転売禁止と書いてある「株主優待券」 売買が黙認されている経済の裏事情とは?

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「えーとこれとこれを3枚ずつください」
わたしがはっきりと書けないような怪しい売買が行われている場所は新宿西口「思い出横丁」の近辺。新橋駅と並ぶ金券ショップの集積地です。
ここで売っている株主優待券を使うと買い物や飲食がとても割安になるのです。ここで最初にコンプライアンスの話をさせていただくと、株主優待券の中には「転売禁止」とはっきりと印刷してあるものがたくさんあります。けれどもここではそれが売買されています。
そして転売禁止を掲げる会社も実は、これからお話しするように金券ショップで購入した株主優待券の使用を黙認しています。この記事で最初にお話ししたいのはその理由から。経済には建前と本音があるという話です。
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わたしの大好きな吉野家を例に説明しましょう。証券会社で吉野家の株を買うとします。株の値段は日々変動するのですがたとえば今月の相場を前提にお話しすると25万円あれば吉野家株を100株買うことができます。そして100株の株主になると年2回、合計4,000円分の株主優待券が届くようになります。
吉野家の場合、500円券が年間8枚届きます。毎月1回は牛丼を食べるわたしの場合、これは嬉しいうえに楽勝で使いきることができる枚数です。
しかし投資家の中にはもっとたくさんの株式投資をしているひとたちがいます。たとえば吉野家株を2000株、500万円ほど保有している人には毎年24,000円分の優待券が届きます。

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ここで困ったことが起きます。そもそも個人だったら24,000円で年間160回分の牛丼は食べきれません。
しかもこういった多額の投資をするのはたいがいの場合は個人ではなく法人、つまり投資会社のような機関投資家です。そのような機関投資家にはさまざまな企業から優待券が届きますが、それは誰のものなのかという問題が起きます。
仮に社員が届いた優待券をちょろまかしたら懲罰になりそうですし、課長だったら自分で使っていいのか? と考えるとそうでもない。じゃあ社長が牛丼もハンバーガーも回転寿司もぜんぶ使うのか? といっても困るでしょう。
それで金券ショップが黙認されているのです。大きな機関投資家が集まる場所として新橋と新宿にたくさんのお店が開いていて、投資家が持ち込む大量の株主優待券をさばいてくれるのです。
これはパチンコ屋さんの景品がお金に換えられる仕組みと同じで、まあいわゆる世の中のルールのお目こぼしだとお考えください。
新宿の金券ショップを覗いてみると吉野家の優待券は500円券を435円で販売していました。株主ではない人がこれを買って使うのはちょっとドキドキするかもしれませんね。
そこでいいことを教えてさしあげましょう。会社の側からみるとあなたが株主なのかそうではないのかを見分けることはほぼ不可能です。そもそも本社の一部の人しか株主名簿は把握していませんし、あなたは法人株主の関係者かもしれません。株主優待券は誰でもあっさり使えますよ。

気を付けるべきはむしろ有効期限と利用制限です。同じチェーンでもごく一部、利用できない店舗があったりしますから、株主優待サイトなどできちんと確認したほうがいいでしょう。
わたしはこれまでさまざまな会社の株主を経験してきましたが、タダで食べられる食事って結構楽しいですよ。お試しあれ。

Sirabeeでは、戦略コンサルタントの鈴木貴博(すずきたかひろ)さんの連載コラム【得する経済学】を公開しています。街角で見かけるお得な商品が「なぜお得なのか?」を毎回経済理論で解説する連載です。
今週は、「株主優待券の販売」についての解説でした。