“突然大声が出てしまう”トゥレット症 意思に反して「死ねよ」の言葉 プロデューサーは初対面で衝撃を受けた 自分の体を叩いたり殴ったり…“眠れない夜”の密着映像に専門家も注目 【僕と時々もう1人の僕】

「トゥレット症」をご存知でしょうか? 原因も治療法もわからないこの症状を抱え、深い悩みに直面する人々がいます。CBCテレビ入社5年目の栁瀬晴貴記者(26)が、ドキュメンタリー番組『僕と時々もう1人の僕~トゥレット症と生きる』(5月28日深夜 CBCテレビで放送)に込めた思いを、大園康志プロデューサー(57)と語りました。
トゥレット症は意思に反して、大きな声が出たり、体が勝手に動いてしまったりする病気で、確固たる治療法がありません。
(栁瀬晴貴記者)私は愛知県警の担当記者だった時に、「夜回り」と呼ばれる仕事を終えて帰宅し、疲れ果てて、UberEats(ウーバーイーツ)をいつも通り頼みました。その時に普段、配達員からメッセージが届くことはないんですけれども、ピロリンと鳴って、「体の動きだったり、声が出てしまうが許してほしいです。許していただけると嬉しいです」というメッセージが配達員から届きました。
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そこでGoogleで調べてみると、どうやら「トゥレット症」という病気で、あっそうなんだって知ったところで、実際に彼が来ました。部屋の中にいても、同じ階に到着したなっていうのがわかったんですよね。大きな声で「あいよ」というような威勢の良い掛け声のようなものが聞こえてきて。正直ちょっとびっくりしました。当時は「置き配」と呼ばれて直接接触がない配達方法だったんですが、家の扉の前に近づいてくるのははっきりわかりました。
その時は、本人と対面してないんですけれども、その後またやり取りをして、去年夏に取材をスタートしました。彼に出会う前は町で声を上げる人を見ると、ちょっと正直変な人だなとか、近づくと危ないかもなって、どこか遠ざけていましたが、それが病気だとわかって、これってちょっと自分の反省の意味も込めて、世の中に、自分が知らないことを知ってもらえたらいいなという思いで、取材をスタートしました。
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取材させていただいたREONさん(棈松怜音さん)も、たまたま鹿児島出身で(私の出身地の福岡と)同じ九州だっていうところで、少し意気投合しました。さらに、大園プロデューサーも鹿児島出身で、REONさんと同じ中学校に通っていたということもわかって。
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(大園康志プロデューサー)本人の意識に関わらず、声が出ちゃうんですね。彼は15秒に1回ですかね。私も初めて会ったときに、「…死ねよ」っていう言葉を言われるわけですよ。いきなりね。「えっ?」て衝撃を受けますよね。でも彼は僕に本当に死んでほしいと思っているわけではないので、それを理解してだんだんと喋っている間に、こちらも気にならなくなる。だけど、ファーストコンタクトだと驚くだろうなっていうのは感じますよね。声のボリュームも全然調整が利かない。かなりいい声なんですよ。ちょっと離れてても、普段喋ってる声よりちょっとトーンが低くて通る声。「あいよ」「やばいよ」とかいう声が二重に、本当に違う人格が現れてくるような感じで、こちらには迫ってくるものがあって、ドキッとしますよね。最初はですね。
(栁瀬晴貴記者)トゥレット症の彼らにとって、常に声が出てしまって静かな空間や人混みがとても苦手なんですよね。なのでレストランだったり、それから図書館や映画館も苦手だったりするんですよね。それでなかなか行けていない人が多い。
(大園康志プロデューサー)大変なのは飛行機とか。地下鉄とか。逃げ場がないですからね。栁瀬記者は(棈松さんの郷里の)鹿児島まで一緒に飛行機に乗って取材に行ってるんです。
(栁瀬記者)もうびっくりでしたね。やっぱり出しちゃいけないと思うと、なおさら出ちゃうみたいで。緊張すると。なので飛行機も、もうフードをかぶって、口を押さえながら、声が出ちゃうと「ごめんなさい」っていうふうに前の席の人に謝るんですね、周りにも。もちろん乗る前も、乗った後も。飛行機が飛び立つ前に「周りのお客さんに、すいません、僕こういう病気なんで、うるさくしちゃうかもしれないですけれども、ごめんなさい」って毎回説明しているんですよ。ずっと謝っていらっしゃいます。ごめんなさいって。本人は悪くないんだけど。
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(大園康志プロデューサー)トゥレット症の患者さんは人口1000人あたり3人から8人いると推定されていて、見つかったのは138年前にフランスの医師のジル・ド・ラ・トゥレットっていう神経医が報告していて、トゥレット症はそのお医者さんの名前を取っているわけです。だけど治療法は本当にわからず、マウスピースを装着する人がいたり、それが電極を脳に埋め込んで電気信号を送って押さえてみるとか、いろんなことを皆さんやってらっしゃるようなんですけど、決定的な方法が見つからない。栁瀬記者も東大病院の金生由紀子医師という第一人者にも当たってくれてはいるんですけども、原因はなかなかわからない。
