「また来てね」が支えに…道化師界の世界最高賞を受賞 闘病中や戦禍の子供達励ます“ホスピタルクラウン”

名古屋市を拠点に、闘病中の子供たちを励ます「ホスピタルクラウン」を長年続けてきた大棟耕介さんが、功績を認められ、道化師に贈られる世界最高賞「レガシー・オブ・ラフター」を受賞した。 不景気やコロナの影響を受けながらも、活動を続けてきた大棟さんの30年を支えてきたのは、子供たちの「また来てね」の言葉だった。
風船をねじって作った「花」。プレゼントされた子供に笑顔が広がる。
愛知県津島市のショッピングセンターでパフォーマンスをするのは「クラウンK」こと大棟耕介(おおむね・こうすけ 53)さんだ。
クラウンは、サーカスや広場で観衆を巻き込み「笑顔」にする存在。この日も、たくさんの子供たちを笑顔にした。
女の子:「すごかったし。最後ね、(パイロンを額に)乗せられるかドキドキした」
女の子:「(クラウンKに)ありがとうございました」大棟耕介さん:「バイバイ、またね」
大棟さん:「僕たちクラウンは、誰に対してもパフォーマンスができるし、状況を少し、空間を少し明るくすることができる」入院中の子供たちを訪問しパフォーマンスで元気づける、「ホスピタルクラウン」。
大棟さんは、日本のホスピタルクラウンの先駆けだ。
2023年2月には…。ウクライナ人コーディネーター(日本語訳):「今の子供たちにはあなたのパフォーマンス、助けが必要です」 ポーランドに避難しているウクライナの避難民を癒すために、現地を訪れた。
大棟さんは2023年3月、アメリカのフロリダ州で開かれた世界道化師協会(WCA)の大会に参加。
これまでの功績が認められ、クラウンにとって世界最高賞の「レガシー・オブ・ラフター」に選ばれた。
大棟さん:「バンケット(宴会場)で、素晴らしい人を表彰したいとアナウンスがあって、今までの功績をずっと発表しているわけですね。僕と同じようなことをやっているヤツがいるんだなと思ったら、そしたら僕だったんです。(新型コロナで大会の開催が)4年ぶりだったんです。(クラウン仲間の)みんなに会えたのが、とにかく一番うれしかったですね。今までの活動が間違いじゃなかったというのを、知ることができたことはやっぱり力になります」
愛知県阿久比町生まれの大棟さん。
学生時代は棒高跳びで国体優勝するなど、アスリートとして輝かしい成果を収めた。
大学卒業後は名鉄に入社し、イベントなどの企画を手掛ける部署に配属され、将来を嘱望されていたが…。
大棟さん:「基本的に楽しい人間じゃないんです。自分の性格を変えるために、クラウンの勉強を始めました。つまり、クラウンが一番自分にとって苦手なものだと思ったんですね」
性格を変えたい。市民講座で習ったクラウンの魅力にとりつかれ、本場アメリカに修行へ。
1995年、仲間たちとクラウン集団「プレジャーB」を立ち上げたが、当時は苦難の連続だった。
大棟さん(2002年取材時):「1日事務所にいても電話が一本もならない状況ですよね。車も乗れなかったですから、ガソリンが買えないじゃないですか」
日本にはクラウンの文化に馴染みがなく、自ら営業に回り、夜に稽古という日が続いた。しかしパフォーマンスのレベルが上がるにつれ、学校、結婚式、ショッピングセンターなどから声が掛かるようになった。
年間10件ほどだった出演依頼は、1000件を超えた。
大棟さんは、「ホスピタルクラウン」を日本にも広めようと、仲間たちと活動を始めた。
大棟さん:「僕たちは病気の子供にパフォーマンスをしているんじゃなくて、子供にパフォーマンスをしているんです。たまたまそこが病院であるだけであって、たまたま病気であるだけであって。亡くなるお子さんもいます、元気で退院していく子供もいます。この活動は僕らにとっては日常なんですね。雨が降ろうと槍が降ろうと、病院にいってパフォーマンスをするんです」
東日本大震災の被災地では、10年で700回以上仲間らとパフォーマンス。
