世界で活躍する二刀流レーサー・イゴール選手「夏の車に乗り込んだ時のあの暑さが1時間続く」大きな苦労も優しい笑顔で語れる強さを培ったこれまでの半生

9月15日に公開が予定されている、世界的大ヒットのゲーム「グランツーリスモ」を題材とした映画にちなんで、リアルとeモータースポーツ両方で優勝経験がある“イゴール・大村・フラガ選手”にインタビューさせていただきました!

イゴール選手は、リアルレースにおいては2017年にブラジルF3シリーズでチャンピオンを獲得、2019年にフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパに参戦し4勝を挙げドライバーズランキング3位、2020年にはトヨタ・レーシングシリーズのチャンピオンを獲得。eモータースポーツにおいては2018年に「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」ネイションズカップにおいて初代世界チャンピオンを獲得。2019年・2020年には、同大会のマニュファクチャラーシリーズでトヨタを世界王者に導くという、二刀流で大活躍されている選手です。イゴール選手のこれまでのキャリアや、普段は聞くことのできない裏話も満載です!

○『グランツーリスモ』の予告編をチェック!

ど迫力の映像と音はもちろんのこと、家族や師弟愛などヒューマンドラマも見られます。モータースポーツのことがわからなくても十分に楽しめる一作です!
○イゴール選手のキャリアに迫る!

――最初にイゴール選手のこれまでのキャリアについて教えてください。

僕のお父さんが車好きで、生まれた時からミニカーが置いてあった記憶があります。3歳から4歳の頃に、キッズカートというカートに乗せてもらいました。

ただその年齢では親も不安を感じたのか、グランツーリスモ3用のプレイステーション2とコントローラーを誕生日プレゼントでもらいました。まだ今のグランツーリスモほど本格的なシミュレーターではありませんでしたが、基本的な操作をそこから学べましたね。

その後、カートのライセンスを取得し、レースに参戦し始めました。週末はカート場で過ごして、平日は1時間だけグランツーリスモをやることが許されていました(笑)。

一時レースを中断する期間もありましたが、ブラジル、アメリカ、ヨーロッパと様々な場所でレースをしてきました。今ではグランツーリスモでも大会が広がり、小さい頃以上に真剣に取り組める環境になった感じですね。

――色々な国を渡り歩いてきて苦労したことはありますか。

僕は日本で生まれ、親はブラジル人でしたので、初めから2つの言語を喋ることができました。ブラジルの学校では、ローマ字の書き方とは異なる書き方が普及しており、それを読むのは最初は難しかったですが、数ヶ月で慣れました。

アメリカに行くときは既に英語を話すことができましたが、実際に言葉を通訳するプロセスは時間がかかりました。特に、僕のお父さんは英語を全く話せないため、他の人との通訳を担うことが多かったです。

特に2018年から2019年にかけて、チームとの交渉など、言葉を正確に発信する必要があり、苦戦したことを覚えています。ただ、そのチームで知り合った人や関係者がいい人たちで、人に恵まれていたと感じます。

――今までレースをしてきた中で、どの国が環境的に一番走りやすいですか。

僕は日本が結構好きですね。ブラジルは非常に広く、移動手段が限られています。自分が住んでいたところからレース場までの移動は、車で10~11時間かかります(笑)。父を含めた家族の運転で行くのでとても大変でした。ヨーロッパもあまり電車は使わずで、日本の電車を含めた交通の便利さを特に気に入っています。

――何歳ぐらいまでキャリアを続けたいと考えていますか。

僕はあまり遠くのことを考えていません。今日のベストを尽くすことが、次へのステップに繋がると信じているからです。未来に関して深く考えると不安に感じることが多いです。

アメリカにいた頃は、そうした不安要素が大きかったですが、集中することでそれを乗り越えてきました。だから、具体的に将来のことを詳細に考えるより、2~3年後や来年に向けた大まかな方向性を持つことが大切だと考えています。
○通常の3、4倍の力が首にかかる!?

