“普通”でも”知的障害”でもない、そのはざまにある「境界知能」という言葉をご存知でしょうか?
そんな「境界知能」について解説しているのが、『境界知能の子どもたち』(SBクリエイティブ/宮口幸治著/990円)。
著者は、児童精神科医・医学博士の宮口幸治氏。宮口氏によると、日本人の7人に1人が”普通”でも”知的障害”でもない「境界知能」だといいます。IQの平均値は「100」、知的障害に該当するのは「70未満」とされており、その間にある数値「70以上85未満」が、「境界知能」というわけです。これは、普通学級の授業にギリギリついていけるかいけないかのライン。
一見すると普通の子に見えることから、周囲になかなか気づいてもらえず、しんどい思いを抱えながら生きている「境界知能」の子どもたち。同書は、そんな子どもたちの背景を理解する一助となること、そして、保護者や教師など周囲の大人が子どもの可能性を信じ、適切な支援の一歩につながれば……、そんな著者の思いが詰まった一冊となっています。
今回は第1章から、「気づかれない『境界知能』と『軽度知的障害』」の部分を抜粋して紹介します。著者が同書を書くに至った経緯とは……。
○気づかれない「境界知能」と「軽度知的障害」を問題視
現在、私は大学で臨床心理学や精神医学などを教えていますが、それまでは、児童精神科医として公立精神科病院において発達障害児や思春期青年の治療にあたったり、医療少年院女子少年院の矯正医官として矯正プログラムの開発やグループ運営を行ったりしてきました。
そして、少年院で多くの非行少年たちと出会い、知り得た驚くべき事実と問題点をまとめた本が、2019年に上梓した『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)です。その内容は、少年院には認知機能が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすらできない非行少年が少なからずいるという事実と、そういう少年たちの背景や具体的な支援策について言及したものです。
この本は一見すると「発達障害」の問題をテーマにしているように受け止められる方もおられますが、私が知ってほしかったのは、気づかれない「境界知能」と「軽度知的障害」の問題でした。
近年、落ち着きがない、不注意が多い、こだわりが強い、対人関係が苦手……といった特性をもつ「発達障害」に関する認知はだいぶ広まってきました。読者のみなさんも、注意欠如・多動性(ADHD)や自閉スペクトラム症といった発達障害の名称を聞いたことはあると思います。書店でも「発達障害」に関する書籍は数多く見かけますが、一方で「知的障害」に関する書籍はあまり見かけません。「発達障害」が注目される昨今、比較すると「知的障害」の認知度はかなり低いように感じます。
私は、幼稚園や小・中学校のコンサルテーション(児童の課題を教員みんなで解決していくケース検討会)にも従事してきましたが、そこでも「この子はひょっとして知的障害ではないか?」といった視点が最初から出てきた検討会の記憶はほとんどありません。
第1章「気づかれない『境界知能』と『軽度知的障害』」、第2章「知能検査について知る」、第3章「教科学習の前になぜ認知機能が大事なのか?」、第4章「子どもの可能性はどのように伸ばすのか?」で構成されており、全208ページ。価格は990円。