欧州戦車市場で「K-兵器」は戦えるか? レオパルド2 vs K2ブラックパンサーの行方

長らくドイツ戦車「レオパルト2」が大勢を占めていた欧州戦車市場に、韓国製戦車K2「ブラックパンサー」が切り込み、大量の発注を勝ち取りました。その勝因をまとめつつ、両者の特徴などを改めて見ていきます。
「K-兵器」なる言葉が聞かれるようになってきました。K-popならぬ韓国製兵器のことです。ここ数年で韓国製兵器の輸出量が急成長しており、現在兵器輸出額では世界第8位ともいわれます。
そのK-兵器は、ベストセラー戦車「レオパルト2」が居るヨーロッパの戦車市場にも切り込んでいます。2022年7月27日には韓国とポーランドとの間で、K2戦車を180両とポーランド仕様のK2PL戦車を820両、調達する基本契約が結ばれました。約1000両と言うのはかなりの大型契約であり、韓国戦車はドイツ戦車の牙城を崩す一擲となるのでしょうか。
欧州戦車市場で「K-兵器」は戦えるか? レオパルド2 vs …の画像はこちら >>韓国のK2「ブラックパンサー」戦車(画像:韓国国防省)。
これまでにK2の商談が行われたのは、上述したポーランドとノルウェーです。ポーランドはK2を選定し、ノルウェーは「レオパルト2A7」と比較審査した結果、「レオパルト2」を選定しました。
ポーランドは既に「レオパルト2A4」「同2A6」を保有しており、アメリカの「M1A2エイブラムス」の購入を決めています。そうしたなか、なぜベストセラーであり自国で運用実績もある「レオパルト2」ではなく、K2を選定したのでしょうか。

まず納期の早さです。ポーランドは現状、「キャッシュが入ったスーツケースを抱えた国防省の調達担当者が世界中を駆けずり回っている」といわれるほど装備の買い付けを急いでいます。というのもポーランドは、ウクライナにT-72M戦車とPT-91戦車を300両以上、供与し、虎の子であった「レオパルト2」も14両、供与する予定で、2021年時点で約800両を保有していたとされる戦車の4割弱を供出してしまい、その補充は喫緊の課題だからです。「レオパルト2」の納期は、2023年には月1両ペースで年12両といい、K2は5年以内に最大1000両を収められるということでした。
第2に価格が安いことです。仕様や契約条件によって価格は変動しますので正確な比較はできないものの、K2はレオパルト2より約3割から4割は安いといわれます。
第3がポーランド国内での製造を認めたことです。1000両の内、180両は韓国から輸入しますが、820両はK2PLとして国内生産を行う予定です。これにより、ポーランドは軍事的潜在力を高め、産業を活性化させることができ、韓国はヨーロッパに生産拠点を構えて市場の地位を固めることができるという、両国のウインウインの関係です。
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横行行進射撃を行うK2。センサーと連動した射撃統制装置で目標を捕捉すると自動追尾し、移動目標に対しての行進間射撃も高い精度を誇るという(画像:韓国国防省)。

またポーランドとドイツの、第2次世界大戦以来の微妙な外交関係も背景にあります。ポーランドはドイツとフランスが共同開発している次世代陸上主力戦闘システム「MGCS」への参加を打診するとともに、ウクライナ情勢を踏まえて計画の加速化を要請したのですが、結局、参加を拒否されました。さらに、ウクライナが「レオパルト2」の供与を要求してもドイツは2023年1月まで頑なに応じなかったことで、ポーランドはフラストレーションを高め、ドイツを信頼できない防衛パートナーと見なしているようです。NATOといっても一枚岩ではないのです。
一方、ノルウェーがK2ではなく「レオパルト2A7」を選定したのは、また別の視点です。軍は低コストで納期も早いK2を推していたといわれます。しかしノルウェー政府は性能や価格だけでなく、他のNATO諸国との相互運用性、ドイツとの政治経済的な繋がりの強さ、安全保障関係など地政学的要因を重視したことを認めています。
K2と「レオパルト2A7」はどちらが「強い」のか、というのは気になるところです。とはいえ、重さ約68tの「レオパルド2A7」と約55tのK2はそれぞれ、設計するうえで想定している防衛戦の場所や条件が異なりますので単純比較はできません。
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「レオパルト2」の最新バージョン2A7(画像:ドイツ連邦軍)。
「レオパルト2」は、開けたヨーロッパ平原でソ連戦車群を迎え撃つために作られ、冷戦後のバージョンは市街戦や非正規戦における携帯対戦車火器や待ち伏せ爆薬に対する防御力向上のため、全身重装甲化して重くなりました。

一方、K2は朝鮮半島の起伏が激しい地形での戦闘を想定して設計されており、軽量化して機動力を確保するため側面や後面の装甲は比較的、薄くなっています。ポーランド用にカスタマイズされるK2PLは、側面、後面に追加装甲を施すことになるようです。また地形に対応するため、K2には日本の74式戦車と同じように姿勢制御機能を備えるのですが、あるドイツの戦車将校は、複雑な構造機能の割には平原では役立たない「宴会芸」と切って捨てています。使われる環境によって求められる仕様が大きく違うのです。
そうしたスペックではないところでの「レオパルト2」の「強み」としては、かねてよりその太いサプライチェーンによる信頼性の高さが挙げられてきました。ところが昨今、肝心のドイツの生産力が不安視されています。ポーランドがK2を選定した理由のひとつが納期だったのは前述したとおりで、さらに、以前からスペアパーツ不足によるドイツ軍装備品の稼働率の悪さは指摘されていました。
現状では、K-兵器のヨーロッパへの切り込みは簡単ではないとの見立てが一般的です。ドイツはヨーロッパで圧倒的な経済力を持ち、EUやNATO内でも大きな影響力を持つため、製品の性能以上に政治的にもまだ優位に立っています。
しかしほんの四半世紀前、同じアジアの国がヨーロッパに乗り込んで成功した例があります。日本車です。ドイツの豹(レオパルト)は、東からの熊(ロシア)に備えるだけでなく、アジアからの黒豹(ブラックパンサー)にも備えなければならなくなる時期は近いかもしれません。
※誤字等修正しました(4月19日12時15分)。