男性ホルモンの値を調べるため採血する崎浜秀也運動部長(左)=2日、那覇市与儀・赤十字病院 5月で59歳になる。いわゆる「アラ還」だ。体調はいまいち。だるい、ぐっすり眠れない、イライラする、頻尿、筋力の低下、休みでも外出がおっくう…。そんな症状も「年だから仕方ない」「他の人もそんなもん」と大して気にも留めていなかった。仕事も若い頃と比べると体力的にきついが、倒れるほどではない。なんとかなっているから大丈夫。そう思っていた。(運動部・崎浜秀也)
そんな時、同僚から取材を兼ねた「男性更年期障害」を扱う病院の受診を持ちかけられた。閉経に伴う女性ホルモンの低下で、ほてりや発汗、落ち込みなど、さまざまな症状が出る女性の更年期障害については広く知られている。「男性の更年期障害」も言葉としては知っていたが、具体的な知識はなかった。
「ヒニョウキカ」。さすがに敷居が高いが、2月2日、人生初の泌尿器科受診となった。
訪ねたのは沖縄赤十字病院。総合的に調子が思わしくない、関節や筋肉の痛み、睡眠の悩み、不安感、憂うつな気分など、調査票として国際的にも使われている17項目について、身体や精神の症状チェックを診察前に行った。男性更年期障害の重症度からすると「軽度」と出た。
診察室に入ると、泌尿器科第一部長の外間実裕医師が、にこやかな表情で迎えてくれた。体調や睡眠、病歴、家族構成、仕事内容など、基本的な質問を受けた。
「60歳近くになり男性ホルモンが低下すると、以前のようにストレスを受け止められなくなるケースが出てきます。男性ホルモンのテストステロンは、ストレスに抗(あらが)う働きをします。それが減って症状が出ている可能性があり、その場合はホルモンを補充する注射があります」と外間医師。「ホルモンが原因でなければ、次に考えられるのは心因性。その場合は心療内科を受診してもらうことになります」。
受診後にホルモンの数値を計るため、採血した。
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外間実裕医師(左)から働き方や生活習慣などに関する問診を受ける崎浜秀也運動部長 2月13日、採血の検査結果を聞くため、再び同科へ。「総合テストステロン」「活性型テストステロン」とも十分ではないものの、正常値の範囲内だった。外間医師に「症状はあるが、今は仕事ができており、治療のレベルではありません」と言われ、少しほっとした。
だが今後、ライフステージによってストレスの感じ方は変わってくる。「現状のホルモン量でやっていけるよう、生活を見直す必要があります。家族の協力や同僚のサポートも必要になるでしょう」とのことだ。
加齢とともに、体力が衰えるのは必然だ。無理も利かなくなる。男性ホルモンも減少傾向となり、同じ仕事量でもきつさは増す。
記者職もそうだが、医師もプレッシャーやストレスが多い職種だろう。
外間医師は61歳。私と大差ない。どう対応しているのか尋ねると「私も男性ホルモンが多い方ではないので、体調管理には気を使っています。早く寝るようにして、読書もネットも遅い時間まではやりません。私だけでなく、世の中の人、みんな忙しいですからね。要はバランスです。私も患者さんと接しながら、いろいろ勉強させてもらっています」。
敷居高いが一歩踏み出して受診を終えて
数値が極端に低ければ、ホルモン注射をお願いしようと思っていたが、ひとまず必要はなし。それでも「うつ症状」まではいかないものの体調は万全ではないので、先生の助言に従って生活を見直そうと思う。
泌尿器科の受診は確かに敷居が高い。勇気がいる。今回も、取材の一環でなければ踏み出せなかった。だが心身の不調の原因が男性ホルモンにあると分かれば、注射で対処できるケースもあるし、そうでない場合は心療内科で対応できる。気になることや思い当たることがあるなら、受診をちゅうちょしないことが大切。そう感じた。
ホルモン注射で改善 57歳本紙調査部長 2年前から投与
オピニオン面を担当する大嶺忍調査部長(57)は、5年ほど前から「体が重い」「疲れやすい」と感じることが増えた。内科のかかりつけ医に相談すると「男性ホルモンの数値を調べてみては」と泌尿器科の受診を勧められた。検査を受け、男性ホルモン値が正常値より低いことが判明。2年前からホルモン注射を続けている。
2~3週間に1回、ホルモン剤を投与してもらうようになり「少しずつ状態は良くなった。一番元気な状態を10とすると、最悪の時は2~3。今は6~7という感じ」と実感を込める。
心身に不調を感じるようになったのは、50代に入った頃。仕事が終わるとぐったりし、夕食もそこそこに午後8時には就寝する日々。だが深夜に目が覚めて熟睡できず「このままでは、体がもたない」と危機感を抱いた。
そんな時に信頼できる医師たちに出会い「悪化を免れた」と感じている。「すぐに元気になったわけではないが、ホルモン注射をしていなければどうなっていたか」。治療を受けて2年ほどたつが、1回の費用は1200円程度で負担は軽いという。
医師から「筋力がつけば男性ホルモンの数値は上がる」とアドバイスも受けた。「今も体のだるさを感じ、運動への意欲が湧きづらいが、無理のない範囲でやれたら」と前を向く。
体調管理に努めながら仕事も続けている。「無理しない」「体調不良を隠さない」「周囲に理解と助けを求める」が今のモットーだ。
「受診をためらう男性も少なくないだろうが、結果的に良くなるなら病院に行った方がいい。私自身もこれ以上悪くならないよう、体と向き合いながら働きたい」と語った。
仕事・生活のストレス影響沖縄赤十字病院 外間医師に聞く
沖縄赤十字病院泌尿器科の外間実裕医師 男性ホルモンの減少に伴い心身に不調が生じる男性更年期障害。加齢に加え、仕事や私生活のストレスも影響しており、つらい症状を一人で抱え込む人が少なくない。外間実裕医師に、診療の現場で見える課題と対応策を聞いた。
-受診のきっかけは。
「抑うつや疲労感などの心理的症状で来院する人が多い。睡眠障害や記憶・集中力の低下なども見られ、仕事に行けなくなるほど日常生活に支障を来す。内科や心療内科を受診してもあまり改善が見られず、男性更年期障害を疑って紹介されて来る人もいる」「発症する40~60代の男性は職場で管理職の立場であるとか、子どもがいる人の場合は進学に伴う経済的負担などで、強いストレスにさらされている。責任感の強い人が多い印象もある」
-どんな治療をするのか。
「男性更年期障害は正式には『LOH症候群』といい、症状は多岐にわたる。対処方法は明白で、月1回程度のホルモン注射が主な治療。不調の原因がホルモンの減少であれば、定期的にホルモン注射することで、イライラや不安感が減るなど、体調の変化を実感できる」「男性ホルモンは加齢とともに減っていくが、定年退職などでライフステージが変化するとストレスは軽減するので、生涯注射する必要はない。ホルモン投与しながら、ストレスにどう対処していくかを自身で考えることも大切。働き方や食生活、睡眠、運動習慣などを見直すことも欠かせない」
-悩む人に伝えたいことは。
「男性更年期障害への理解は広がりつつあるものの、受診する人はまだ少ない。長期間、症状が続く場合は泌尿器科で診てもらうことも検討してほしい。つらい時は一人で解決しようとせず、一度、専門機関を訪ねてほしい」(聞き手=学芸部・嘉数よしの)
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