――グランツーリスモでの実績は、実際のレースにどのような影響を及ぼしていますか。

まず初めに、グランツーリスモなどのシミュレーターはリアルな運転感覚に近づいています。車の限界や動かし方は似ていて、特に車の限界を理解して効率よく走る方法を考えるプロセスに大きな違いはないです。

あとはグランツーリスモのようなゲームでは多様な車種やコースが提供され、様々なドライビングスタイルを学べます。これはリアルでは物理的に難しい部分で、こういった部分がリアルでの対応能力を高めてくれます。ただ、実際の運転との違い、例えば車のスライドやGを体感できない点もあります。

――競技を行う上で、身体作りのトレーニングはどのようなことをされていますか。

レーサーとしての体力トレーニングの重要性は高くて、特に首のトレーニングは欠かせません。例えばみなさんが車に乗っていて、ちょっと速いスピードで曲がると体が横に持ってかれますよね。レースではそれの3倍、4倍の力が首や体にかかるんです。しかもそれが1時間以上続くのでけっこうしんどいんですよ。

そういったこともあるので、1時間以上ちゃんとドライブできるように筋トレをしています。僕の場合は月に3回ぐらいトレーナーさんのところに通って、スタジオみたいなところでトレーニングしています。

――首のトレーニングはどんなことをやるんですか。

特に長い間乗っていないと、首が鍛えにくくて、繊細なので下手すると怪我しちゃいます。実際にはトレーナーが首を引っ張ったりゴムとか力加減を調整しながら鍛えます。

――モータースポーツを知らない人に対して、どの様な魅力を伝えますか?

モータースポーツの魅力を伝えるためには、実際にサーキットでの体験やゲームなどのバーチャル体験が分かりやすいですね。例えばサーキットで隣に乗ってもらったり、実際に行ってみるとスピード感や音、匂いなど様々なことが感じ取れると思います。特にGTのレースは数十台の車がスタートする時の迫力や音、風の圧力はすごいです。迫力ある場面でレースの魅力が伝わりやすいと思います。
○夏に放置された車に乗るときの暑さ…!

――イゴール選手が今から車にそこまで馴染みのない大学生を指導する場合、リアルとゲームどちらを勧めますか。

まずはやっぱりお金がかからないグランツーリスモを勧めます。実際のサーキットを走るには走行枠を買ったり、メンテナンスと色々なところでお金がかかります。グランツーリスモならトライ&エラーができて、壁にぶつかっても大丈夫なので冒険が色々できるんですよ。例えば実際にコースを走ってみて、ここは車が暴れるからやめとこうみたいな。そういった想像もできるようになるので、運転技術もどんどん向上していくと思います。

――グランツーリスモではどのようなものを参考にすればいいですか。

参考になるのはデイリーレースでトップドライバーのリプレイを見ることです。ブレーキングやアクセルの踏み方、ギアの変化などを細かく見ることで、新しいアイデアや学びが早まると思います。全てのインプットに対して車は違う動きをするので、そこをリプレイで学ぶことが重要です。

――映画のシーンのように、スローモーションに見えることはありますか。

僕はあんまりなかったような気がします。選手ごとに色々あると思うので個人的にレース中はずっと普通かなって思います。

――レース中も普通な感じでできるんですか。

普通に保ってるかわからないけど、心拍数はシュミレーターでもめちゃくちゃあがります。2018年の僕が勝った選手権では心拍数を測るやつをつけていました。最後の一周で1位を抜かして、そのままゴールしてめちゃくちゃ緊迫した場面でした。いざ心拍を見てみると、多分170とかいっていて、それだけ緊張した戦いでした(笑)。

――レース前のルーティーンについて教えてください。

ブラジルって結構キリスト教が多いんですけど、僕もレース前はお祈りをするのが好きなんです。もちろんその前にちゃんと準備運動とかを行って、集中力高めて車に入ってそのお祈りをしてからレースに出るみたいなことをしています。