大棟さんを突き動かすものとは…。
大棟さん:「パフォーマンスしたら、めちゃめちゃ喜ばれるんですよ。『芸能人くるよりもクラウンのほうがいいよ』って。『また来てね』って子供が言うんですよ。『また来るよ』って言っちゃったなって。約束ですよね、もう一回来るんですよね。また来てくれたのって」
大棟さん:「病院でもそうです。子供たちに『またね』と言うんです。不謹慎な言葉かもしれない、病院の子供に。退院する子供に言いますよ、『退院するの?だめだよ。退院したら、来たときおまえいないんでしょ。だったら誰と遊べばいいの』っていう感じで」
大棟さんは後継者を育てようと、現在はホスピタルクラウンの養成講座に力を入れている。大棟さん:「(風船の先端を)持ったまま、もう1個ひねったら、おって3個目、2個目と3個目をひっかけると、犬の顔になりました」
この日は希望者4人と、風船アートの練習。
犬ができると、アレンジして様々なものが作れるようになる。大棟さん:「(犬の前足を)もうちょっと入れてあげます。ウサギになりますね」
受講生:「おー」大棟さん:「風船は(時に)悲しみを生んでしまうんです。風船はだんだん縮んでいくんですよね、じわって縮んでいく。そうすると自分を投影してしまうかもしれない。風船が割れたら、悲しみを作る道具にも、気を付けてください」医師の受講者:「手術室の麻酔科医として働いているんですけど、泣いて入ってくる子供たちが多いので、どうにかして泣いている子供たちを減らしたいと思って」元養護教諭の受講者:「3月まで学校で仕事をしてまして、退職したこのタイミングでこちらに関わらせてもらおうかなと思って」保育士の受講者:「子供たちには笑顔でいてほしいなというのがずっとどこかにあるので、バランスを取りながら(ホスピタルクラウンの)活動もしていきたいなと思っています」「子供を喜ばせたい」。そんな人たちの要請に応じ、ジャグリング、マジック、クラウンメークのほか、コミュニケーションの技術なども指導している。
大棟さん:「(ジャグリングは)投げてボール取ってる、この間にもう1個投げているだけなんですよ。だから皆さんは、ものすごい大変な事をやっているように見えるけど、ゆっくりやればこう」
大棟さん:「(ホスピタルクラウンの活動は)今は全国、北海道から沖縄まで96病院なんですね。そして150名の仲間と一緒にやっているんですけど、だいたい倍くらいにしたいんですよ。200病院で300名ぐらいのクラウンがいれば、全国の大きな病院の小児病棟には、まんべんなくクラウンが供給できるんじゃないかと思っています」
2020年には新型コロナの影響で、ホスピタルクラウンの活動がストップした。
大棟さんが挑戦したのは、会社のスタジオからのライブ配信だ。
外出しづらいマンションの住民に向けて、ベランダから観覧できるショーも開いた。
仕事が減り、空いた時間に稽古。ホスピタルクラウンの再開に備えていた。
クラウンとしてできることは何か、大棟さんは30年、常に問い続けてきた。大棟さん:「闘病中の子供たちを見ていると、自分がいま健康であること、自分が生きていて活動ができること、そのありがたさに気付けるんですよ。活動できる状況を持っているんだったら、やらないと怒られるんじゃないかと。脇役として動けることは、とても素敵なことだと思うんです」
大棟さん:「ピンチをチャンスに変えるのがクラウンじゃないですか。そういうマインドが広がっていけば、世の中にいい刺激、世の中が幸せになるんじゃないかなと思っています」
今回のポーランド以外にも、これまで様々な国を訪問し、小児病棟などで人々を笑顔にしてきた。
撮りためた写真で展覧会も開催。願うのは「平和が戻る日」だ。
大棟さん:「(どの国にも)同じ共通する笑顔があった。国境をなくすことができたら。“JUST DO IT”。いちクラウンとしてできることを、全力でやっていくだけです」2023年5月1日放送