中央線「昭和グルメ」を巡る 第169回 歴史を感じさせる地元の洋食屋さん「御食事処 輝」(日野)

いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、日野の洋食店「御食事処 輝」をご紹介。

○理想的な”昭和の洋食屋さんのハンバーグ”

昨年夏、日野の「そば処 豊年屋」というおそば屋さんをご紹介したことがありました。駅の北口を出たら、「日野駅北」交差点を渡って右へ。向かいにパチンコ屋さんがある最初の交差点を左に入った2車線の市道沿い。

あてもなく歩いてみたら行き着いたわけですけれど、実はそのとき、通りを挟んだ真向かいのお店が気になったのです。鮮やかなオレンジ色の日除け看板には「御食事処 輝」の文字。「輝」には「TERU」と英字表記がついています。

御食事処ってことは食堂? それとも?

あいにく定休日だったみたいでシャッターが降りており、すべてが謎のままだったのですが、そんなの気にならないはずがないじゃないですか。だから、ずっと頭のなかに残り続けていたんですよ。

そこで半年の歳月を経て、今回改めて突撃してみたのでした。

(中柱は立ったままだったけれど)シャッターはしっかり開いており、ガラスの入った茶色い格子扉には「営業中」と書かれた木製のプレートが。実は前日に電話して確認しておいたのですけれど、どうあれお休みでなくてよかった。

壁はベージュのレンガ模様で、左側にはサッシの窓が。右側には植物が飾られていて、その上には「本日のサービス品」と書かれたホワイトボードが出ています。見てみると、Aが「キスフライ メンチカツ 盛合せ定食」、Bが「豚肉スタミナ焼」。どうやら洋食のお店みたいですね。

期待を胸にドアを開けると、なぜかすぐ右側に家庭用の小さな冷蔵庫があり、その向こうがカウンターと厨房。

左には4~5人は座れそうな広いテーブル席があって、奥にも2人がけのテーブル席が2卓並んでいます。

決して広くはないけれど、かといって狭さも感じさせず、いかにも町の洋食店という感じ。オレンジの照明も昭和感満載だし、いろんな意味でいいなー、ここ。

壁には「一品料理」と書かれた手書きのメニューが貼られていて、そこにはお新香とか肉どうふ、やきとりなども。ビールやサワー、日本酒などもあるようだし、洋食店とはいえ、夜は地元の人が飲みに訪れるのかもしれません。こういうお店が近所にあったら、間違いなく常連になっちゃいますね。

などと思いながら手前のほうの2人席に落ち着き、料理のメニューをチェック。「カレーライス」「ピラフ」「スパゲッティー」「定食(ライス、味噌汁付)」と分かれており、定食はカツやエビフライ、ハンバーグ、ポークショウガ焼、カツ丼などバリエーション豊か。どれも魅力的だから、これは迷っちゃいます。ですからこの時点でもう、外にあった「本日のサービス品」のことなんか忘れちゃってましたねえ。

ってなわけで軽く悩んだ結果、チーズハンバーグにしてみました。

開店直後の店内には窓際から陽が差し込み、とても暖かい雰囲気。BGMが音楽ではなくTBSラジオというあたりも、こういうお店ならではの正しいチョイスといえましょう。

厨房は物静かな印象のあるご主人の担当で、ほどなく上品な奥様も登場。この地でおふたり、長らく切り盛りをされてきたんでしょうね。

さて、ワクワクしながら待っていたら、やがてチーズハンバーグ定食が運ばれてきました。鉄板の上に、チーズとデミグラスソースのかかった大きなハンバーグと、ポテト、インゲン、にんじんのつけ合わせ。ご飯の盛りも十分で、味噌汁にはワカメ、お麩、油揚げ。サラダは、レタスとトマトの彩りが鮮やかです。

これはもう、見た目からして理想的な”昭和の洋食屋さんのハンバーグ”です。まさにこういうものを求めていたので、いただく前からうれしくなってしまいます。

しかも、味がとてもしっかりしているのです。ハンバーグはこれでもかというほど肉厚でジューシーだし、いい感じに溶けたチーズの量も予想以上です。つけ合わせにもしっかり手がかかっており、なによりデミグラスソースの味がすばらしい。

出来合いのソースとは違って味に奥行きがあり、しっかり仕込まれていることが明確にわかるのです。ごまかしのようなものとは無縁の、長い経験の裏づけを感じさせる味。

たまたま見つけたお店だったわけだけど、ここは大当たりだなあ。

帰り際にお聞きしたところ、昭和52年からこの地で営業されているのだとか。ということは1977年だから、今年で46年目ということですね。たしかに、それだけの歴史を感じさせる味でした。

なかなか来られる場所ではないけれど、いつかまたお邪魔したいと思います。

●御食事処 輝
住所: 東京都日野市栄町2-2-12
営業時間: 11:00~21:30
定休日: 水曜日

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP研究所より文庫化)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)、『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)、『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)、『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)ほか著書多数。最新刊は『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)。 この著者の記事一覧はこちら