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(栁瀬晴貴記者)実はトゥレット症患者の、夜寝ている際の映像は、これまで研究が進んでいなくて、今回、神奈川県の患者と一晩一緒に過ごしました。寝ている時、赤外線カメラを自分で手に持って構えていると、本当にもう2秒に1回と言っていいほど、症状が出てくるシーンで寝られないんですよね。夜中も。これが今までやっぱりわかってこなかったみたいで。何となくトゥレット症患者は、昼間疲れているとは言われてきたんですが、もしかすると先生いわく、こういった夜中に寝られないということも関係してくるのではないかと分析されていました。トゥレット症患者が寝ているときにどういう状況かという資料は、これまでなかった。
(大園プロデューサー)午後11時ぐらいにベッドに入って、結局就寝したなっていうのが、午前7時ぐらい。午後11時から午前7時までは奇声を上げたりベッドの中で自分の体を叩いたり、殴ったり。寝るときは手を握りしめて寝るんですよね、自分を殴ってしまう。それで起きてしまうからっていう理由で。右手と左手を、お祈りするような形で胸の上に置いて。それで寝てるのか寝てないのかよくわかりませんけれども、動かないようにして体をよこたえているというのが続く。寝られる日もあれば寝られない日もあるんで、非常に体調的にも整わないんだろうなというのは想像できますね。
(栁瀬記者)なのでやっぱり、神奈川まで取材に行ったときも、「ごめんなさい、やっぱり今日はちょっと寝られてないんで、取材難しいです」って言われる機会も何度かあって。あと「午後からでいいですか」みたいな形で。僕らももちろん体調が一番なので、わかりましたということで、ちょっと取材を遅らせることもありました。普段、体が働くことの大変さ以上に、まずは生きることそのものが、眠ることそのものができない、っていう大変さがあるんですね。だからやっぱり患者の多くは、家から出られないっていう人が多くて、一歩外に出ると、変な人だと言われて、後ろ指をさされることも多くて。なかなか生き辛いい、理解されにくい病気なんだなっていうところを感じています。
Q.今回栁瀬記者が取材をお願いした方たちはそういう中でも一生懸命外へ出て、普通の人たちと一緒になんていうのも関係を持ちながら、何とかわかってもらってという人たちが多い。
(大園康志プロデューサー)そうですね。「閉じこもっていては駄目だよね」っていう「前向きに行かなきゃね、社会に飛び込んでいかないといけないね」っていうことは皆さんは思ってらっしゃる。それができる方とできない方があって、そこに難しさがあるよね、と当事者の皆さんはおっしゃってましたね。栁瀬記者が今回取り上げてはいないんですけれども、知り合った方の中には、北海道の山奥で暮らしてらっしゃる女性もいらっしゃいます。長く一緒にいるといろんな声を、棈松さんの場合は「あいよ」「死ねよ」とか「やばいよ」とかいろんなパターンで出てくるんですけど、そういう人だと思ってずっと喋ってると、それを僕の耳の中でも除外して会話ができるようになっていくっていうのに気がつきましたね。だんだんその周りがわかってくるので気にならないなっていう。
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(栁瀬晴貴記者)なのでやっぱり彼らと接していると、本当に声が出たり体が動く以外は、本当に僕と同じ人間だなというところです。ただそれがあるだけで誤解されちゃう、苦しい思いをしてるというか。
(大園プロデューサー)栁瀬記者自身は取材の中で実はじっとしてない人なんです。本当にそれは止まれないぐらい、つまり活動的によく働く。家の中でも歩いてますって言うんですよね。番組を作るにあたっては家の中でメモを書いて、付箋に書いてぐるぐる回ってるっていうような。でも栁瀬記者のこういうところがネタをキャッチする力になっていて、これを止めてしまうと栁瀬じゃなくなってしまうという…番組の編集中も突如姿を消す(笑)。
(栁瀬記者)この番組で一番伝えたいところっていうのは、「やっぱり人って見た一瞬だけじゃ判断できないよね」「人は見た目じゃ判断できないよね」っていうところが僕の中で、トゥレット症だけに限らずあって。この僕が今目で見ている、その視界で見ているその人っていうのは、その人の一部であって全てじゃないなっていうことを感じました。
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CBCラジオ「石塚元章 ニュースマン!!」2023年5月27日放送より『僕と時々もう1人の僕~トゥレット症と生きる』取材:CBCテレビ報道部 栁瀬 晴貴(26)福岡県出身 2019年CBCテレビに入社し、報道部で記者5年目。愛知県警担当や遊軍の記者として不正車検の実態やドン横キッズ問題などを追う。YouTubeドキュメンタリーチャンネル不定期配信「トゥレット症の“リアル”」更新中。