三菱UFJ信託銀行の子会社、三菱UFJ代行ビジネスの元社員の女性(31歳)が、妻子ある上司からしつこいセクハラ(ストーカー)行為を受け、会社に被害を訴えたが適切な対応がとられなかったとして、上司らと銀行・会社を訴えていた裁判で、原告側は最高裁に上告。女性と代理人は1月29日、東京都内で記者会見を開き、上告の理由と思いを語った。
東京地裁(1審)と東京高裁(控訴審)は、上司の不法行為と会社の使用者責任を一部認めたものの、女性の相談に応じなかった社員の不法行為や銀行・会社の安全配慮義務違反等については認めていない。
駅で待ち伏せされ「プレゼント」を…入社3年目。仕事を覚え、やりがいを感じ始めていた原告の女性は、直属の上司で妻子ある被告Aから食事に誘われる、好意を示されるといったメールをひんぱんに受けるようになり追い詰められていった。
女性は会社の人事課次長である被告Bに相談したが、Aからのメールを見ようともしてくれなかったという。Aのセクハラ行為はエスカレートし、自宅近くの駅に待ち伏せされてプレゼントを贈られたこともあった。女性は精神疾患(重度ストレス反応)を患い、後に東京・立川労働基準監督署により、労災が認定された。
退職に追い込まれた原告は2021年4月、銀行、会社、被告A、被告B、被告C(会社の人事担当常務取締役)の5者を相手取り東京地裁へ提訴した。
しかし前述した通り、東京地裁は被告Aの不法行為と会社の使用者責任、賠償請求(約1000万円)の一部(約220万円)は認めたものの、被告Bの不法行為と被告Cの管理監督者責任の怠り、銀行、会社の安全配慮義務違反等については認めない「不当判決」(原告側)となった。
昨年9月の東京高裁の控訴審でもほぼ同様の判断が下され、原告側は同月、上告・上告受理申し立てを行い、1月24日、最高裁から事件記録が到着した旨の通知がなされた。
国際的な考えに照らし「親会社の責任認められるべき」記者会見で原告代理人の青龍(せいりゅう)美和子弁護士は、1審・控訴審判決の3つの問題点を語った。
1つ目は、被告B、被告Cの不法行為等を認めずセクハラの事実と2次・3次加害について被害者に立証責任を負わせる訴訟構造を挙げた。
「直接的な証拠がなければ認められない、と1審も控訴審も判断しているが、被告Bや被告Cの言動について直接証明する証拠は被害者側には乏しい。録音などがあればいいが、(被害を受けた)その場で録音することが難しいことは誰にでも想像できるだろう」(青龍弁護士)
2つ目は、会社が安全配慮義務(※)に反していたことを認めなかった点だ。
※労働契約法5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
原判決では、被告Aを異動させたことをもって「会社は安全配慮を行った、という結論に至っているが、それに至る過程、たとえば原告に異動するよう執拗(しつよう)に求めていたことなどが考慮されていない」(青龍弁護士)
3つ目は、銀行の安全配慮義務違反を認めなかった点。
銀行の完全子会社(被告のA、B、Cはいずれも銀行からの出向者)で起きた事案において、青龍弁護士は「国際的な『ビジネスと人権』の考え方でも、直接雇用していないサプライチェーンの労働者に対して、発注者である企業が責任を負わなくていいのか、ということが問題となっている」と指摘。
「今回は、親会社と子会社の関係であり、なおさら親会社としての責任は認められるべきだ。裁判所の認識は遅れている」(青龍弁護士)
会社の事後対応”が二次加害に「私が一番ひどく精神的に追い詰められたのは、会社の事後対応です」
会見でこのように訴えた女性は、最高裁での争点の1つとして、会社が被告Aではなく、女性に対して配置転換(職場異動)を強要したことを挙げる。
会社人事部は、女性の父親に対しても、女性が異動に同意するよう求めたという。
さらに、精神疾患を患い出社ができなくなった後、人事部員らが自宅近くの駅まで来て、無理やり会社まで連れて行かれたこともあったと振り返る。当時、精神的に不安定で電車に乗ることができなかった原告は、2時間以上かけて泣きながら徒歩で帰宅したという。
また、原告は「一縷(いちる)の望み」をかけて、親会社である銀行の人事部へも被害を受けていることを文書で訴えたが、具体的な回答はなかった。
原告「司法には明確な判断基準を示してほしい」原告は「この訴訟では、精神的、金銭的、時間的に考えて私にとってメリットは何もありません」と語るとともに、次のように訴えた。
「(セクハラ被害者が)弱い立場で苦しむことがないように、司法には、明確に『企業が行ってはいけないこと』の判断基準を示していただけることを期待しています」
一方の三菱UFJ信託銀行ならびに三菱UFJ代行ビジネスは本件について、「今後、上告の内容を確認の上、会社として適切に対応してまいります」とコメントした。