防衛省が2024年度予算の概算要求に、常設の統合司令部の新編を明記しました。この新組織のトップとして、新たに統合指揮官というポストが作られるそうですが、既存の統合幕僚長とはどう違うのでしょうか。
防衛省は2023年8月31日(木)、2024年度予算の概算要求を発表。そのなかで、陸海空の3自衛隊を一元的に指揮する常設の統合司令部を令和6年度末(2025年3月)に新編することを明らかにしました。 ただ、これまでも防衛省・自衛隊には、陸海空の各部隊を一元に運用するための機関として「統合幕僚監部」がありました。新設される統合司令部は、既存の統合幕僚監部とどう異なるのでしょうか。
「自衛隊トップ」が2人になるの? 陸海空を統べる新設「統合指…の画像はこちら >>2011年の東日本大震災で、被災地入りする防衛大臣を乗せてきた航空自衛隊のC-1輸送機。右手前では陸上並びに航空の自衛官らが敬礼をしている(画像:統合幕僚監部)。
そもそも統合幕僚監部とは、統合幕僚長をトップに約500名の人員からなる組織で、軍事的な観点から防衛大臣を補佐する役割が与えられています。
統合幕僚長は、自衛官、いわゆる制服組の最上位者という位置づけであり、有事や大規模災害の際には統合幕僚長が、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣並びに防衛大臣からの命令を受け、それに基づく執行、すなわち現場部隊の指揮を執るようになっています。 しかし、内閣総理大臣や防衛大臣の補佐を行いつつ、部隊の指揮を執るのは極めて難しく、東日本大震災などでその欠点が露呈しました。そこで、統合幕僚監部とは別に常設の統合司令部を設けることで、補佐役と実動部隊の指揮官という2つの役割を明確に分け、統合幕僚長を内閣総理大臣や防衛大臣の補佐に専念させる目的も含まれる模様です。
すでに、2022年12月に公開された現行の「防衛力整備計画」で常設の統合司令部を設けることが明記されており、今回の概算要求への盛り込みはそれに沿ったものです。
他方で、これまでも有事や大規模災害などが起こった際には、陸上自衛隊の陸上総隊司令官や方面総監、海上自衛隊の護衛隊群司令、航空自衛隊の航空総隊司令官や航空支援集団司令官などをトップとする統合部隊(統合任務部隊)がその都度、編成され任務に就いてきました。
ただ、こういった臨時の統合部隊では、情勢の推移に応じたシームレスな対応が困難であり、なおかつ領域横断作戦を実施し得る統合運用態勢の確立が不十分だというデメリットもありました。
ほかにも、臨時であるため、アメリカ側の常設の統合司令部であるインド太平洋軍司令部と調整する機能(カウンターパート)が不足しているといった欠点も挙げられていました。
そこで、これら複数の課題を解決し、陸海空自衛隊の一元的な指揮が実施可能なセクションとしても、常設の統合司令部にはその役割が求められる模様です。
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常設の統合司令部が置かれる予定の市ヶ谷地区。防衛省本省や統合幕僚監部などと同居する形となる(乗りものニュース編集部撮影)。
統合司令部のトップである統合指揮官(仮称)には自衛隊の運用などに関し、平素から部隊を一元的に指揮する役割が与えられます。これに伴い、統合・共同における作戦計画の策定及び作戦の遂行、そして大臣の命令を受けたら所要の指揮官に任務を付与し、必要な戦力を各指揮官へと配分して作戦全体の指揮を執ることが求められるそうです。
このたび公開された概算要求では、常設統合司令部(仮称)は防衛省本省ならびに統合幕僚監部や陸海空の各幕僚監部がある市ヶ谷地区に設置されるとのこと。なお規模は創設時については約240人で、常設の統合指揮官は陸海空幕僚長と同格の将官を配置するとしています。
陸海空の3幕僚長と同格ということは、諸外国の大将クラスと同じ星(桜星)4つの階級章を付ける「将」ポストとなりますが、同じ星4つの階級章を付ける統合幕僚長よりもひとつ格下の位置づけとなる模様です。
なお、統合幕僚長は、各省の事務次官や警察庁長官、最高裁判所事務総長などと同じ政令指定職(8号)になります。一方、陸海空の各幕僚長は政令指定職(7号)。おそらく統合指揮官もこのランクになるのでしょう。
ちなみに、ほかの省庁でいうと、警視総監(警視庁トップ)や総務省消防庁長官、海上保安庁長官などと同格になります。