「戦車を撃破したぞ」→実は風船でした!? 今もみんな引っかかる「ダミー兵器」のすごさ 騙し合い進化!

2023年9月下旬、ロシア軍の第45独立偽装工兵連隊が再びウクライナの戦場に姿を現しました。この部隊はバルーン戦車で敵を欺くことで知られていますが、今でもこうした欺瞞工作は有効なのでしょうか。
ウクライナ南部の戦線で、2023年9月下旬、ロシア軍の第45独立偽装工兵連隊が再び戦場に姿を現したことが報じられています。
「戦車を撃破したぞ」→実は風船でした!? 今もみんな引っかか…の画像はこちら >>膨らませて完成間近のバルーン製T-72(画像:Vitaly V. Kuzmin)。
同連隊は「膨張式連隊」という異名を持ちます。なぜなら、T-72戦車を戦場で瞬く間に増やすことができるのです――とはいってもその車両のほとんどは本物ではなく、空気を入れたバルーンで作られたダミー戦車です。
軍事用語では「デコイ」と呼ばれるこうしたダミー兵器は、本物と間違われるケースが多く、自動車などが登場する以前は人馬を、近代以降は車両を偽装し、欺瞞(ぎまん)作戦がしばしば行われてきました。
かつて第二次世界大戦中の北アフリカ戦線では、こうしたダミー兵器が大量投入されています。砂漠などの乾燥地帯が舞台となった同戦線は、樹木などの遮蔽物に乏しく、航空偵察されると丸見え状態でした。これを逆手に取ったのが、ドイツ・アフリカ軍団を指揮していたエルヴィン・ロンメル中将(当時)でした。
ロンメルは、自動車に板などを張り付けハリボテの戦車を作り、強力な戦車部隊がいるように度々見せかけました。先頭だけは本物の戦車を配備して、砂煙を出すことで、砂や空気のゆらぎなどで視認を困難にさせる戦法でした。ほかにも、偽装した燃料集結所や、指令所に模した偽の家屋なども設置しました。
これらの欺瞞作戦がどれほど効果を発揮したかは意見が分かれるところですが、枢軸軍は、戦車の保有数で劣勢の局面が多かったにも関わらず、戦闘を優位に進めていた期間が長かったのは事実です。
一方イギリス軍も同じく、ハリボテなどを用いた欺瞞作戦を同戦線で展開しました。特に大規模だったものとして知られるのが、1942年10月から開始された「第2次エル・アラメインの戦い」です。
このときイギリス軍のモントゴメリー大将は、枢軸軍を北側から攻撃することを計画していましたが、南側から攻撃すると見せかけるために、北側に集めた戦車をトラックに偽装。対して南側にはハリボテ戦車のほかに、偽のパイプライン、偽の線路、偽の燃料や水を貯蔵する施設を設置したほか、さらには偽の建築音まで出して偽装しました。
さらに、こうした方法は、1944年6月6日に実施されたノルマンディー上陸作戦の偽装工作でも使われました。イギリスはじめ連合軍は、大規模な戦車部隊や車両群をハリボテで作り、イギリス南部へ展開、上陸目標はノルマンディーではなくパ・ド・カレーだとドイツ軍に思い込ませたのです。
戦後、高性能なレンズやカメラなど光学機器が発展しても、一瞬でその目標が本物か判断することは困難な場合が多く、1998年2月から翌年の6月まで行われたコソボ紛争において、アメリカを中心としたNATO諸国の空爆に対してユーゴスラビア軍が、大量のダミー戦車を投入し対抗しました。こうしたダミー兵器の目的は、わざと目立つところに置き、高価なミサイルや爆弾を無駄に使わせるのが役目となっています。
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北アフリカ戦線で使われたトラックに板をかぶせたダミー戦車(画像:帝国戦争博物館)。
今回のウクライナ侵攻でも、ロシア、ウクライナ両陣営がダミー兵器を用いています。ロシアがT-72やS-300地対空ミサイルを模したバルーンでかく乱すれば、ウクライナ側も高機動ロケット砲システム(HIMARS)や、M1「エイブラムス」を模したバルーンで対抗するといった状態です。ドローン技術の発展により自爆ドローンの攻撃が多くなっていますが、バルーン戦車などはこの攻撃にかなり有効です。
熟練のオペレーターではないと、モニター越しの攻撃対象が本物かどうか判断することは困難といわれ、むしろ現代においてダミー兵器が必要なケースは過去よりも増えるという状態になっています。
しかも、ただのダミーではなく、バルーンの中でヒーターを入れることで、エンジンが動いていると勘違いさせたり、発信専用の小型レーダー装置を用いて、本物のレーダー装置が発するような信号を出して錯覚させるような装備も使われているケースもあり、騙し合いも進化しているようです。