――ちなみにレーシングスーツってどんな着心地なんですか。

とにかく暑いです(笑)。 早く脱ぎたい! レーシングスーツに夏服冬服はないんですよ。そもそも体を守るために作られてるものなので防火仕様で、下着もそういう素材のやつじゃないといけないんですよ。だから長袖の下着とズボンを身に着けています。

レーシングスーツに加えて車の中が暑くてGがかかる。 走るサウナみたいな感じで、エアコンは付いてるけど涼しくはないです(笑)。例えるなら夏にちょっと放置された車に乗るときの感覚がレース中ずっと続きます。1時間弱ぐらい。今回熱中症なるんじゃないかなって感じのときもあります。スーツは燃えないけど燃える暑さですね。
○今の目標に向けて努力することが大事!

――映画『グランツーリスモ』のみどころを教えてください。

主人公のヤン選手の場合は、実際のリアルのレースの人たちから見るとただのゲーマーなんですよ。 だから周りの人の誤解というか、ちゃんと僕たちはできるんだよっていうことを証明するのがすごく難しかったと思います。そういった困難に立ち向かってチャレンジしていく姿は大きい見どころだと思います。レースだけじゃなくて、レース以外で起きることだったり、周りから色々言われ続けてもめげずに頑張っていく姿は見ものです!

――最後にキャリアを通じて学んだこと、伝えたいことを今の大学生に向けて一言お願いします。

すごく先を見つめるって言うよりかは、自分の今の目標に向けて何ができるかっていうことがすごく大事だと思います。目標に対して一生懸命努力する、それを毎日積み重ねていくと大変な目標とかでもだんだん形になってきます。それがまたモチベーションになってくると思うし、自分の好きなことに向かって努力することはすごく素敵なことですよね。

自分の成長もそうですけど、いろんな人とも出会えるし新たな可能性も出てくるかなって思います。努力したことは絶対無駄にはならないので、ポジティブな部分を考えてどうやって次に活かせるか考えることがすごく大事なんじゃないかなと思います!
○取材を終えて

インタビューに真摯に答えてくださり、レースがわからない自分にもわかりやすく説明してくれるイゴール選手を素直に尊敬します…! 遠い将来まで考えるのではなく、今目の前にある目標に向かって突き進む姿勢は中々できることではないですが、見習いたいと思います。イゴール選手、とても笑顔が素敵でした!

今回の映画『グランツーリスモ』も、目標に向かって全力で取り組む主人公の青春や努力、葛藤など、モータースポーツを知らなくても様々な共感を得られる作品だと思います。

何かに挑戦したい!と思っている方は映画館に足を運んでみてください。

映画『グランツーリスモ』2023年9月15日(金)全国公開

・タイトル:『グランツーリスモ』 、原題:『GRAN TURISMO』
・日本公開表記:9月15日(金)全国の映画館で公開
・US公開日:8月11日予定 ・監督:ニール・ブロムカンプ(『第9地区』『チャッピー』)
・脚本:ジェイソン・ホール(『アメリカン・スナイパー』)、ザック・ベイリン(『クリード 過去の逆襲』)
・出演:デヴィッド・ハーバー(『ブラック・ウィドウ』「ストレンジャー・シングス」シリーズ)、オーランド・ブルーム、アーチー・マデクウィ(『ミッドサマー』)、 ジャイモン・フンスー(『キャプテン・マーベル』)
・日本語吹替版テーマ曲:T-SQUARE「CLIMAX」
・字幕版/日本語吹替版上映
※「PlayStation」、「プレイステーション」、「PS5」、「PS4」および「グランツーリスモ」は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。

映画『グランツーリスモ』オフィシャルサイト:https://www.gt-movie.jp/
「グランツーリスモ」シリーズ公式サイト:https://www.gran-turismo.com/jp/

インタビュー・文:塚本日向(マイナビ学生の窓口編集部 「学窓ラボ」所属)