にアンケート調査を実施しています。その結果によると、「介護予防ケアプラン作成業務が適切な業務量の範囲内に収まっている」との回答は、全体の26.1%にとどまっていました。
7割以上もの地域包括支援センターにおいて適切な業務量の範囲に収まっていない、つまり過度な業務負担に直面しているという状況であるわけです。
また、全体の37.1%が「業務量が過大なのに対策をおこなえていない・検討中である」と回答。何ら対策が行えていないということは、業務量の多さが現在いる職員の負担増に直結している状況であると考えられます。
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実際に現場の声を聞いてみると、介護予防ケアプランに関わる業務が、多くの地域包括支援センターに業務負担増をもたらしている現状を見て取れます。介護予防支援を居宅介護支援事業所に任せることは、その負担減につながるわけです。
先の株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所の調査によると、「介護予防ケアプラン作成に対する地域包括支援センターが業務負担軽減に向けた取り組み」として、最多回答だったのが「居宅介護支援事業所への外部委託」で全体の約9割に達しています。

つまり、介護予防ケアプランの業務負担を減らすための対策として、地域の居宅介護支援事業所に「外部委託」という形で頼ることが一般的・常識となっているわけです。
しかしこの場合、地域包括支援センターには介護予防支援に関する窓口となって対応する業務が生じ、さらに居宅介護支援事業所に委託するための事務作業も逐一発生します。
最初から市町村が介護予防支援の担い手を居宅介護支援事業所に指定できれば、外部委託するための作業などは発生しなくなり、地域包括支援センターの業務負担は軽減できます。冒頭で紹介した法律案は、地域包括支援センターの現場のニーズに合致した施策と言えます。
今回の法律案は、地域包括支援センターが担っていた業務の一部を居宅介護支援事業所に回すという施策ですが、実際には居宅介護支援事業所も業務が繁忙で、仕事量がぎりぎりのところも多いです。
居宅介護支援事業所では書類仕事が多い、更新研修の受講義務、支援困難事例への対応(サービス利用に対するクレームなど)などが生じ、人手不足の事業所も少なくありません。1人暮らしの高齢者に対する家族代わりとなっているケアマネージャーも多いです。
法律案の施行によって介護予防支援の指定先となった場合、各事業所で働くケアマネージャーに新たな負担を強いる恐れもあります。
しかもケアマネージャーは待遇が良いとは言えないのが現状です。特に2019年10月の「特定処遇改善加算制度」により、介護福祉士よりもその上位資格であるケアマネの方が、給与額が安くなるというケースも発生しています。
介護予防支援を正式に居宅介護支援事業所に任せるなら、介護報酬への配慮、さらに言えば現場のケアマネージャーの処遇改善などへの配慮もまた必要ではないでしょうか。
介護予防支援マネジメントの基本報酬額も含め、実際の改正に向けて具体的にどのような取り決めがされるのか、引き続き注目していきたいです。