山形県立鶴岡工業高等学校とNTT東日本 山形支店は3月23日、同校の生徒が自ら作成したオリジナルのメタバース空間のお披露目会を実施した。
2020年11月に誕生したNTTのXR空間プラットフォーム「DOOR」を活用し、「メタバース塾」を2022年12月、2023年1月に開催してきた両者。同校の教頭・野崎修氏と、実際に生徒たちの指導にあたってきた教諭の小山大央氏に、本取り組みの背景や今後の展開をうかがった。
○メタバースで実際の校舎を再現、学校紹介も
県立鶴岡工業高校の「メタバース塾」は新しいコミュニケーションの場として注目されているメタバースを活用した探究的な高度学習の加速や、主体的に地域交流・貢献する機会づくりによる人材育成を目的とする取り組み。
県立鶴岡工業高校とNTT東日本の連携により、学校・地域の価値創造や地域産業の新たな担い手の育成をめざした「メタバース塾」を実施。そこで習得した技術をもとに、生徒たちは実際の校舎などをメタバースで再現し、写真や動画などで各学科や部活動、卒業後の進路などの学校紹介を行うメタバース空間を構築した。
お披露目会の冒頭、NTT東日本山形支店ビジネスイノベーション部の担当者は、「NTTグループは電話や通信だけではなく、データを集めたり、コンテンツをつくったり、インターネット上で多くの取り組みをしています」と挨拶。新たな教育モデルの創出や魅力的な地域づくりへの貢献をめざすNTT東日本として、今回の取り組みの狙いについて語った。
「オープンで双方向のインターネット上で、誰でもコミュニケーションを取れる世界の実現を掲げており、今回の約3カ月間の取り組みを通じ、皆さんにもその一端に触れていただけたかと思います。こうした技術は日進月歩で進化していきますが、その技術をどうやって社会に生かしていくかは皆さんの柔軟な発想、考え方と掛け合わせることでテクノロジーの新しい可能性が広がっていくと思います」
今回の講座で用いられたNTTコノキュー社が提供する「DOOR」は、100万人が利用しているVR空間プラットフォーム。マルチデバイス対応で、個人利用はもちろん、企業イベント、バーチャルショップ、バーチャルフリーマーケット、バーチャル学校などに利用されている。県立鶴岡工業高校では1・2年生の生徒たちを対象に、12月に第1回の技術講習会としてスタート。1月に第2回講習会を行ってきた。
工業高校の魅力発信や地域貢献につながる取り組み
「コロナ禍で中学生の学校見学が難しくなっていた背景もあり、在校生たちに探求的な力を身につけてもらいながら、学校紹介をメタバースで実現できないかと考え、こうした塾を始めました」とは、教頭の野崎氏。
「学年も学科も違う生徒たちが参加してくれたので、最初は少しぎこちないところもあった気もしますが、ものづくりを通じて生徒たちが密にコミュニケーションをとる様子を見て、生徒たちの成長を感じました」
バーチャル空間の提供、講師として技術的な指導や生徒からの質問への対応など、NTT東日本の手厚い支援を受け、生徒たちも自主的に取り組んできたようだ。
「何もないフィールドにゼロからフロアや壁をつくっていくので、最初の講座を受講した直後は少し難しいのかなという印象で、生徒が少し不安がっていた様子もありました。ただ、1週間、2週間もすると、『もうそこまでできるんだ』というぐらい、生徒が自ら成長していく姿が印象的でした」(小山氏)
技術的な指導は講座の講師役であるNTT東日本が、生徒たちが直接メールでやり取り。生徒の相談や疑問に対応してもらったという。
「東北地方の学校なので、どうしても外に発信していくことが苦手な地域性みたいなものもあるんですが、ICTの力を使えばいつでもどこの誰とでもつながることができる。最新のテクノロジーを学ぶことで、県外や海外に臆することなく出ていける自信をつけてくれたらなと思っています」(小山氏)
Webブラウザ上でルームへのアクセスや制作が可能なDOORは、セミナーや講演会、バーチャルショップやデジタルミュージアム、Tuberによるライブや交流会など、ビジネスから個人利用まで様々なシーンで現在活用されている。DOORを活用したメタバースの取り組みは県内の工業高校で初の試みとなった。
「鶴岡工業高校に限らず、いま工業高校の魅力をどう伝えていくかが各校で課題になっています。今回のメタバースの取り組みが工業高校の魅力を発信する手段のひとつとして、各学校に普及していくと嬉しく思います」(野崎氏)
県立鶴岡工業高校では今後、探究活動や地域連携を充実させ、生徒の成長を図るためのメタバース空間を整備。プログラミング学習として専用の開発ツールを用いた「高度な仮想空間の開発」、「アバター(AI機能など)」の開発講座など、工業高校生の強みを活かした学習を展開していく予定だ。
「中学生や保護者など学校内だけではなく、自分たちが身につけたもので地域貢献もできるとより良いのかなと。例えば地域の方々のコミュニティづくりなど、この技術を地域に本校が還元することで、メタバース活用の幅を広げていきたいなと思います」(野崎氏)