<豊胸ブームでトラブル続出>「注入したジェルがそけい部から噴出」「術後半年で激痛と腫れ」危険なアクアフィリング豊胸がなくならないワケ。患者には10代女子から80代女性も

豊胸手術の術式のひとつ、「アクアフィリング豊胸手術」。しかし、その危険性から日本では形成外科学会と美容外科学会などが施術を勧めていない。だがこの術式を受ける人が後を絶たないのも事実だという。実際にこの手術をしてトラブルに見舞われた女性たちに話を聞いた。
国際美容外科学会(ISAPS)によると、世界での豊胸手術件数は2022年で220万件。前年比29%増となるなど、女性にとってもっとも一般的な美容整形手術のひとつとされている。豊胸手術の種類は主に「ヒアルロン酸注入」「脂肪注入」「シリコンバッグ挿入」の3つ。そのほかに「アクアフィリング注入」があるが、アクアフィリングというジェル状の注入剤はヒアルロン酸と違って体内に吸収されず、しこりとして残ってしまう。それに伴い授乳機能に悪影響を与える可能性があるという危険な手術なのだが……。都内在住の美容サロンで働く女性、Aさん(25歳)は全国展開する大手美容外科クリニックBで、2019年8月にアクアフィリング豊胸手術を受けた。だが術後、胸の違和感や痛みに悩まされるようになった。「術後半年くらいから注入部がヒリヒリしてきて、その後、乳房が赤く腫れ上がってきたんです。そして、ヒリヒリする感覚はだんだんと我慢できない痛みに変わっていきました」
写真はイメージです
Bクリニックは「生涯にわたるアフターケアをする」とうたっていたことから、Aさんはすぐに連絡し、処置してもらった。「一刻も早くジェル(アクアフィリング)を取り出してほしいと訴え、太い針の注射器で吸い上げて除去したのですが、局所麻酔とはいえ激痛でした。しかも1回ですべてを取りきれず、2回目の除去手術でも激しい痛みを覚えました」そんなAさん以上にひどい状態に陥ったのはCさん(31歳)だ。Cさんは2020年11月に某大手クリニックでアクアフィリング豊胸手術を行うも、やはり術後3ヶ月ごろから異常を自覚した。「(乳腺下に)注入したジェルが胸の谷間のすぐ下くらいに転移してしまったんです。恐かったのですぐにクリニックに行って注射器で取ってもらいましたが、約1ヶ月後には腹部にコブができました。そのコブがそけい部や大陰唇部にまで転移して激痛に。やがて歩行困難になり、最後には性器の大陰唇あたりの皮膚からジェルが噴き出てきたんです……」
なぜこのようなことが起こったのか。豊胸手術や豊胸修正手術を得意とする東京美容外科赤坂院の安田康祐院長に聞いた。「アクアフィリング豊胸手術はアメリカやEU、中国などでは禁止されている手術方法です。注入剤はポリアミドと水を配合した『アクアミド』という成分で構成されているため、ヒアルロン酸よりも体内組織に馴染みやすいといううたい文句で登場しましたが、実際は体内の脂肪や組織を溶かして炎症や化膿を引き起こす危険な成分なのです」AさんやCさんの体に起こった異常も、この注入剤が原因なのだという。「Aさんの場合は、おそらく注入したアクアミドが体内の正常組織を破壊して炎症を起こすなどしたことが、痛みや腫れの原因と考えられます。Cさんの場合はジェルが体内でイミグレーション(転移)を起こし、さらには皮下脂肪まで溶かして体外に噴出したのだと思います」(安田院長)
東京美容外科赤坂院の安田康祐院長
さらにアクアミドは他臓器への悪影響も。「Cさんのように体内の正常組織を溶かして体外に噴出するといった危険性以外にも、体内の大胸筋や肋骨を突破して肺にまで達することも十分考えられます。そうすると、肺炎などを引き起こすほか、アクアミドは発がん性もあるという報告も。最悪の場合は死に至る可能性もあります」(安田院長)信じられない事態を巻き起こすアクアフィリング豊胸。そもそも、なぜアメリカやEU、中国で禁止されている施術が日本では平然と行われているのか。「日本では日本形成外科学会など4団体で使用禁止を呼びかけてはいますが、施術をしたところで罰せられることはないからでしょう。なにより時間がかかり、医師に技術がないと患者さまが納得せずクレームにつながるシリコンバッグ挿入手術に比べ、アクアフィリングやヒアルロン酸といったジェル状充填剤を用いた豊胸術はオペ時間が短く単価も高く、利益率がいい。しかも研修医上がりの先生でも施術できることから、クリニックはこの施術を勧めがちなのだと思います」(安田院長)
そして、その利益優先経営の被害者となった女性たちが、術後の治療や修正に別のクリニックを訪れるケースが後を絶たない。安田院長が経営する東京美容外科赤坂院でも新規豊胸手術と、他院での術後の治療の相談は半々程度になるという。リスクが高いといえるアクアフィリング豊胸だが、その施術を勧めるクリニックは確かに存在する。また、アクアフィリングの製造元が2019年に名称を変更したことに伴い、アクアフィリングを「ロスデライン」という別名称で扱うクリニックもあるという。この豊胸手術で心にも体にも傷を負った先述のAさんはこう話す。「私は決して巨乳になりたかったわけではありません。水着やお洋服を着たときに、少し自信がつくようなデコルテ(胸もと)部分の膨らみがほしかっただけでした。でも、結局は自分の、そのままの体が健康であることが一番大事なんだと思いました」
手術中の安田院長
昨今は豊胸ブームで、安田院長のもとにはSNS映えを求め、親同伴で来院する18歳の女子から80歳の女性まで訪れるという。安田院長は言う。「どの年代の方も、豊胸手術ならやはりあとからすべて取り出せるシリコンバッグ挿入をお勧めします。昨今は柔らかい素材のシリコンも登場していますし、膨大な手術件数と技術向上により患者さまの満足度もどんどん上がっています。体型的にデコルテ部分にバッグの縁が浮き出やすい方にはシリコンバッグ挿入と脂肪注入を併用する『ハイブリッド豊胸』を勧める場合もございます。いずれにしてもリスクのあるアクアフィリング豊胸手術を選ぶのは避けていただきたいです」ひとつしかない体。くれぐれも美容整形は慎重に。※「集英社オンライン」では、豊胸に関するトラブルについて、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:[email protected](Twitter)@shuon_news取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班