2022年7月、名古屋市中川区で赤信号を無視して交差点に進入し、17歳の男子専門学校生をはねて死亡させたとして危険運転致死の罪に問われた特定少年(事故当時18)の裁判ルポを前・後編に分けて掲載する。 (前編・後編のうちの前編)
名古屋地裁9階の第902号法廷。6月27日、48席の傍聴席は午前10時の開廷を前にすでに満席になっていた。傍聴人たちの視線の先にいたのは、19歳の男。起訴状などによると、2022年7月、名古屋市中川区で赤信号を無視して時速112キロから114キロで交差点に進入し、自転車で青信号の横断歩道を渡っていた17歳の男子専門学校生を乗用車ではねて死亡させた「危険運転致死」の罪に問われている。事故当時、男は18歳。改正少年法で言うところの「特定少年」であり、今回は危険運転致死という重大な結果を鑑みて、名古屋地検は男の実名公表に踏み切った。東海3県では初のことである。
「ライトを消せば警察に見つかりづらい」 時速110キロ超えで…の画像はこちら >>
初公判に現れた男は髪を刈り上げ、白のワイシャツにスーツ姿。起訴状が読み上げられた後、裁判長から間違いがあるかと問われると「結果として赤色灯火を表示している交差点に高速度で進入し、横断中の人を亡くならせたことは事実ですが、意に介することなく赤信号を無視したわけでもなく、その速度で進行しようと加速したわけでもない」と起訴内容を否認した。弁護側は「危険運転致死罪」の成立を争う方針を示した。
「危険運転致死罪」とは“危険な自動車の運転によって、人を死亡させた場合に成立する罪”で、今回は「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」にあたるとされている。「赤信号を殊更に無視」とは、(1)赤信号と認識していたうえで無視をする(2)たとえ信号が何色であったとしても意に介さず無視をすることを意味する。
事故が起きたのは、2022年7月23日午後11時過ぎ。
CBC
男は事故現場となった交差点の1つ手前の信号で、ともにドライブをしていた友人の車に追いつき、横並びで止まった。信号が青に変わると、男は車を勢いよく発進させ友人の車に先行。事故があった交差点の手前約210メートルの地点で車線変更し、前にいた車を追い越す。交差点の手前約115メートルまできたところで、車のライト(前照灯)を消した。そして、時速約112キロから114キロで赤信号の交差点に突っ込み、17歳の専門学校生をはねた。
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なぜそのような運転をしたのか。検察側と弁護側は次のように主張した。
〇検察側・前夜にも10回の信号無視をし、そのうち7回はライトも消していて「ライトを消せば警察に見つかりづらい」と友人に話していた・一緒に走る友人の車に先行して速い走りを楽しみたいと考えていた〇弁護側・友人の車や直前に追い越した車を気にして、後方を映したドライブレコーダーの画面を見ていた・ドライブレコーダーの画面に気を取られて前の信号を見ていなかった・ライトを消したのは、自分の車の存在を分かりにくくさせて、別の車に乗る友人を驚かせるためだった
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自動車の専門学校に通い、峠道で自動車を走らせる走り屋の若者たちを描いたマンガを愛読するなど、大の車好きだという被告の男。夜の峠道のレースバトルでライトを消して姿をくらまし、そのすきに速度を上げて一気に追い抜く…。参考にしたのは、そのマンガに出てくる“必殺技”だった。事故当時、別の車でともにドライブをしていた友人はこう証言している。(友人の証言より)「私が加速すると、後ろの男も加速してついてきて、赤信号の交差点で私の左側に並んで止まり、私にニコニコ笑っていた。青信号になると、男は急加速で走り去った」しかし、被告の男が愛読するマンガで必殺技が繰り出されたのは、相手の車が前を走っていた時。事故当時は男の車が友人の車よりも前を走っていた。検察側は「友人の車が見えないくらいかなり先行していて、相手を驚かす機会もない。現実とマンガの区別もできず、一般道での高速度レースバトルに酔いしれた」と厳しく指摘した。
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被告人質問では、事故直前の男の運転について質問が集中した。(検察官)「追い抜いた車が気になっていたと言っていたが、車種がわからなかった?」(男)「はい」(検察官)「手前の交差点を赤信号で止まっている間は前の車を長く見ることができたが、その時には特定できなかった?」(男)「はい」(検察官)「車種がわかったのは?」(男)「追い抜いてルームミラーを見た時です。ヘッドライトのあたりを見てわかりました」(検察官)「追い抜いた車は前からではヘッドライトでよく見えないのでは?」(男)「あまりそうは思いません」
(裁判員)「周りの車と車間距離が開いていくのは感じましたか?」(男)「少し感じました」(裁判員)「それは自分の車が加速しているのか、周りの車が減速しているのか、どちらだと思いましたか?」(男)「周りの車が速度を落としたからだと思いました」
(裁判官)「進路変更をしてから、同乗者に『やばいって』と声をかけられるまで秒数があるが?」(男)「後ろを見ることに夢中になっていた。スピードが上がっている自覚もなかった」(裁判官)「それでも真っ直ぐ走れたのはどうしてですか?」(男)「おそらく他の車よりも性能が良いこともあり、直線でそんなにぶれることはない」(裁判官)「別の車の友人を驚かせようと思ったのなら、前に行かせようとは思いませんでしたか?」(男)「特に考えませんでした」
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検察側は「かねてから夜に一般道でライトを消しての赤信号無視や高速度での危険運転を繰り返し、検挙を免れる意欲が旺盛で法を守る意識がない。運転は極めて危険かつ悪質で、起こるべくして起きた事故であり、強く非難されるべき」として懲役11年を求刑。
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一方、弁護側は「ライトを消したのは後ろを走る友人を驚かせるためで、赤信号を殊更に無視したとは認定できない」などとして、“危険運転致死罪は成立しない”と改めて述べた。
後編では、事故で最愛の息子を突然失った家族の思いを伝える。【後編】「同じ痛い思いをして死んでほしい…」 時速110キロ超えで信号無視の車に奪われた17歳の命 被害者家族の悲痛な願い
CBCテレビでは少年法の理念を踏まえ、社会的影響等を鑑みて男を匿名としています。