40代は多くの場合、将来のライフプランが固まる時期を迎えます。結婚するのかどうか、子どもの有無や人数、住宅取得などの方向性が決まってくるため、老後資金の目標金額も立てやすくなるでしょう。
「そろそろできる範囲で老後資金の準備を」と考え始めた40代にとって、来年2024年から始まる「新NISA」はぜひ活用したい制度です。では、40代は新NISAをどのように使えばいいのでしょうか。40代の方が新NISAを活用するメリットや、今始めた場合の資産額のシミュレーションなどとともに解説します。
■新NISAはどのような制度?
通常、株式や投資信託などの金融商品に投資すると、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して、約20%の税金がかかります。NISAは、NISA口座内において、毎年一定の範囲内でこうした金融商品を購入すると、そこから得られる利益が非課税になるという制度です。
NISAには、いわゆる「一般NISA」のほか、「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3つの種類があります。それぞれのNISAは、年間に購入できる金額と非課税で保有できる期間が以下のように決まっています。
・一般NISA…株式や投資信託等を年間120万円まで、最大5年間
・つみたてNISA…一定の投資信託を年間40万円まで、最大20年間
・ジュニアNISA…株式や投資信託等を年間80万円まで、最大5年間
なお、現行のNISAの新規口座開設は2023年までとなっています。
そして、2024年1月からは「新NISA」が開始されます。新NISAは現行NISAのさまざまな点が改良された制度ですが、どのような仕組みなのでしょうか。
まず、新NISAには現行のつみたてNISAにあたる「つみたて投資枠」と現行の一般NISAにあたる「成長投資枠」が新設されます。これまで、つみたてNISAと一般NISAは同時に使えませんでしたが、新NISAの「つみたて投資枠」と「成長投資枠」は併用が可能です。そのため、幅広い中から投資する商品を選べるようになります。
また、新NISAでは年間投資枠が拡大します。つみたて投資枠は年間120万円まで、成長投資枠は年間240万円まで非課税で投資できますので、年間投資枠は合計360万円になります。
さらに、新NISAでは1,800万円の「生涯投資上限額」が設定されます。NISA口座内で購入した金融商品を途中で売却すれば、その分の枠が復活して再利用も可能です。
そのほかにも、制度が恒久化していつでも投資を始められるようになること、非課税保有期間が無期限化して、課税口座への移行や「ロールオーバー」のような手続きが必要なくなることも新NISAの特徴です。
■40代が新NISAを運用するメリットとおすすめの活用方法
もともと、NISAは40代の多くの人に活用されている制度です。日本証券業協会によると、2023年3月末時点の年代別のNISA(一般・つみたて)口座数は、30代の256万口座が最も多く、次に40代の248万口座が続いています。
では、40代が新NISAを運用するメリットとは何でしょうか。
それは、40代の方は今から老後に向けた資産形成を始めても、定年を迎えるまでにまだ約20年ほどの積立期間が残されているという点です。たとえば、定年までの20年間で新NISAの「生涯投資上限額1,800万円」を使い切りたい場合、毎月7万5,000円の積立を継続すれば達成できます(7万5,000円×12ヶ月×20年=1,800万円)。
毎月この金額を積み立てるのは難しくても、夫婦共働きならお互いにできるだけ投資資金を出し合ったり、預金の一部を積立に充てたりしながら、老後に向けた資金作りが進められます。また、将来子どもが独立したタイミングで積立額を増額するのもいいでしょう。
現行のNISAは、投資できる枠が少なく、非課税で保有できる期間が短いという課題がありました。たとえば、つみたてNISAの場合、年間に購入できる金額は40万円まで、非課税保有期間は20年間です。一般NISAの場合、年間に購入できる金額は120万円まででつみたてNISAと比べれば大きいですが、非課税保有期間は5年間と非常に短くなっています。
また、現行のNISAは、トータルで投資できる金額も決して大きくありません。つみたてNISAの場合は800万円、一般NISAの場合は600万円で、さらにこの2つは併用できませんので、老後に向けて大きな資産を作ろうとしても限界が生じていました。
