スウェーデンの防衛企業が開発する「キューブ・システム」が、水上艦艇の運用に大きな影響を与えそうです。搭載する装備を必要に応じて積み替えられる――コンテナサイズで実現することで、あらゆる艦艇に様々な能力を付与できます。
軍艦の能力は、おおざっぱにいえば搭載している装備の種類に左右されます。たとえば、ソナーや魚雷など敵の潜水艦を探して撃沈する装備を積んでいれば、その艦は対潜戦能力を有しているといえます。しかし、現代では敵の脅威は多種多様で、そのすべてに対応しようとすると、搭載する装備の組み合わせも複雑になります。 そこで、相手の脅威にあわせて艦艇の装備をその都度交換できれば便利、という話になります。これが「モジュラー化」の基本的な考え方ですが、北欧のスウェーデンに本拠地を構える防衛企業「SHディフェンス」は、このモジュラー化に新たな波をもたらそうとしています。それが、同社が開発する「キューブ・システム」です。
軍艦の“着せ替え”実現? 「今日は対潜戦、明日は機雷戦」 変…の画像はこちら >>スウェーデンの防衛企業「SHディフェンス」が開発する「キューブ・システム」。日本の多機能護衛艦にも搭載する日が来るか(画像:海上自衛隊/SHディフェンス)。
キューブ・システムは、国際規格の商用海上輸送コンテナのなかに、各種装備を搭載したものです。このコンテナを必要に応じて乗せ換えることで、様々な能力をあらゆる艦艇に与えることができます。
キューブ・システムは、このコンテナと、それを艦艇に搭載するためのローダー、そして艦艇側の積載スペースから構成されます。コンテナには、対潜戦装備や無人航空機(UAV)、さらに小型水上艇など、300種類以上の装備を組み込むことが可能です。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻によってヨーロッパの海軍でも再び注目を集めている機雷の敷設装置も、パッケージ化されています。SHディフェンスの言葉を借りれば、「今日は対潜戦、明日は機雷戦」を同じ艦艇で実現できるのです。
コンテナは主に艦艇の側面か、あるいは後部のスペースに搭載されます。専用のローダーを用いることにより、港に停泊中の艦艇において、約4時間でコンテナの積み替えを完了できます。また、艦内の積載スペースの床にレールを組み込むことで、コンテナをスムーズに移動させ、必要に応じてコンテナの位置を入れ替えることも可能です。
兵器のみならず、キューブ・システムでは手術用の医療コンテナや水のろ過装置、さらに海面に流出したオイルを回収するための装備などもコンテナ化しており、軍艦だけでなく、海上警察機関の巡視船や消防船など、非軍事組織の任務にもうってつけの存在といえます。
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護衛艦「もがみ」。海上自衛隊の多機能護衛艦であり、仮に「キューブ・システム」を搭載するとなれば、運用の幅がさらに広がるだろう(画像:海上自衛隊)。
このキューブ・システム、おそらく日本も他人事ではないと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。たとえば、海上自衛隊の能力強化につながる可能性があるからです。今後、海上自衛隊では従来の護衛艦に加え、主に平時の周辺海域の監視を担う哨戒艦の配備が予定されています。
哨戒艦は、いわば目的特化型の艦艇であり、そのため搭載する装備と乗員数を最小限に抑えることが可能となっています。一方で、艦内には多目的スペースが設けられており、必要に応じて人員や物資の輸送を行うものとみられています。もし、このスペースにキューブ・システムを搭載できれば、たとえば機雷敷設や掃海など、必要に応じて各種能力を付与できるようになります。同様のことは、今後の海上自衛隊の数的主力になりうる多機能護衛艦(FFM)にもあてはまります。
加えて、日本の防衛産業にとっても大きなチャンスとなりえます。キューブ・システムは、国際規格の海運コンテナというサイズの制約を除けば、原則的にどのような装備でも組み込めるというのが特徴のひとつです。そこで、たとえば機雷掃海システムや各種無人装備、さらに医療システムなど、軍事、非軍事を問わず様々な装備を、キューブ・システムとセットで輸出するという道が開けることになるのです。
今後、日本の防衛産業にとって重要なのは、いかに国際的なワクやコンセプトに相乗りして自社の製品を輸出できるかということだと考えられますが、キューブ・システムはまさに、そのための足掛かりのひとつとなりえるでしょう。