フィリピンは日本人犯罪者の天国? 「ルフィ引き渡し」に外交上重要な点がある

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日本各地で行われている連続強盗事件の指示役たちが、フィリピン入管の収容所にいることが判明した。収容所の中でパソコンやスマホを自由に使い、犯罪行為を実行していたというのだから、驚くとともに、この国はどうなっているんだと呆れてしまう。
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おカネを払えばエアコンつきの個室も使える。また、収容所の職員に賄賂さえ渡せば、スマホやパソコンを何台も使えるし、豪華な食事を運ばせることも可能だという。この環境を利用して、犯罪者たちが、特殊詐欺や強盗事件の指示を行っていたようだ。
日本政府は、首謀者たちの日本への引き渡しを要求しているが、35億円もの特殊詐欺を働いていたという。
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フィリピンのマルコス大統領が8日から12日まで日本を公式訪問する。昨年6月30日の大統領就任以来、大統領の初の日本訪問となる。フィリピン政府は、この訪問前に、容疑者の移送問題を解決することにし、日本側の要求通り、容疑者を早期に引き渡すようである。
そうしなければ、日本国民が反発して、大統領訪問が失敗に終わる危険性があるからである。フィリピンにとって、日本は最大の援助国であり、その機嫌を損なうと、経済援助にまで悪影響を及ぼす。逆に、迅速な身柄引き渡しを行えば、日本から歓迎されることになる。

私は、海外取材のために多くの国を訪ねたが、フィリピンにも何度か行った。要人と会見するとともに、最下層の人々の生活を見るためにスラム街にも足を運んだ。そして、刑務所も訪ねてみた。
警察官が案内してくれたが、鍵もきちんとかかっていないような状態で、脱走しようとすれば簡単にできそうな感じだった。老若男女が収容されており、まるで、一つの町内会がそこで生活しているような雰囲気であった。逃げて生活に困るより、刑務所の中で安穏と生活するほうがよいという思いの囚人ばかりのようであった。
囚人の一人が小売店を開いていた。刑務所内のコンビニである。そこで、食品から日用雑貨まで何でも買える。およそ日本人には想像できない刑務所の様子であった。今回の事件で、入管の収容所内部がテレビで紹介されていたが、かつて取材した刑務所を思い出した。全く同じ印象である。

フィリピンは16世紀にスペイン領となり、2世紀半にわたってスペインに統治された。その後、1898年の米西戦争の結果、フィリピンはアメリカの植民地となった。第二次世界大戦後の1946年に独立国となっている。
フィリピンに行くと、スペインの影響が色濃く残っている。陽気でノンビリした気質は、まさにラテンである。スペイン、ポルトガル、イタリア、フランスといった南ヨーロッパ諸国がラテンで、宗教はカトリックである。大航海時代にスペインやポルトガルが征服した中南米諸国にも、同じようなラテンの特質を見て取ることができる。

スカンジナビア諸国、ドイツ、イギリスなどの北ヨーロッパは、ラテンの南ヨーロッパとは対極的で、質実剛健、宗教はプロテスタントが多い。若い頃にフランスやイタリアにいた私は、フィリピンのラテン気質の雰囲気にすぐ溶け込んだものである。
日本の外務省の資料によると、フィリピンに対する日本の援助は、(1)円借款が3兆1,185.00億円(2019年までの累計。うち2019年度44.09億円)、(2)無償資金協力が3,031.23億円(2019年までの累計。うち2019年度9.78億円)、(3)技術協力の実績が2,603.38億円(2019年までの累計。うち2019年度86.71億円)である。
先述したように、フィリピンにとって日本は最大の援助供与国なのである。インフラ整備、離島支援、自然災害対策、人材育成、保健医療体制強化など、様々な分野で支援を続けている。
なぜ、ここまで援助するのか。南シナ海において、中国が覇権を確立しようとして、無人島に人口工作物を設置するなど実効支配を強めている。そのような中で、中国を牽制するために、この地域で価値観を同じくする民主主義国家としてフィリピンが重要だからである。
昨年5月には、日本がフィリピンに大型の巡視船を供与しており、フィリピン沿岸警備隊は、さらに5隻の大型巡視船の供与を求めるという。マルコス大統領の訪日時にそのような支援を要請すると思われるが、それだけにフィリピン当局は容疑者の引き渡しを急ぐと思う。

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。
今週は、「日本とフィリピンの関係性」をテーマにお届けしました。
(文・舛添要一)