前編で新宿歌舞伎町の「トー横キッズ」、中編で名古屋の「ドン横キッズ」の今をお送りしたが、後編では大阪、道頓堀のグリコサイン看板下の遊歩道に集まる「グリ下キッズ」の若者たちを取材した。
コロナ禍により飲食店が相次いで閉業し、居場所を求める少年少女たちがSNS等を通じて「グリ下」に集まり始めたのは2021年夏ごろ。集まるのは10代前半~20代の若者が中心で、「トー横」同様、一帯では未成年の飲酒や喫煙、パパ活やオーバードーズが横行し、社会問題化している。
通称「グリ下」に集まる若者たち
「昨年5月にはSNSで知り合った京都府の女子中学生に『金をだせ!』などと脅し、暴行したとして、グリ下の少年(17)が逮捕された。さらに昨年6月と8月にも、グリ下で知り合った少女にみだらな行為をしたとして、ホストクラブの男性(29)と福祉職員の男(25)がそれぞれ逮捕されている」(社会部記者)このような状況を受け、警察も去年からの約1年間でグリ下を中心とした大阪・難波の繁華街で1650人に声かけをして、行方不明届が出されている子ども44人を保護するなど、警戒を強めてきた。さらに、今年3月2日に大阪府警南署は、グリコ看板下の道頓堀川に架かる橋から吊りさげる形で防犯カメラを2台設置。同時に掲げられた橋の下の横断幕には「安心してや。カメラで見てまっせ!」と大きく書かれている。
「安心してや」と言ってはいるが…
同署の前田時彦署長は「子どもたちを見守って安全で安心な街ミナミを守りたい」と意気込んでいるが、大阪在住の実話誌ライターはこう語る。「グリ下では未成年の飲酒・喫煙が横行していたし、去年3月には、道頓堀近くのビジネスホテルで1人分の料金を支払い、グリ下に出入りする少年少女たちが不正に長期滞在していたことで、警察が立ち入り捜査に踏み切った事例もある。そういった意味でも、警察側も“悪ガキを監視する”といった目的で監視カメラを設置したのだろう」
防犯カメラ設置から約5ヶ月となる7月下旬、集英社オンライン取材班がグリ下へと行ってみると、そこには相変わらず多くの少年少女たちがたむろする姿が目に入った。未成年と思われる若者の中には缶チューハイを飲む者、吸い殻を目の前の道頓堀川に捨てる者、爆音でスピーカーを流しながら踊る者などがいて、かなり混沌とした様子だ。グリ下を横切る観光客らしき人たちも、そういった光景に怪訝な表情を浮かべて歩き去っていく。2021年からグリ下に通っているという19歳の少年は、防犯カメラについてこう話す。「監視カメラなんて誰も気にしてないっすよ。そんなのあっても酒を飲みたいヤツは飲むし、タバコを吸いたいヤツは吸う。以前とやってることはほとんど変わらない。それよりも面倒くさいのがポリ(警察)の補導かな。自分は18歳以上だから関係ないけど、この前も一斉補導を食らったし、あのときもここ(グリ下)からひとり連れていかれました」
少年が言う一斉補導とは、7月14日に大阪府警南署が50人態勢で行なった、未成年の補導活動のことだ。この日も深夜徘徊などで16人が補導され、そのなかにはグリ下に出入りしている未成年も含まれていたという。この少年自身も、ここ最近は警察の見回りが増えたことを実感しているという。「昔は2週間に1回くらいしか警察が来なかったのに、今では週に1、2回のペースで来るのでうっとうしいったらない。だから最近は、グリ下の子たちにも『小中学生は夜8時になったら帰れよー』と呼びかけてます。警察にからまれると面倒なんで、ここでは、できるだけ未成年には飲ませないようにしているし、鏡月をイッキ飲みする会も、ほとんど開かれなくなりました。ビジホの一件以降、みんなで泊まることもなくなりましたしね」
一方で、監視カメラの設置以降もグリ下がらみの事件が消えたわけではない。今年5月19日には、若林賢太郎被告(42)の指示に従い、大阪府浪速区のホテルで19歳の男性に硫酸を浴びせて重傷を負わせたとして、グリ下の少年2人が逮捕された。関係者によると、同被告は少年2人とグリ下で知り合い、実行役としてスカウトしたとみられている。今回、取材に応じてくれた少年も、逮捕された少年のひとりと同じシェアハウスで暮らしていたという。その他、防犯カメラが設置されても犯罪に手を染めるグリ下キッズは後を絶たないという。「さすがに昔とちがって暴力沙汰は減ったけど、ヤクザの子どももここには多く集まってきて、そういうやつらは犯罪に対する意識が薄いからやりたい放題。この前も道頓堀のドンキで携帯用シーシャや化粧品、つけ爪、さらにはお好み焼き用のホットプレートをパクったヤツもいましたね。まあ、万引きGメンも増えてきたからパクられる子もいますけど」
グリ下にはパパ活をする若い女性も(※写真はイメージです)
中学3年生だという少女に話を聞くと、平然とこんな話をする。「この年だとどこも雇ってくれないし、ここにいる私のリアコ(リアルに恋してる相手)に貢ぐためにも『じゃあ、体でも売ろっかな』みたいな(笑)。でも、さすがに見ず知らずのおじさんとヤるのは嫌なので、“前戯だけパパ活”をしています。本番はしないけど、その直前までするって感じですね。ついこの間なんて、定期のパパに『写真撮らせて!』と言われたので、首から下の裸の写真を撮らせてあげたら、いつもよりお小遣いが弾んでラッキーでした」彼女はマッチングアプリやSNSで客を見つけているようだが、なかには東梅田の兎我野(とがの)町やミナミで“立ちんぼ”をする女の子もいるのだとか。
また、グリ下では市販薬のオーバードーズがらみのトラブルも事欠かない。前出の19歳の少年も、「昔は6シート(60錠)飲んでパキってた」と語るが、ここ最近、グリ下では新たな”遊び”が流行しているという。「ある咳止め薬を使って”ある方法”でパキるのが流行ってるんです。これまでも某睡眠導入剤をいちご牛乳に溶かして飲んだり、ラーメンに入れて食ったりしてたんですけど、これは今一番のお気に入りです」7月18日、大阪府の吉村洋文知事はグリ下を視察し、記者団に対して「少年、少女がグリ下で犯罪に巻き込まれず、犯罪をする側にもならないよう、その背景や事情をしっかり支えていく」と述べたが、この少年はこう語る。
「グリ下って、僕みたいに長年いるヤツは稀で、だいたい1年くらいで飽きてこなくなるんですよ。でもSNSでグリ下に興味を持った子が新たに来るので、だいたい1年周期でメンバーも入れ替わるんです。だから大人たちは“犯罪防止”とか“自立支援”とか言ってますけど、そういうのあんまり意味ないと思うんすよね。まぁ、こっちはこっちで楽しんでるから勝手にしてくれって感じです(笑)」今日も大人の心配をよそに、キッズたちは日常を消費している。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班