[社説]日銀に新総裁 暮らし守る金融政策を

アベノミクス下で10年間続いてきた大規模な金融緩和は今、さまざまな弊害をもたらしている。暮らしを守る金融政策へとかじを切るべきだ。
政府は日銀の次期総裁に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を充てる人事案を国会に提示した。
黒田東彦総裁が4月8日に任期満了となるのに伴う人事だ。2人の副総裁も交代し、前金融庁長官の氷見野良三氏と日銀の内田真一理事を起用した。
衆参両院の同意を得て総裁は4月9日、副総裁は3月20日に就任する。
総裁ポストはこれまで、財務省や日銀のOBが就くことが多く、学者出身は戦後初めてとなる。
植田氏は東大教授を経て1998年から7年間、審議委員を務めた。日銀が戦後、世界で初めてゼロ金利政策や量的金融緩和策を導入した際の理論的支柱を担っており、金融緩和策の欠点にも詳しい。
大規模金融緩和の出口戦略については「いろいろと難しい問題があるのは百も承知している」と述べた。
歴史的な円安は輸入品やエネルギーの価格上昇に拍車をかけ、家計を圧迫している。
一方、新型コロナウイルス禍の影響は色濃く残っており、引き締め政策に転じれば個人や企業の資金繰りが一気に悪化しかねない。
蓄積された課題を解決に導くのはたやすいことではないが、これ以上の弊害の広がりは許されない。時期や手法を見極め、正常化に踏み切るべきだ。
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「異次元の金融緩和」と呼ばれる金融政策の始まりは2013年の政府と日銀の共同声明だ。長引くデフレ脱却に向け、故安倍晋三氏がアベノミクスの一環として打ち出し、その実行役に起用されたのが黒田氏だった。

「2%の物価上昇目標を2年で達成する」として大規模緩和策を断行し、当時、消費者物価の上昇率を5年ぶりに1%台に上げた。しかし目標達成はならず16年には異例の長短期金利の操作にまで踏み込み今に至る。短期金利をマイナスにする金融緩和は市場の自浄作用を阻害している可能性がある。
長期金利は通常、投資家による国債の売買で決まる。その介入で日銀はいまや国債残高の半分以上を保有し、政府の財政規律のゆがみにもつながっている。
異次元緩和は金融政策の限界も示したと言える。政府や日銀はこの10年の功罪について検証すべきだ。
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緩和一辺倒の金融政策のもととなっている共同声明の見直しが必要だ。
政策提言組織の令和国民会議(令和臨調)は「できるだけ早期に実現する」としている2%の物価上昇率を「長期的な目標」と位置付け、新たに「賃金上昇」を明記することを提案した。
政府と日銀がある程度の協調を保つことは必要だ。しかし、日銀が常に縛られるようでは絶えず動く経済に対応できない。
独立性を堅持し、国民の暮らしを見据えた柔軟な政策実行を望みたい。