【森永卓郎の本音】 たばこ増税の意味

25年度に先送りされた「防衛費倍増」の財源論議が、静かに始まっている。当初の発表では、必要な財源のうち歳出改革で3兆円、決算剰余金で3・5兆円、防衛力強化資金で4・6兆円を調達するのに加えて、決算剰余金の上振れ分を活用しても足りない1兆円強を所得税、法人税、たばこ税で賄うとしていた。
3増税のなかで、批判がほとんど聞かれないのが、たばこの増税だ。煙害をまきちらす喫煙者が支払うのだから、それでよいと大部分の国民が思っているからだろう。
しかし、たばこ増税の最大の問題は、増税しても税収が増えないことだ。実際、96年度のたばこの税収は、2兆1300億円だった。それが21年度には2兆300億円に減少している。この間、97年、98年、03年、06年、10年、18年、20年、21年と、大きな増税だけで8回もたばこ増税は行われている。しかし税収は減っているのだ。
たばこ税を増税した直後は一時的に税収が増える。しかし、すぐにたばこをやめる人が増えて、税収が落ち込んでいくのだ。にもかかわらず、財務官僚がたばこ増税を繰り返すのは、彼らの評価がどれだけ税収を増やしたかではなく、どれだけ増税したかで決まるからだ。
税収が減るならともかく横ばいなら、被害がないと思われるかもしれない。しかし、96年度の紙巻きたばこの販売本数が3483億本だったのに対して21年度は937億本と、3分の1以下になっている。その分だけ、たばこ製造業や材料品を製造する企業や葉たばこ農家の生産が落ち込んで、経済規模を縮小させているのだ。
もういいかげんにたばこ増税で財源論議をごまかすのは、やめたほうがよいのではなかろうか。(経済アナリスト・森永卓郎)