「地方医療の充実費」「未来への投資費用」…防衛費に転用される血税たち

岸田首相は防衛費を対GDP比2%に引き上げる方針を決めた。現行の5年27兆4000億円(2019年~)の防衛費が、43兆円(2023年~)に増額される予定だ。岸田首相は不足する予算を余剰金の活用や歳出改革、増税などで賄うとしている。
すでに防衛費に回されることが決まっている予算のなかには、私たちの生活や健康を守るためのお金も多く含まれる。
たとえば、全国で140の病院を運営する国立病院機構(NHO)の積立金の一部(422億円)と、全国57の病院と26の介護老人保健施設などを運営する地域医療機能推進機構(JCHO)の積立金の一部(324億円)も防衛費に転用される。鹿児島大学教授で社会保障法が専門の伊藤周平さんはこう語る。
「地域医療を担う病院には、老朽化しているケースも多くあります。またコロナのパンデミックによって、エクモなどの機器の必要性や、それを扱うスタッフが足りないこともわかりました。まず、どれほどの設備投資や人材育成費用が必要なのか議論したうえで、積立金の使い道を考えるべきです」
仮に積立金が“余った”としても、JCHOは年金保険料で設立された経緯があるため、本来は年金特別会計に返納される決まりだった。しかし、岸田文雄首相は特別措置法を作ってまで、年金のためのお金を防衛費に転用するのだ。経済産業省の元官僚の古賀茂明さんは、外国為替資金特別会計の剰余金(3兆1000億円)の転用の影響を懸念している。

「いわゆる外貨準備金です。たとえば、急激な円安でインフレ危機が迫ったとき、円を買ってドルを売り、円高に誘導する対策が必要になります。昨年、1ドルが150円になり為替介入したときも、この資金が使われました。このためのお金が減ると、こうした対策の幅も小さくなってしまいます」
財政投融資特別会計からの繰り入れ(6000億円)も、日本経済への懸念材料だ。
「中長期的には重要だが、民間任せだとリスクが大きかったり儲けが少ないということで、十分な資金が回らない分野への投資や融資に使うお金です。ベンチャー企業支援や中小企業支援、住宅建設や鉄道・道路建設などのインフラ整備にも使われます。これを減らせば、重要なイノベーションの芽を摘み、また将来の国民生活の質を落とすことにつながります」(古賀さん)
防衛費を増額するため、あらゆるところから金をかき集めている岸田首相。そのツケを払うのは、もちろん私たちだ。
「物価高で経済がガタガタの日本で、消費税を上げるわけにはいきません。手をつけられるのが、社会保障の自己負担増でしょう。まず考えられるのは、社会保険料の引き上げ。消費税のような国民的な議論になりにくく、“年金や医療のため”と言えば、反発も受けにくい側面があります。さらに75歳以上の高齢者の医療費や介護費用の自己負担割合が引き上げられる恐れもあります」(前出・伊藤さん)
岸田首相は防衛費の拡大が真に必要と考えるのなら、このような“ごまかし”による転用はやめて、堂々と負担を求めたうえで、国民に信を問うべきだろう。