マツダのロータリーといえば、やっぱりコレ! 「コスモAP」ってどんなクルマ?

マツダがロータリーエンジンを復活させると聞いて胸を熱くさせている人は多いはず。発電用のエンジンとして「MX-30」のプラグインハイブリッド車(PHEV)に搭載し、日本でも売るらしい。ただ、私としてはやはり、駆動用のロータリーが懐かしい。中でも、人生で初めて運転した高級車「コスモAP」は忘れられない存在だ。

○学生がコスモAPに乗れた理由

「AUTOMOBILE COUNCIL 2023」(オートモビルカウンシル2023)で「ロータリーエンジン(RE)の可能性の追求と新しい価値への挑戦」を掲げたマツダブースには、筆者が学生時代に初めて乗った高級車「コスモAP」が置いてあり、懐かしさに思わず「おおっ」と声が出た。

それは1970年代後半、筆者の故郷である岡山県の片田舎にあるガソリンスタンドでのこと。アルバイト中だった筆者に、たまたまこのクルマ(展示車とまるっきり同じ内外装の真っ赤なコスモAPだった)で給油にいらっしゃったドライバーさんが、「洗車しといてくれよ」とキーをポンと渡したのだ。

何せ当時の筆者のマイカーは中古の三菱自動車工業「ランサーセレステ1400SR」の4MTモデル(こちらもなかなかお目にかかれない希少モデルになってしまった。三菱さんが何かのイベントで展示してくれると嬉しいのだが……)。今でこそ数千万円もするスーパーカーをアクセル全開で試乗することもある立場だけれども、当時はコスモAPのような高級車に乗る機会などまるでなかったので、ハイパワーな13Bロータリー搭載車のアクセルをおそるおそる踏みつつ、洗車スペースまで慎重に移動させたという記憶が鮮明に残っている。

「コスモAP」はその名の通り、マツダ初のRE搭載モデルであったスポーツカー「コスモスポーツ」の製造中止から3年後の1975年に登場した2代目のコスモだ。サブネームの「AP」は、世界的な問題となっていた公害対策を意味する「アンチ・ポリューション」の頭文字である。

ボディ形状は北米市場を意識し、初代とは全く異なる大柄で高級な2ドアスペシャリティクーペに。四角いカバー内に埋め込まれた丸型4灯ヘッドライト、特徴的な縦型ラジエターグリル、米国車によく見る複雑な形状のBピラー内の小窓(レギュレーターで開閉可能!)、大型マイルバンパーなどがアメリカンな雰囲気を醸し出している。宇佐美恵子さんを起用したTVCMもあいまって、独自の高級モデルに仕上がっていた。

ボンネットを開けてみると、「Mazda Rotary Engine」と誇らしげに書かれた水色でまん丸のエアクリーナーケースがまず目に飛び込んでくる。その下にあるコンパクトな13B型REは、1,308cc2ローターからパワフルな135PSを発生。その一方で、APの名の通り、サーマルリアクターで排出ガスを再燃焼させて公害対策を行っていた。ロータリーは「ガスイーター」という悪名を払拭すべく、燃費性能を40%も改善できていたため、排ガス規制の影響で各社のスポーツモデルが消えていく中で販売面でも大健闘したのだ。

コスモAPのお隣には、そのREを走行用ではなく発電用として使用するシリーズ方式PHEVの新型「MX-30 e-SKYACTIVE R-EV」(Rがロータリーを意味している)が国内初披露されていた。ロータリー復活ということで、そこには多くの報道陣が集まっていたけれども、上記の理由もあり、筆者のハートにより響いていたのはコスモAPなのであった。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら