2月26日、全日本国立医療労働組合は、難病を扱う「国立病院機構」で働く医療従事者の賃上げを求めて、28日に全国で実施を計画しているストライキ行動について説明する記者会見を行った。
賃金が上がらず、人手不足により現場の負担が悪化全日本国立医療労働組合(以下「全医労」)には、独立行政法人「国立病院機構」や「国立高度専門医療研究センター」、国が直営する「国立ハンセン病療養所」などで働く看護師などの医療従事者約1万7000人が加入している。
国立病院機構(以下「機構」)は2004年4月に発足。重症心身障害や筋ジストロフィーなど、民間に委ねると事業継続が困難と認められる難病に関する医療・介護やセーフティーネット医療を担う。また、新型コロナのような新興感染症や、災害時医療支援においても重要な役割を果たす。
職員らの給料は、同職の国家公務員の賃金や民間の医療機関における賃金、また経営状況を勘案して定められている。しかし、2024年度の賃金をみると、国家公務員看護師と機構で働く看護師との間には初任給ベースで約60万円もの差額が生じていた。
全医労連は2024年度分の賃上げを求めて、2回にわたり、機構との賃金交渉を行ってきた。具体的には、常勤職員の月額基本給や非常勤職員の時給など賃金改定の要求、非常勤職員を対象にした経験加算制度の創設などを要求している。
しかし、機構側は経営赤字を理由に賃金改定を行わず、組合に対してゼロ回答を続けている。
また、2回目の賃金交渉の前日にあたる2月5日には「経営状況と今後の改善方針について」と題したメッセージが、機構の理事長から全職員に向けて発信された。「現在の収支が継続した場合、令和13年度(2031年)には法人資金が枯渇する恐れがある」「職員の給料に支払いが生じ、このままでは法人運営が立ち行かなくなる危機的な経営状況にある」などと記載されていたという。
全医労の前園むつみ委員長は 「もともと賃金が上がらない状況で、理事長からこのようなメッセージが発されたことで、職員のモチベーションがさらに下がった」と語る。
現在、機構では看護師などの離職が続き、新規採用も十分にできておらず、現場の職員らの負担は増している。賃上げがなされないと人手不足の現状がさらに悪化し、「このままでは患者の命も守れない状況になる」と、前園委員長は危惧を示した。
27日、全慰労は3回目の団体交渉を行う。そして、機構から前進回答がない場合には再検討を求めるため、28日よりストライキの実施を計画している。
ストライキは47都道府県における全医労の137支部で各1~2名、合計で200名以上の組合員が、始業時にあたる午前8時半から1時間、実施する予定。
「私たち職員を守り、また国民の命を守るためのもの」と、前園委員長はストライキの意義を語った。
「職員に我慢を求めるのではなく、国に財源を求めるべき」難病を扱う国立病院機構は「不採算」分野を担う。そのため、経常収支は黒字となりづらい。また、国から出されていた運営交付金も、2021年度に全廃された。
しかし、2020年度から2023年度には機構の経常収支は大幅に伸びており、黒字になっていた。現在も積立金が残っており、「利益の一部が国庫納付されたことをふまえても、賃上げできる財源を機構は保有している」と組合側は主張する。
一方、2024年度は赤字となった。また、機構が所有する病院のうち78の建物で整備が必要とされているほか、災害医療や感染症医療対策などにも資金が必要とされる。
また、医療体制を支える人材の確保と育成も必須だ。しかし、低賃金のため、昨年度に新規採用された常勤看護師の人数は確保目標の75%にとどまった。また、5割以上の病院で非常勤職員が欠員しており、募集しても求職者が来ない状況が続いているという。
全医労の鈴木仁志書記長は、「(人手不足が原因で)国から課せられるミッションにも、地域のニーズにも対応できていない。(機構は)現場での人材を確保する必要がある」と指摘する。
「機構は職員に対して我慢を求めるのではなく、国に対して財源を求めるべきだ。
にもかかわらず、理事長は、昇給の要求が過大であるかのようなメッセージを発した。現場の職員たちは『自分たちには未来があるのか』と恐れを抱いている」(鈴木書記長)
物価高騰や感染症に苦しむ医療従事者たち会見には全国各地方の組合員もオンラインで参加し、賃上げやストライキにかける思いを語った。
昨年12月に行われた1回目の賃金交渉の際、機構は一部の病院で地域手当を引き下げて、また寒冷地手当を無支給とする回答を行っている。
群馬支部の組合員は「物価高騰の流れに逆行するかのように地域手当などが引き下げられたことで、現場からは『生活が苦しい』『これ以上つらい思いをしたくない』『病院は私たちを辞めさせたいのか』などの声が上がっている」と指摘して、医療崩壊のおそれがあると危惧を示す。
「医療現場の状況や、寒冷地の職員が暮らしている状況を、(機構側は)知っているのか。
私たちは患者を第一にして働いている。しかし、働くとは生きていくということでもある。過酷な労働環境と、それに見合わない低賃金のため、すでに数え切れない数の職員が辞めていった。どうか一人一人のスタッフを大切にして、私たちの意思を尊重してほしい」(組合員)
他の地方の組合員らも、新型コロナウイルスが「5類感染症」に移行した後も医療現場では以前と変わらず感染症対策やクラスターの発生により多大な負担が生じ続けている事実や、物価高騰のなか医療業界では賃上げが行われないことの理不尽さ、また人手不足のなか難病の人々の生命を支える仕事を担うことが現場の職員らに与える負荷などについて訴えた。
全医労の顧問をつとめる斎藤園生弁護士は、ストライキは労働組合にとって「伝家の宝刀」であると表現する。
「日本では労働組合の組織率が年々下がり、労働条件の改善がなかなか実現できてこなかった。
全医労が『伝家の宝刀』を抜き、ストライキを実施することで、医療従事者にとどまらず全国の労働者が励まされるだろう」(斎藤弁護士)