米で別姓婚「日本でも有効」と判断も…婚姻届の“不受理”は「不当ではない」 東京家裁の審判に原告夫婦が疑問

米国で夫婦別姓のまま結婚した、映画監督の想田和弘さんと、映画プロデューサーで太極拳師範の柏木規与子さんが16日、代理人とともに都内で会見を開いた。
2人はこれまでに、日本国内で提出した婚姻届が不受理となったことを受け、東京家庭裁判所に不服を申し立てていたが、10日付で退けられたことを明かした。
婚姻届2度提出も不受理に想田さんと柏木さんは1997年、当時居住していた米ニューヨーク州で、現地法のもと、夫婦別姓のまま婚姻を挙行した。
海外で結婚した場合、国に届け出をする必要があることから(戸籍法41条1項)、2人は2018年、東京・千代田区に対し「夫婦の称する氏」を定めないまま、婚姻届を提出。
しかし、千代田区は「夫婦が称する氏」の記載がないことから、夫婦同姓を定めた民法750条や、戸籍法74条1号に反するとして、届出を不受理とした。
不受理処分を受け、2人は婚姻関係にあるとの公証を受けることができる地位の確認などを求め東京地方裁判所に提訴。
2021年の判決では、2人の婚姻は、日本国内においても有効であることが認められたものの、不受理については「戸籍法に基づく、不服申立によって対応すべきである」などと判断し、訴えを却下・棄却していた。
そこで2人は、2022年に改めて「夫婦の称する氏」を定めないまま、婚姻届を千代田区に提出。再度不受理となったことで、同年6月に東京家裁に不服を申し立てていた。
家裁「“夫婦が称する氏”の届け出必要」と判断東京家裁は、今月10日付の審判で、2人の婚姻について有効に成立していると判断。
千代田区側は「婚姻が認められるには、夫婦で称する氏についての合意が必要」と主張していたが、これを否定した。
他方で、民法750条が婚姻の効力として「夫又は妻の氏を称する」と定めていることや、「婚姻をしようとする者は、夫婦が称する氏を届け出なければならない」とする戸籍法74条1号から、海外の法の下で婚姻した日本人夫婦であっても、婚姻届の提出には「夫婦が称する氏」の届け出が必要であるとした。
不受理処分が不当とはいえないとして、2人の申し立てを退けた。
「戸籍で把握できない婚姻、あって良いのか」不服申し立てへ東京家裁の審判について、2人の代理人である竹下博將弁護士は「本質的な問題については何も記載しなかった、残念な内容だ」と評価した。
「本件審判によって、“戸籍で把握できない婚姻”というものがあって良いのか、という問題が浮き彫りになりました。
離婚の無効が発生した場合など、特殊なケースにおいても、戸籍実務においては、なんとか日本人の身分関係を全て戸籍に記載できるよう、工夫が重ねられてきたはずです。
それにもかかわらず、本件審判では、法律の解釈や、2人の戸籍の不備を今後どうすべきか、なんら示唆がありませんでした。
2人とも協議をした結果、今後は不服申立(即時抗告)をし、東京高等裁判所の判断を仰ぎたいと思います」
「国にはそろそろ動いてほしい」この日、想田さんと柏木さんはそろって、岡山の自宅からオンラインで会見に出席。
想田さんは自らのおかれている法的な状況について、冗談交じりにこう語った。
「今回の審判で、改めて婚姻自体は認められたわけですが、それを記載する手だてがないというのが現状です。
しかし、このままでは戸籍に婚姻関係が記載されていませんから、重婚も可能となってしまいます。なんとかした方が良いのではないでしょうか」
そのうえで「人のライフスタイルがどんどん変化してるなかで、法律が現実に追いついていないと思う」と述べ、国や政治に対し以下のように訴えた。
「やはり政治が解決しなければならない問題なんだろうなと、つくづく実感しました。
1996年には法制審議会の答申で、夫婦別姓を認める、民法の一部を改正する法律案要綱が示されています。それから30年がたとうとしているのに、国はずっと放置している状態です。
私たちは、政治を動かすために、訴訟や申し立てを進めてきましたが、政治がイニシアチブを持って動いてくれていれば、本来はこうした手続きをする必要はありませんでした。
『国にはそろそろ動いてほしい』というのが私の思いです」(想田さん)
柏木さんも「なにか良い進展があるだろうと思っていたが、まったくそういうことはなかった」とし、次のようにコメントした。
「自分は結婚したときに、特になにも考えず別姓を選び、自由に生きてきました。
日本では同じ問題で苦労し続けている人がいます。
最近ではさまざまな分野で、多様性への配慮が進み、自由度が増してきました。姓に関しても自由が欲しいなと思います」