何かズレてないか? トラック「2024年問題」騒動 物流を崩壊させるのは制度なのか 現場の声聞いて!

「働きかた改革」の大波が2024年に運送業界を直撃します。これによりトラック運転手の労働時間に制限が課せられ、日本の物流がパニックに陥る可能性もあるとか。ドライバーたちの心の声をメーカーのアンケートから読み解きます。
最近話題になっているトラック・物流業界における「2024年問題」。これは「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)によって、2024年4月1日以降、物流業界が影響を受ける数々の問題を包括して指す言葉です。
具体的には、2024年4月からドライバーの時間外労働時間に上限規制が適応され、それによるドライバーの労働時間の減少と、物流会社の売り上げ減少が予想されています。そして、これらに対応するために物流業界は運賃を値上げするようになり、結果、物流を利用するあらゆる業種での値上げが行われるようになるほか、それに端を発した人材不足(人材争奪戦)によって輸送需要そのものがパンクする可能性も危惧されています。
何かズレてないか? トラック「2024年問題」騒動 物流を崩…の画像はこちら >>駐車場にズラリと並んだ大型トラック(画像:写真AC)。
トラックによる物流は日本のあらゆる産業に関わっており、身近なところではネット通販などの宅配業者などや、スーパーならびにコンビニといった小売業者まで含まれることから、この「2024年問題」は最終的には我々の日々の生活にも影響を与えかねません。
そこで国内トラックメーカーの「UDトラックス」は今回、この「2024年問題」にかかわる現場の意見を集めるためにアンケートを実施しました。

全国の物流会社で働くドライバー400人への調査結果が、2023年4月4日に行われた同社の大型トラック「クオン GW 6×4」の新型モデルの発表会で公開されました。なお、会場ではトラック・物流業界に詳しい有識者によるトークセッションも合わせて実施され、アンケート結果を元に自身の体験談や提言も行われていました。
第一線で働く現場のドライバーたちが、「2024年問題」についてどう考えているのでしょうか。その一端が見えてきました。
まず「運送業界の2024年問題という言葉が何を指すのか知っていますか」という基本的な問いかけには、83.8%が「知っている」と回答。さらに、「あなたのお勤め先での残業規制に対する捉え方について」という具体的な質問では、全体の53%が“ネガティブ(否定的)”と回答しています。
その理由を複数回答で聞いたところ、1位が「給与が下がる(75.5%)」、2位が「運送業界の売上・利益減少(40.1%)」、3位が「無理なスケジュールを要求されること(35.8%)」となっていました。
これらアンケート結果を見る限りでは、「2024年問題」で報道されている懸念事項は、現場のドライバーの多くも同様に抱いているものだと捉えることができます。
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UDトラックスによるトークセッションの参加者たち。向かって左からUDトラックス開発部門の松永浩史チーフプロジェクトマネジャー、UDトラックス丸山浩二社長、日本自動車ジャーナリスト協会の西村 拝理事、ジャーナリストの橋本愛喜氏、NX総合研究所の大島弘明常務取締役(布留川 司撮影)。

トークセッションに参加したジャーナリストの橋本愛喜氏は、自身もドライバーとして働いた経験から、「トラックドライバーは歩合制で働いている方が多く、必然的に働く時間が短くなれば給料も減ってしまうので、(2024年問題を)ポジティブに捕らえられないのでしょう」と、このアンケート結果を分析していました。
トラックドライバーの給料体系は、基本給とは別に輸送の出来高に応じた歩合制で支払われることが多く、労働時間に制限ができることは純粋に給料の削減に繋がってしまいます。働き方改革の本来の目的のひとつは「労働環境の改善」でしたが、賃金上昇といった他の要素と組み合わせられるならまだしも、単純な時間制限だけでは、それをデメリットと感じているようです。
もっとも、改定を否定的に考えていても、多くのドライバーが現状維持を望んでいるワケではありません。「働き方改革関連法」が目指す労働環境の改善は、ドライバーたちも望んでいることのようです。
「今の業務を効率化させる必要があると思いますか」という質問に対しては、回答者の78.6%が「必要あり」と回答。その対策としては「運送業界への新規参入者(人手)を増やす」が60.0%で、次が「荷待ちの時間を減らす」56.8%となっていました。
回答2位の荷待ちとは、トラックが荷物の積み下ろしを行う際に、現場もしくはその周辺でドライバーが待機することを指します。物流の現場では、相手(荷主、送り主)の都合によって、トラックが現場についても直ちに積み下ろしができないことが多くあります。

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幹線道路を走る各種トラック。宅配業者や小売店への配送まで、さまざまなシーンでトラックによる物流網は社会インフラを支えている(画像:写真AC)。
現場での受け入れ作業員の手配や、業務開始時間までの待機、加えて他のトラックとの順番待ちなど、その理由はさまざまですが、ドライバー側からすればこの待ち時間は車内待機となり、運行全体にとってはタイムロスの元凶となるのです。
アンケートによると荷待ちの平均待機時間は2.1時間だそうで、回答者の74.5%がこれをストレスと感じていると答えていました。
対策の1番に上げられていたのは「運送業界への新規参入者(人手)を増やす」ですが、その一番の障壁となっているのは、2番目に上げられた「荷待ち」のようなドライバーを取り巻く労働環境の問題ともいえます。
長時間拘束される就業時間や、それに見合わない賃金体系によって、ドライバーという仕事を待遇面で満足できないと考える人は多く、物流業界の人手不足は「2024年問題」より以前からある問題で、それがいまだに解決しないまま大きな影響を与えているといえるでしょう。
「業界は荷主との関係から非常に厳しい立場を強いられてきました。1990年の規制緩和によって事業者は増えたものの、貨物の量はそれほど増えていません。競争が激しくなる中で、お客様を大事にしようということから、このような環境が長く続いてしまい、労働条件も上げることもできずに今に至ったのです」。NX総合研究所の大島弘明氏はこう分析します。

こうした話を聞くと、「2024年問題」は従来からあった運送業界の問題点が、改めて浮き彫りになった形だといえるでしょう。
また、大島氏は「この先は法規制だけでなく、トラックを新たに確保するという視点においても、ドライバーの労働条件の改善が非常に重要になっていくと思います」と、今後の対策についても述べていました。
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大型トラックに限らず、普通免許や準中型免許で運転できる小型トラックも日本の物流網にはなくてはならない存在(画像:写真AC)。
「2024年問題」が注目された一番の理由は、その影響から我々一般人の生活にも影響が出る可能性があるからです。普通に生活しているとあまり感じないかもしれませんが、トラック物流の恩恵を受ける業種はきわめて多く、いまや生活を支える必要不可欠なインフラです。
しかし、その対策については、法規制や制度面を中心に議論されており、実際にハンドルを握り走り回っているドライバーたちのことは忘れられているかのような印象を受けます。
日本自動車ジャーナリスト協会理事の西村 拝氏は、「2024年問題と言われていますが、これは従来、問題になっていたものを解決する新たなスタートラインだと思います。問題が起きるのではなく解決するためのタイミングです」とコメント。
「2024年問題」で表面化した物流に関する諸問題。「何(誰)が悪い」といった単純化した議論ではなく、それに関わる当事者・ユーザーを含めた包括的な議論と対策を期待したいです。