一方、新NISAは非課税保有期間が無期限化し、トータルで投資できる金額も大幅にアップしています。老後までの期間が20代、30代と比べて短い40代の方でも、今から計画的に積立をしていくことで、将来のためにしっかり備えられるのです。そして老後は、非課税で運用を続けながら、必要に応じて資金を取り崩していくことができます。
40代の方が新NISAで運用するなら、まずは「バランス型ファンド」という複数種類の資産に投資する投資信託を購入するといいでしょう。バランス型ファンドは、投資対象が株式や債券など複数の資産に分散され、投資エリアも複数の国に分かれているものです。
また、20代、30代には世界各国の株式に分散投資する投資信託の購入をおすすめしていますが、40代では、そちらにプラスしてバランス型ファンドを組み込むのも良い方法です。40代は20代、30代と比べて投資できる期間が短くなりますので、運用の際はリスクを抑えることも考えていきましょう。
■40代が新NISAを使うときの注意点
40代は、これから定年までの約20年間を有効活用できる年代です。今から投資を始めれば、長期投資による複利効果を享受できるでしょう。また、40代になると収入が増え、これまでより投資に充てる資金を確保しやすくなるメリットもあります。
一方で、20代や30代よりは投資できる時間が短くなり、若い頃と比べればリスク許容度(投資において、どの程度のリスクを許容できるか、どの程度の損失なら耐えられるかを表すもの)が下がります。
20代、30代で攻めの投資をしてきた人も、40代ではリスクを抑え気味にすることを心がけましょう。
また、定年まではまだ長い時間があるものの、老後資金の準備を少しずつ優先させていくことも大切です。家族を持っていれば、教育費や住宅ローンの返済などの負担もありますが、その中でも、老後に備えた資産形成を強く意識したい時期に差し掛かっているのが40代です。
だからこそ、定年までの時間を無駄にせず、少しでも早く老後資金の準備に取り掛かる必要があります。新NISAの制度が始まったら、早速運用に着手してみましょう。
■40代から新NISAを始めるといくらになる?
最後に、40代の方が新NISAで積立を始めると、将来的にどのくらいの資産額になるのか見てみましょう。
ここでは、45歳から65歳までの20年間、年利3%で(1)毎月5万円積み立てた場合、(2)毎月7万5,000円積み立てた場合の2パターンのシミュレーション結果をご紹介します。
(1)45歳から65歳までの20年間、年利3%で毎月5万円積み立てた場合
20年間で積み立てた投資元本は「5万円×12ヶ月×20年間」で合計1,200万円、運用益は434万2,722円、20年後の積立資産額は1,634万2,722円という結果になりました。
運用がこのシミュレーション通りに行けば、20年間で1,200万円を1,600万円以上に増やすことができます。投資は早めにスタートするのが有利ですが、40代からでも資産形成を始めるのに遅すぎることはありません。
(2)45歳から65歳までの20年間、年利3%で毎月7万5,000円積み立てた場合
20年間で積み立てた投資元本は「7万5,000円×12ヶ月×20年間」で合計1,800万円、運用益は651万4,083円、20年後の積立資産額は2,451万4,083円となりました。
月に7万5,000円の積立資金が出せるという人や、老後資金として2,000万円以上用意しておきたい人などは参考にしたいシミュレーション結果です。40代から本格的に老後資金の準備を始めるなら、家計の見直しや当分使う予定のない預金を活用するなどし、積立資金を捻出してみましょう。
なお、ご紹介した金額はあくまでもシミュレーションであり、実際の運用では、必ずしも同じ結果が得られるわけではない点にご注意ください。
■40代は本格的な資産形成を始めるチャンス
30代までは結婚や出産などのライフイベントが相次ぎますが、40代になるとそれらが落ち着き、自分たちの老後に意識が向くようになる人は多いでしょう。老後について真剣に考え始めるこの時期は、新NISAで本格的な資産形成を始めるチャンスです。
定年までの約20年間で計画的に資金を積み上げ、安心した老後生活を目指したいですね。
武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら