「飛行機の一番近くで働きたい」グラハン女子26歳 地上支援業務「グランドハンドリング」で空港支える

新型コロナウイルスの影響で世界中の往来が大きく制限され、大きなダメージを受けた航空業界。徐々に往来が回復し旅行者も増える中で、安全なフライトを支える「グランドハンドリング」の人材が不足し、確保に頭を悩ませています。まだ現場では少数派の女性グランドハンドリング、「グラハン女子」に密着しました。
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セントレア(中部空港)で、到着した飛行機を決められた停止位置まで誘導する作業「マーシャリング」をしている女性がいました。末永悠光(すえなが ゆうみ)さん26歳です。どうしても飛行機に関わる仕事がしたくて、4年前この仕事に就きました。
(ANA中部空港 グランドサービス部 末永悠光さん)「小さい頃から飛行機に乗る機会が何度かあって、その度に『飛行機いいな』と思って。私も、飛行機の近くで働きたいと思った。どの部署が一番飛行機の近くで働けるかと考えたときに、グラハンの仕事は直接関わることができるので、いいなと思ってこの仕事を選んだ」
利用客と接するCAやグランドスタッフなど華やかな旅客業務もありますが、末永さんが選んだのは「グランドハンドリング」という空港の陰の主役です。
通称「グラハン」は、乗客からはほとんど見えませんが、飛行機がスタンバイする駐機場で、到着した飛行機の誘導から荷物の積み下ろしなど、飛行機を安全かつ定刻通りに飛ばすための業務を休みなく行っています。文字通り、フライトを支える空港の最重要業務です。
(ANA中部空港 グランドサービス部 末永悠光さん)「まだ完全に(コロナ前のように)戻りきったとは言えないが、手を振る時に窓から見えるので、お客さまがたくさん乗ってくれているな、めっちゃ手を振ってくれているな、というのを実感する」
しかし、セントレアも含めて多くの空港で深刻化しているのが…「グラハンスタッフの不足」です。
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きっかけは新型コロナの感染拡大。国際線の運航停止や利用客の大幅減少で仕事が減り、将来への不安から退職者が急増したのです。
(ANA中部空港 グランドサービス部 末永悠光さん)「(当時は)どうなるんだろうっていう気持ちがして。わかるんですよね、仕事が減ってくっていうのが。来る飛行機も少なくなってしまって、海外からの飛行機もなくなって、国内線も減って。これからどうなっていくのだろうなという不安は、すごくありました」
ANA中部空港 総務部人事課の加藤百合香さんによると、2020年4月と比較して、1割程度社員が減少。主に飛行機の周りで仕事を行うグランドハンドリングを担う人材が不足しています。
末永さんが所属するセントレア専属の地上業務会社ANA中部空港でもコロナ禍で247人が辞め、そのうちグラハンスタッフの退職は61人に上りました。
(ANA中部空港 総務部人事課 加藤百合香さん)「現時点でのオペレーションでは問題ないが、今後、国際線が回復することを見越すと、スタッフ数が足りなくなることが予想される」
まだコロナ禍前の便数に回復していないため余裕はありますが、この先を考えると人手不足は極めて深刻な問題となっています。
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こうした中、業界全体でも動きが。2023年8月、ANAやJALなど地上業務などを担う50社が合同で「空港グランドハンドリング協会」を設立しました。
人材確保のため、賃上げや労働環境の改善を進めるだけでなく、航空会社ごとに異なる資格や車両の仕様などの業界ルールの整備、働き手を増やすために航空専門学校との連携などにも取り組みます。
ANA中部空港も、新たなリクルート活動に乗り出しました。それは「グラハンのインターンシップ」です。そもそもこの仕事の認知度が低く、希望者が少ないという問題が以前からありました。
積極的にPRして実際に仕事を体験してもらい、グラハン業務に関心を持つ人を増やすことが狙いです。
(インターンシップに参加した大学3年生)「きついという感情よりも、お客さまのために裏で頑張るという仕事のかっこよさに魅力を感じました」
実際に参加した学生からは、興味がわいたという好意的な声が出ました。休日も増やし、労働環境の改善も打ち出しています。コロナ禍で、グラハンの仕事にいい変化も出てきました。
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(ANA中部空港 総務部人事課 加藤百合香さん)「現在、グランドハンドリングを志望する女性が増えてきている。採用の募集をしても、志望する学生の半分が女性なので、今後女性が活躍していく領域が増えていくのではないかと感じている」
女性の社会進出推進に伴い、グラハン女子も増えています。ANA中部空港のグランドサービス部では、今や全体で女性が占める割合はおよそ2割。以前は男性の職場だった業界が、大きく変わりつつあります。
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夜のセントレアでは、到着した飛行機を点検する末永さんの姿がありました。
(ANA中部空港 グランドサービス部 末永悠光さん)Q今から何をする?「今からブレーキマンの作業をする。コックピットに入って、機長の席にブレーキをいつでも操作できるように座る」
翌日の離陸に向けて、空港に留まる飛行機を所定の位置へ移動させるのもグラハンの役割。コックピットに乗り込んでブレーキを操作します。なかなかないことなので、ワクワクしながら作業するという末永さん。飛行機に憧れ、この業界を目指した彼女にとって最高の瞬間です。
(ANA中部空港 グランドサービス部 末永悠光さん)「(コックピットに)座るときは緊張します。いろんなスイッチがあって、間違って触ると大変なので」
これで1日の仕事は終了。灼熱の夏も凍てつく冬も、雨の日も雪の日も、飛行機のすぐそばでフライトを支えます。
(ANA中部空港 グランドサービス部 末永悠光さん)「これから航空業界も変わる時というか、このコロナ禍を機に変わって、またみんなで頑張っていきたいと思っているので。みんなでもっと航空業界を盛り上げたいなと思っています」
きょうも、末永さんの誘導で飛行機が到着します。
CBCテレビ「チャント!」10月10日放送より