生産性向上や職場環境改善などを図る相談窓口を各都道府県に設置!どんな相談ができる?

岸田政権は若者世代の負担を軽減するため、全世代型社会保障を政策の柱に掲げています。その具体的な施策を整理している全世代型社会保障会議では、さまざまな省庁が課題に対する包括的な方針をまとめた政策パッケージを提案しています。
そのなかで、厚生労働省は介護現場での生産性向上や人材確保に向け、介護事業所などに働きかけ、ワンストップで支援につなげる「介護生産性向上総合相談センター(仮称)」を、各都道府県に設置する方針を提案しました。
同センターは2022年9月の都道府県宛事務連絡で、地域医療介護総合確保基金を活用した2023年度の新規事業として示されていました。地域医療介護総合確保基金とは、都道府県が行うさまざまな施策について、国から交付金を受けられる仕組みのことです。
現在、介護事業者向けの支援事業は実施する主体や相談窓口が都道府県や市町村などに分かれていて、適切な支援につながっていないという問題が指摘されています。
そこで、今回提案された相談窓口は、介護ロボットやICT導入等の生産性向上について相談に応じたり、介護助手活用などによる人材確保の支援などを行う役割を担うとされています。
介護現場の人材不足が深刻さを増すなか、介護職の処遇改善や人材確保に向けたさまざまな施策が国を挙げて行われてきました。

一方で、現場を効率的に回していく生産性向上の必要性も訴えられてきました。いかにケアの質を落とさずに少ない人員で介護サービスを提供するかが大きなポイントです。
そこで注目されたのが、介護ソフトをはじめとしたICTの導入です。しかし、介護事業所は7割が中小の事業所が占めており、経営改善や生産性向上に向けた意欲やノウハウに格差が生じているとされていました。
厚生労働省が介護事業者に行ったアンケート調査によれば、現場で課題とされているのが導入資金のほかに、職員のICT機器などに対する理解度が挙げられています。
たとえば、「パソコンやソフトに対する職員の苦手意識の解消、職員への研修等」、「パソコンやソフト、システム等に精通した人材の確保や派遣の仕組み」などが8割を超えています。
一方、ICT導入による効果も次第に明らかになっています。厚生労働省はかねてより介護事業者に対するICT導入支援を実施しており、2019年度から毎年その結果を報告しています。最新版の令和3年版では、より詳しく導入効果が示されています。
上記のように「情報共有」の項目で大きなメリットを実感していることがわかります。職員間での情報共有は業務を進めていくうえで非常に重要な要素です。

たとえば、昼の時間帯を受け持っていた職員から夜間の職員への申し送りなどは、利用者に対するケアの質を左右することもあります。
そのほか、「業務の役割分担ができた」「記録の標準化の意識が高まった」「職員の業務改善の意欲が高まった」などの意見もあがっています。
また、ICT導入によって大きな効果が得られているのが「間接業務」の時間短縮です。
介護現場の仕事は、利用者のトイレやお風呂支援など身体的なケアを施す「直接業務」と、文書への記入や事務処理といった「間接業務」に分けられます。
介護職が限られた時間で両方やると、間接業務に時間を取られて、ケアの質を左右する直接業務の時間が削られてしまいます。その問題を解決する手段として活用されているのがICTなのです。
実際にICTを導入した事業所において、経年変化を調査した結果、多くの事業所で間接業務が削減され、直接業務が増加しているという結果が得られています。
これにより、職員が利用者とコミュニケーションする時間や利用者の直接ケアの時間が増加しています。そのほか、レクリエーションや研修・指導に割り当てる時間が増え、ケアの質向上を図る意識が高まるのです。
厚生労働省による補助事業は、全国的に行われています。ただ、導入支援を受けている事業所数について都道府県による格差が生じています。
最多は東京都で554件に上る一方で、沖縄県ではわずか3件で最低となっています。こうした現状は、担当している部門が各都道府県によって分かれていることや、各事業所による意識の差も大きな問題になっています。

事業者の意識を高めるためには、包括的なアドバイスや一体的な支援が重要ですが、都道府県によっては人材不足などによって、効果的な周知活動や支援ができていないと考えられます。
こうした地域格差を解消しつつ、効率的に支援を行うためにも、ワンストップで相談から支援までを行う窓口を設置するという発想は悪くありません。
実際、導入にあたっては事業所の実情に合わせた工夫が必要であることもわかっており、手間やコストがかかるのも事実です。
たとえば、導入した事業所では「情報共有の方法を見直した」「ICT機器・ソフトウェア等の導入のために課題分析をした上で導入計画を作成した」などの工夫が行われていました。
こうした事例研究を進めながら、専門的な機関を設けるのはプラスに働くはずです。形骸化しないためにも、いかに実効性のある機関にできるかがポイントではないでしょうか。