[社説]認知症基本計画 当事者の声を推進力に

自分が、家族が、親戚が、近所の人が-。認知症は今や多くの人にとって身近な病である。
急速な高齢化に伴い、認知症になる人が増加する中、政府が「認知症施策推進基本計画」をまとめた。
認知症の人が尊厳や希望を持って暮らせる共生社会の実現を目指し、昨年1月に施行された「認知症基本法」に基づいた初の計画である。
「今や誰もが認知症になり得る。国民一人一人が自分ごとと理解し、自分らしい暮らしを続けるためにはどうするべきか考える時代が来た」とし、取り組みの推進を明記した。
「新しい認知症観の理解」「当事者の意思尊重」「地域で安心できる暮らし」「新たな知見や技術の活用」の四つを重点目標に掲げ、12の施策を盛り込んだ。
推計によると、2022年の高齢者の認知症と軽度認知障害(MCI)を合わせた数は1千万人を超え、40年にはおよそ3人に1人の約1200万人になる。
基本計画の策定は時代の要請に応えたものといえる。
認知症はかつて「痴呆(ちほう)」と呼ばれた時代があった。だが認知症になったからといって何も分からなくなったり、全てのことができなくなったりするわけではない。
まずは重点目標の「新しい認知症観の理解」を社会全体で深めたい。
認知症になったから終わりではなく、希望を持って自分らしく暮らしていける未来につなげなければならない。
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県内の高齢者の認知症とMCIを合わせた数は22年が約8万6千人、40年には約13万2千人に増えると推計される。
基本計画は自治体に対して、当事者の意見を反映し、地域の実情に合った計画をまとめるよう求めている。
基本法も当事者団体などと議論を重ねた末、まとめられたものだ。
基本計画を受けた県や市町村の施策立案には、当事者の参画がぜひ必要だ。変わっていく姿に戸惑い、どうしたらいいか分からず対応に行き詰まる家族も当事者である。
認知症の人の意思が尊重され、本人や家族が他の人と支え合いながら地域で安心して暮らすためには何が必要か。
県や市町村の職員には、現場に行き、膝を交えて意見交換してニーズをつかみ、その地域ならではの計画を作ってほしい。
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認知症の高齢者が増えれば、介護施設やサービスの需要が高まり、自治体の財政は今以上に厳しくなるだろう。
特に離島などの小規模自治体は、施設などの社会資源に乏しく、介護職などのマンパワーも不足している。行政職員の数も限られており、計画策定や施策の推進も簡単ではないはずだ。
離島町村の高齢化率は県平均に比べ高く、今後、全国平均を超え、ますます高くなることが予測される。
国や県の支援が欠かせない。