〈池袋・電動キックボード事故〉23歳無職女性だけでないマナー違反者が続出…視覚障がい男性が語る“音に気づきにくい”恐怖…都盲人福祉協会は「相談は後を絶たない」

東京・池袋駅近くの歩道で、電動キックボードで走行中に年配の女性と衝突し、ろっ骨を折るなどの大ケガを追わせて逃走したとして、警視庁は9月9日、埼玉県吉川市の無職・伊藤明理那(めいりな)容疑者(23)を逮捕した。9月13日、集英社オンラインは事件を詳報するとともに、電動キックボードにまつわるトラブルについて情報提供を呼び掛けたところ多くの声が寄せられ、なかでも視覚障がい者からの声は深刻だった。これまでメディアが見落としていた問題点を詳報する―。
自動車運転死傷処罰法違反(過失傷害)と道路交通法違反(ひき逃げ)の疑いで再逮捕されたのは、埼玉県吉川市在住の無職・伊藤明理那(めいりな)容疑者(23)。事件が起きたのは、池袋駅の東口と西口をつなぐ最短通路となる歩道で、自転車で走行すると警備員に降りるよう指示される「自転車通行禁止エリア」だった。
伊藤明理那容疑者(本人SNSより)
「伊藤容疑者は9月9日、この付近でレンタル電動キックボードを運転し、60代の女性と衝突してから逃走をはかったとみられる。駆けつけた警察官の腕をペットボトルで叩いたとして、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕された後も、取り調べに対し『キックボードと歩行者はあたっていないと思うが、転倒したのは私が原因』と一部、容疑を否認している」(社会部記者)電動キックボードについては、7月1日の道路交通法改正によって規制緩和されたばかり。現在では、特定小型原動機付自転車(電動キックボードをふくむ)は16歳以上は免許不要で、最高速度を時速6キロ以下の設定に切り替えるなどしていれば、歩道や路側帯での走行も可能となっている。しかし、伊藤容疑者は調べに対し「ルールを完全に理解しておらず、歩道を走行していいかどうか知らなかった」と供述しており、使用していた電動キックボードについても、事故時は最高速度20キロに設定されており、法律上は歩道を走行できない状態だったという。
事故があった歩道(撮影/集英社オンライン)
集英社オンラインは、#1にて「電動キックボードにおけるトラブル」について情報提供を求めたところ「毎日のように親子の二人乗りをみかける」「トンネルで真ん中を蛇行運転していた」「スクールゾーンでも爆走して子どもがひかれそうになった」など、多くのルールやマナーを守らない利用者についての情報提供が複数あり、今回被害にあった高齢者だけでなく、子どもや障がい者など社会的弱者が危険に晒されていることが明らかになった。とりわけ取材班が注目したのは、視覚障がい者が訴えた電動キックボードの“音に対する恐怖”だ。
取材に応じたのは、2017年に発症した脳出血の後遺症で、「右同名半盲」という視覚障がいを負った京都府在住の岸野亮哉さん(48)。岸野さんはふだん、白杖を持って外出しているのだが、電動キックボードにはこれまで何度も危険な目に遭っているという。「電動キックボードの厄介なところは『音に気づきにくい』という点にあります。これまでも、『スピードを出した自転車』や『歩きスマホ』には困っていましたが、電動キックボードは走行時の音も小さいので、気づかぬうちにスピードを出したまま横をすり抜けられていき、ヒヤッとした経験があります。自動車などと違ってルールを習うわけでもないし、警察による取り締まりもない。そのため、速度をきちんと守っている人にもあったことがないし、人間が走るくらいのスピードで走行している人がほとんどで困っています」
電動キックボード(撮影/集英社オンライン)
岸野さんによると、京都で電動キックボードを見かけるようになったのはおよそ1年前から。電動キックボードが普及して日も浅いことから、まだ「音に慣れていない」と不安を語る。「それこそ自転車や自動車でしたら、ペダル音やエンジン音などで気配を察知できますが、電動キックボードの音については聞きなじみがないので判断が遅れてしまう。おまけに私たち視覚障がい者は、目が不自由であることから、事故にあっても逃げられてしまったり、ときには被害者であっても『そちらからぶつかってきた』『急に飛び出してきた』などと嘘をつかれ、加害者扱いされてしまうおそれがある。電動キックボードに対しては不安がありますし、同様の声は視覚障がい者仲間からもあがっています」愛知県内に住む、生まれつき全盲の男性からはこんな情報提供もあった「自転車がすぐ横をすり抜けただけでも非常に怖い思いをします。それが速度の出る電動キックボードともなりますと、身の危険を感じざるをえません。変に普及しすぎて後からどうのこうの言っても事故は後を絶たないと思うので、今のうちにきっちり講習を受けるなどして、免許制にすることを望みます」東京都盲人福祉協会の事務局長の山本氏は、電動キックボードに対する相談が後を絶たないという。「7月1日の道路交通法改正以降、電動キックボードの歩道走行に対する相談はやはり増えていて、『(電動キックボードが)いると思わなくてスーッと通られた』などの声が多く届いております。協会としても、東京都や都議会の各会派に対する『要望書』のなかに『視覚障がいを持った人たちも安心して歩行できるよう、自転車同様に電動キックボードの取り締まりをお願いします』といった内容を明記して、改善に取り組んでいます」
視覚障がい者が白い杖を持っている意味を改めて考えたい
警視庁は9月1日、規制緩和された電動キックボードをめぐる7月の検挙件数は計406件にのぼり、交通ルールに反して歩道を走行するなどした通行区分違反が4割ちかくを占めたと発表した。重篤な事故につながる前に、何らかの対策が求められる。
※「集英社オンライン」では、電動キックボードのトラブルについて、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected]X(Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班