戦車の燃費はどれくらい? タイヤ駆動の「16式機動戦闘車」ならもっといい? 高速道路も走れるけども

最近、SNSなどを始めとして公道上での目撃例が数多く上がるようになった16式機動戦闘車ですが、タイヤ駆動で高速走行できるということは、燃費も戦車よりいいのでしょうか。元自衛官ライターがトラックの燃費などから推察します。
創隊以来の大規模な組織再編を推し進めている最中の陸上自衛隊。その象徴ともいえる装備が「16式機動戦闘車」です。この車両は戦車に似た外観であるものの、足回りは履帯ではなくタイヤ駆動のため、一見すると戦車よりも燃費が良さそうに思えます。実際のところはどうなのでしょうか。
戦車の燃費はどれくらい? タイヤ駆動の「16式機動戦闘車」な…の画像はこちら >>陸上自衛隊の16式機動戦闘車。戦車よりは燃費が良いものの、一般的なトラックと比べればとうぜん燃費は悪い(武若雅哉撮影)。
そもそも、自衛隊車両の燃費データについてはほぼ公表されていません。特に、戦闘車両に関しては燃料の搭載量も含め、そういった類の数値はそのほとんどが明らかになっていないのが現状です。しかし、様々な数値から推測することは可能で、その指標の一つとして考えられるのが、データが公表されているソフトスキン車両と、同型のエンジンを積んでいる装輪装甲車です。
たとえば、陸上自衛隊で最も多用されているといえる、いすゞ製の「大型トラック(3 1/2tトラック)」の場合、公表されている仕様書データによると、変速段数(AT)第5速で50km/hにて走行した場合は約3.5km/Lという燃費になります。同条件でトヨタ製の「中型トラック(1 1/2tトラック)」は6.5km/L、三菱製の「小型トラック(1/2tトラック)」は変速段数(AT)第4速で60km/hのときには10km/Lとなっています。

もちろん、演習場などの不整地走行や荷物を積載した際などではこの数値よりも悪くなりますが、その一方で全日本トラック協会が公表しているデータでは、大型トラックで3~3.5km/L、中型トラックで4~5km/L、小型トラックでは4.5~6.5km/Lと公表されていることから、空荷であれば自衛隊トラックも民間トラックとほぼ同じ様な燃費性能だということがわかるでしょう。
なお、高機動車に関しては、民生品として過去販売されていたトヨタ「メガクルーザー」の燃費を参考にすると、おおむね6km/L前後になることから、こちらも数値から大きく外れることはないといえそうです。
では、注目の16式機動戦闘車の燃費はどれほどなのでしょうか。
16式機動戦闘車も、戦車と同様に燃費や燃料搭載量については公表されていませんが、同系統の戦闘車両と比較すると、いわゆるカタログ値ではおおむね2km/Lの範囲で収まりそうな印象です。
その理由として挙げられるのが、同じ装輪装甲車である87式偵察警戒車です。
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87式偵察警戒車と同じタイプのエンジンを搭載する旧型の大型トラック。型式名などは異なるが、中身はほぼ同じだそう(武若雅哉撮影)。
実は87式偵察警戒車のエンジンは、旧型の大型トラック、「73式大型トラック」(現行の大型トラック「3 1/2tトラック」とは異なる)とほぼ同じものの時期がありました。

大型トラックの燃料搭載量は最大190リットル。かたや偵察や戦闘に必要な装備を多く持ち、決して車内空間が広いとは言えない87式偵察警戒車もおおむね同等規模か、少し多いくらいの燃料搭載量であると考えられます。計算しやすくするため、ここでは200Lの燃料を搭載できると仮定します。
では、ここから核心に迫る数字を述べていきます。
空荷状態での車両重量が約8.5tの大型トラックの燃費が3.5km/Lとすると、空荷状態の車両重量が約15tの87式偵察警戒車は概ね2.5km/Lから3km/L程度であると考えられます。もちろん、諸条件によって数値は変わりますが、それは民間車両でも同じことですので、ある程度は無視できるでしょう。
1リットルあたり3km走れるとして、87式偵察警戒車が500km走行するのに必要な燃料は200リットルとなることから、あくまでも筆者の推測にはなりますが、推定カタログ値となる87式偵察警戒車の燃費は2.5km/Lから3km/L程度と考えられます。
この数値を基準として、87式偵察警戒車よりも8tほど重い約26tの16式機動戦闘車を考えてみます。
こちらも自走できる最大航続距離は500km程度と考えられます。なぜならば、16式機動戦闘車は全国を移動する機動師団(旅団)に配備されていて、なおかつ前出の87式偵察警戒車や、似た足回りを持つ8輪駆動の96式装輪装甲車などと共に高速移動することが想定されているからです。

逆にいうと、これらの車両と共に行動できるだけのスペックがなければ、16式機動戦闘車は真価を発揮できないといえるでしょう。
加えて、戦車並みの燃料タンクでは補給面で他の車両とのバランスも取りにくくなるため、燃料搭載量は最小で250リットル。最大でも300リットル程度なのではないでしょうか。
仮に300リットルの燃料タンクを持ち、500km走行できるとすると、1リットルあたりの燃費は約1.6kmとなることから、カタログ値としてこの数字は信頼することができます。
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燃費が悪く、高速走行できない戦車の場合、長距離移動時はトレーラーに積載されて移動する(武若雅哉撮影)。
ただし、実際には弾薬や乗員、そして訓練に必要な資材などを積み、さらにはエアコン搭載車も増えていることから、実燃費に関しては想定カタログ値の7割から8割程度、つまり、1リットルあたり1kmから1.2km程度と推測されます。さらに、不整地を低速走行すれば燃費はより悪化するため、1リットルあたり800m程度にまで落ち込むと考えられます。
ちなみに戦車はリッターあたり300~400mといわれているため、戦車と比較すれば、倍以上の数値となり燃費は良いものの、やはり一般的なトラックと比べると燃費は悪いといわざるを得ません。
こうして見てみると、いくら16式機動戦闘車が一般車と同じように高速道路を疾走できるといえども、長距離を走行する際や、長期の演習に参加する時などには、相応の燃料補給体制が整っている必要があるといえそうです。