17年務めた「横須賀の顔」巡洋艦が退役 代わりの最新鋭駆逐艦も“仮”!? 米海軍が目指すのは

17年間、横須賀を母港としたアメリカ海軍の巡洋艦「シャイロー」が、新たな配備先のハワイへ向けて出港しました。その代わりを務めるのは、最新鋭の駆逐艦。装備品の更新時期に差し掛かっていることもあり、横須賀の顔ぶれも変わりそうです。
2023年9月7日、神奈川県のアメリカ海軍横須賀基地から、1隻の軍艦が出港していきました。それはタイコンデロガ級巡洋艦「シャイロー」です。同艦は2006(平成18)年に横須賀へ配備され、以降17年間、変わらず横須賀を母港にし続けてきました。これは1979(昭和54)年以来、横須賀基地に配備されている、アメリカ第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」に次ぐ長さです。
そんな「シャイロー」は横須賀基地を出港し、新たな配備先であるハワイのパールハーバー海軍基地へと向かいました。そして、「シャイロー」はそこで就役から約30年にわたる艦歴に幕を閉じることになります。
「シャイロー」は、横須賀基地に配備されている艦艇の中でも非常に重要な役割を担ってきました。まず、同じく横須賀に配備されている原子力空母「ロナルド・レーガン」と、それを中心とする艦隊である「空母打撃群」の防護です。
17年務めた「横須賀の顔」巡洋艦が退役 代わりの最新鋭駆逐艦…の画像はこちら >>横須賀基地を母港にしたタイコンデロガ級巡洋艦「シャイロー」(画像:アメリカ海軍)。
「シャイロー」を含めたタイコンデロガ級は、高度な防空戦闘システムである「イージス・システム」を搭載しており、さらに艦対空ミサイルなどを搭載する「垂直発射装置(VLS)」を122セルも搭載しています。海上自衛隊の最新鋭イージス艦である「まや」型が96セルであることを考えると、タイコンデロガ級がいかに重武装かがよく分かります。こうした優れた対空戦闘能力を活かして、タイコンデロガ級は空母およびその艦隊の防空を担っているわけです。
「シャイロー」は第7艦隊の「ミサイル防衛(BMD)コマンダー」という役割も担っています。BMDコマンダーは、アメリカ第7艦隊に配備されているイージス艦のうち、弾道ミサイルを迎撃する能力を有している艦艇に目標の割り振りや展開位置などに関する指示を与えるというものです。これにより、効率的に弾道ミサイルを迎撃することができるのです。
その重役は、「シャイロー」からアーレイバーク級駆逐艦の「ジョン・フィン」に引き継がれることになりました。
「ジョン・フィン」は、2017(平成29)年に就役したばかりの新鋭艦で、イージス・システムも最新鋭のバージョンである「ベースライン9」を導入しているほか、艦の前方には接近する小型の無人航空機(UAV)を無力化するレーザー兵器「AN/SEQ-4 ODIN」を装備しています。
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2023年3月、横須賀基地に到着したアーレイバーク級駆逐艦「ジョン・フィン」(画像:アメリカ国防総省)。
さらに、2021年には日米で共同開発した迎撃ミサイルである「SM-3ブロックIIA」を用いて、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を模した標的の迎撃に史上初めて成功するなど、高いBMD能力も備えています。ただし、タイコンデロガ級の艦長は「大佐」ですが、「ジョン・フィン」を含めたアーレイバーク級ではそのひとつ下の階級にあたる「中佐」であるため、権限などに関する調整が今後行われることになるでしょう。
実は、アメリカ海軍ではこのタイコンデロガ級巡洋艦を、2027年までに全艦退役させることとしています。というのも、タイコンデロガ級は最も新しい艦でも1994(平成6)年就役と、すでに30年近くにわたり運用されているため、船体やシステムの老朽化が問題に。改修しようにも、そのための費用を考えると、割に合わないと判断されたのです。
そこで、タイコンデロガ級の機能を代替する艦艇として「アーレイバーク級フライトIII」が選ばれました。これは、従来のアーレイバーク級の拡大発展型で、2023年10月に1番艦の「ジャック・H・ルーカス」が就役する予定です。搭載するイージス・システムは最新の「ベースライン10」、さらにレーダーも従来のものより探知距離や精度が格段に向上した「AN/SPY-6」が装備されます。またフライトIIIでは、艦長の階級が大佐になる予定で、前述した権限などに関する課題は解消する見込みです。
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アメリカ海軍の最新鋭イージス駆逐艦「ジャック・H・ルーカス」(画像:アメリカ海軍)。
ただし、これはあくまでタイコンデロガ級の役割を代替するという位置づけで、その後継艦は別に整備されます。それが、次期ミサイル駆逐艦「DDG(X)」です。DDG(X)は、タイコンデロガ級およびアーレイバーク級の後継艦で、高出力レーザーや極超音速滑空兵器など、従来のイージス艦よりも強力な兵装を搭載することが予定されています。
横須賀基地に配備されているタイコンデロガ級は、「アンティータム」と「ロバート・スモールズ」のみとなりましたが、これらもあと数年のうちにその姿を消してしまうことになります。今からでも、その姿をしっかり目に焼き付けおいた方がよいかもしれません。