日本が売り込みかける「謎の水陸両用車」とは? 造船系メーカーが開発 ニッチ需要がそこにある!

オーストラリアの海洋防衛イベントに日本から防衛装備庁と企業が初参加し、「多用途水陸両用車」なる車両が注目を集めました。作ったのは造船メーカーJMUの関連会社。輸出向けにはピッタリな装備品かもしれません。
2023年11月7日から9日まで、オーストラリア・シドニーのICYシドニーで、世界各国の官公庁や民間企業などの海洋防衛装備品が集まる海洋防衛の総合イベント「INDO PACIFIC 2023」が開催されました。日本からは初の参加となる防衛装備庁と共に約10の企業や団体が参加しました。 その企業の一つであるJMUディフェンスが出展した「多用途水陸両用車」の模型も、注目を集めていたようです。
日本が売り込みかける「謎の水陸両用車」とは? 造船系メーカー…の画像はこちら >>陸上自衛隊の94式水際地雷敷設装置。日立造船が開発し、JMUに引き継がれた水陸両用車の技術で、多用途水陸両用車も開発された(画像:陸上自衛隊)。
JMUディフェンスはその名が示すように、造船メーカーのJMU(ジャパンマリンユナイテッド)の子会社です。「造船メーカーの子会社が、なぜ水陸両用車を?」と思われる方も少なくないのではないかと思いますが、これはJMUという企業の成り立ちが関係しています。
JMUは2013(平成25)年1月に造船メーカーのユニバーサル造船とアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドが合併して発足した企業です。ユニバーサル造船も日本鋼管(現JFEエンジニアリング)と日立造船の造船・海洋部門を統合する形で誕生しています。
日立造船は練習艦「かしま」など、海上自衛隊向けに多くの艦艇を建造していましたが、陸上自衛隊向けにも「94式水際地雷敷設装置」を開発しています。これは、海岸線の水際に敵陸部隊の上陸を阻止するための機雷を迅速に敷設するための防衛装備品です。
94式水際地雷敷設装置は機雷の敷設装置と、装置を搭載する水陸両用車により構成されています。陸上自衛隊の調達は2005(平成17)年度で終了していますが、日立造船はこの装備品の開発で水陸両用車の技術を会得。それがユニバーサル造船からJMUへと継承され、JMUディフェンスはその技術を活用して、多用途水陸両用車を開発したというわけです。
多用途水陸両用車の基本的な車体レイアウトは94式水際地雷敷設装置に準じていますが、94式水際地雷敷設装置が4輪車であったのに対し、多用途水陸両用車は6輪車となっており、不整地を含む路上での走行能力も向上しています。
94式水際地雷敷設装置のメインエンジンの最大出力は239kwですが、多用途水陸両用車は最大出力が倍以上(530kw)のMTU 製8V199ディーゼル・エンジンを採用しており、路上を走行する際の最大速度は、94式水際地雷敷設装置の50km/hから70km/hに向上しています。
水上浮航時には94式水際地雷敷設装置と同様、車体左右に装備されたフロートを倒して浮力を向上させます。
94式水際地雷敷設装置は浮航時に2基のスクリュー・プロペラを使用しますが、多用途水陸両用車はアメリカのナムジェットが開発した「TJ381」ウォータージェット2基を使用します。これにより、多用途水陸両用車は最大水上浮航速度も94式水際地雷敷設装置の時速6ノット(約11km/h)から9ノット(16.7km/h)に向上。また波の高さが0.5m以上1.25m以下という、やや荒れた海面でも運用が可能となっています。貨物の積載重量は約6tです。
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「INDO PACIFIC 2023」で展示された多用途水陸両用車の模型(画像:防衛装備庁)。
JMUディフェンスは陸上自衛隊向けに、水陸機動団の兵站車両や大規模災害の救援車両として多用途水陸両用車の提案を行っており、同社はこの車体を利用する94式水際地雷敷設装置の後継車両を開発する構想を持っているとの話もあります。
陸上自衛隊の水陸機動団は水陸両用装甲車のAAV7を保有していますが、AAV7が強襲逆上陸を行って橋頭堡を築いた後、その橋頭堡に弾薬や食料などを輸送したり、負傷者を後送したりするための適当な装備は保有していません。逆上陸作戦を行う上で、多用途水陸両用車は有益な装備品になり得ると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
JMUディフェンスは2018年11月にインドネシアの首都ジャカルタで開催された「INDOディフェンス2018」でも多用途水陸両用車に関する展示を行っていました。この時はインドネシアやフィリピンなど、島嶼の多い国や地域での需要を探るため、水難事故や津波災害などの救助、医療ユニットを搭載した救急搬送などの用途も提案しています。
強襲逆上陸作戦に適した水陸両用装甲車は前に述べたAAV7のほか、近年でもアメリカ海兵隊に採用された装輪式の「ACV」などが開発されていますが、貨物や傷病者の輸送などに適した非装甲の水陸両用車はあまり開発されておらず、フィリピンやアメリカの海兵隊、オーストラリア陸軍などは1960年代に開発された水陸両用車「LARC-V」を使い続けています。
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陸上自衛隊のAAV7。上陸作戦の最前線を担う車両だが、後方支援用の水陸両用車はあまり開発されていない(画像:陸上自衛隊)。
したがって、多用途水陸両用車は需要があれば輸出が可能です。現在の防衛装備移転三原則では輸出可能な防衛装備品として「輸送」と「救難」を挙げており、それにも合致します。
2014(平成26)年4月に防衛装備移転三原則が制定されてから現在までに成立した完成防衛装備品の輸出は、フィリピンに対する警戒管制レーダーのみですが、この多用途水陸両用車には輸出できる可能性があると筆者は思います。