釜石市出身山形市在住の作家・柚月裕子さんインタビュー 続編が出た好評ミステリー「合理的にあり得ない」を生み出した背景とは

釜石市出身、山形市在住の作家、柚月裕子さん(54)がこのほど「合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明」(講談社)を刊行した。元弁護士の美女探偵がIQ140のアシスタントを右腕にあり得ない依頼を解決していく好評ミステリーの続編だ。4月17日からフジテレビ系で原作の連続ドラマ「合理的にあり得ない 探偵・上水流良子の解明」(カンテレ製作=月曜・後10時)もスタートした。とうほく報知では柚月さんをインタビューし、あり得ないはずの出来事なのにリアリティーを感じる傑作を生み出した背景と、東北への思いを聞いた。(甲斐 毅彦)
不祥事で弁護士資格をはく奪された上水流涼子と頭脳明晰(めいせき)のアシスタント貴山伸彦。つかず離れずの2人が営む探偵事務所は、アジトととでも呼んだほうが相応しいほどきな臭い。インパクトのある設定だが、モデルとなった人物はいないそうだ。
「もともとミステリー色の濃い雑誌での連載でしたので、とにかくトリックをしっかり考えようと。その謎を解いていく後付けで登場人物を考えました。私のこれまでの作品でもあまりいないタイプのキャラクターですね」
口コミを頼りにわらをもすがる思いで駆け込んでくるクライアントの依頼の一つひとつが「あり得ない」わけだが、リアリティーがあるのは不思議だ。ネタバレは避けるが、すべてのテーマが私たちが暮らしの中で見聞きする身近なものだからかもしれない。
「(作品の執筆は)私が日々暮らしている中で、疑問に思ったり、憤りを感じたりしたことをどういう舞台と登場人物で表せば上手に伝わるのかな、という作業です。読者の方にリアリズムを感じていただければうれしいです」

17日から天海祐希、松下洸平主演のドラマがスタートした。
「とにかく面白い! 痛快! 主役の2人が衣装を変えていくところとか、映像ならではの醍醐味(だいごみ)が満載ですね。(本になり)自分の手を離れたら後はもう映像のプロにお任せして一ファンとして見守る立場です。最終回を迎えるのが嫌だな、と思うぐらい楽しませていただいています」
釜石応援ふるさと大使を務めている柚月さんの「東北愛」は強い。読売新聞夕刊で1年間の連載を先日終えた「風に立つ」は、盛岡で南部鉄器工房を営む父と息子を中心に描いた家族小説だ。これまでは広島を舞台に刑事とヤクザの抗争を描いた「孤狼の血」など壮絶な作品のイメージが強かった柚月さんにとって、初めて東北を舞台とした作品となった。
「避けていたのではなくて、まず伝えたい一行があって次にどういう舞台で、どういうキャラクターでとつながっていく中で、なかなか東北でピタッと合うところがこれまでなかった。故郷を舞台にするのは、気恥ずかしいというか、大人になった子供が親のところに行くみたいな感覚ですかね。意外だったのは、自分が忘れていた景色やエピソードが数珠つなぎになって浮かんでくること。不思議ですね」
缶詰め状態で執筆する日も多い柚月さんにとって、最高のリフレッシュは5年前から始めたゴルフだそうだ。
「心身ともに疲弊した時に、何とかしなきゃと思った時に先輩作家や担当編集さんが勧めてくださって。スポーツしたことなかったんですが、わらをもすがる思いで始めて今ははまっています。東京に行った時とかは担当編集さんと回っています。どうしても家に閉じこもりがちじゃないですか。外に出て、体を動かして気心の知れた方々と大笑いをして…。その後に飲む一杯のビールのおいしさたるや!」
◆柚月 裕子(ゆづき・ゆうこ)1968年5月12日、岩手県釜石市生まれ。54歳。2004年から小説教室に通い始め、08年に初めて書いた長編「臨床真理」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年に「検事の本懐」で大藪春彦賞。16年に日本推理作家協会賞を受賞した「孤狼の血」は映画化された。18年の「盤上の向日葵」は本屋大賞第2位。他の著作に「検事の信義」「月下のサクラ」「ミカエルの鼓動」「チョウセンアサガオの咲く夏」など。近著は「教誨」。