BCP策定が済んでいる事業所はわずか3割…今からでも知っておきたいBCPのつくり方

2021(令和3)年度介護報酬改定において、介護業におけるBCP(事業継続計画)の策定が義務づけられ、その期限が2024年3月までに迫っています。
BCPとは、Business Continuity Planの頭文字を取った言葉で、日本語では「事業継続計画」と呼ばれます。これは、自然災害やテロ・取引先の倒産などの緊急時においても、重要な業務が継続できるよう、企業があらかじめ計画しておく方策を指します。
介護事業所に策定が義務づけられたのは「感染症BCP」と「自然災害BCP」の2種類。近年の災害やコロナ禍の発生で、その存在が重要視されるようになりました。
厚労省は3年前から策定を呼びかけ、いずれもひな形やガイドラインを公開していますが、策定完了率はかんばしくありません。
2023年7月時点で、感染症BCPは「策定完了」が29.3%、「策定中」が54.6%、「未策定(未着手)」が15.6%。自然災害BCPは、「策定完了」が26.8%、「策定中」が54.9%、「未策定(未着手)」が17.1%でした。
つまり、最新の調査での策定完了率はいずれも3割未満という結果になりました。年末にかけて完了する事業所も多いかもしれませんが、まだ手付かずの事業所が2024年の3月に駆け込みで提出することになるかもしれません。
現状では策定が間に合わない場合の罰則などは設けられておらず、なかには軽く考えている事業者もいるのではないでしょうか。
しかし、BCPは各施設の特徴を踏まえて運営基準に沿った形式での提出が義務付けられています。専門家からは、運営基準に沿ったBCPを策定しなかった場合、運営基準違反に見なされる可能性が指摘されています。
過去には運営基準違反によって、介護報酬の全額返還や介護事業者の指定取り消しなどの厳しい行政処分を受けた例もあります。すでに義務付けられている小売業や製造業などのBCPをそのまま転用などをすると、行政処分の対象になるリスクがあることも頭に入れておいたほうが良いでしょう。
BCP策定の作業にはかなりの時間がかかることがわかっています。厚生労働省の資料によると、策定完了までにかかった期間は「6ヵ月程度」が30.3%で最多。次いで「2~3ヵ月程度」27.8%、「1ヵ月程度」26.3%と続きます。
また、BCP未策定(未着手)の事業所における策定時の課題は、「策定にかける時間を確保すること」と回答した割合が感染症BCPでは72.8%、自然災害BCPでは73.4%でいずれにおいても最も高くなっています。
こうした傾向は特に中小事業者に顕著に現れていると考えられます。策定完了・策定中と回答した事業所のうち、50人以上の大規模事業所が最多で、職員が10人未満の事業所は最低となりました。なお、職員の数が少なくなるにつれて策定完了率は低くなる傾向があります。
中小事業者は日々の業務をこなすのが精いっぱいで、BCP策定にまで手が回らないというのが本音ではないでしょうか。
厚労省はガイドラインとひな形を無償で公表していますが、その内容が難しいという指摘があります。例えば、感染症BCPのガイドラインでは次のようなポイントが挙げられています。BCP策定が済んでいる事業所はわずか3割…今からでも知ってお…の画像はこちら >>
通常業務中と緊急時の情報収集・共有体制、情報伝達フローの構築などがポイントとされています。全体の意思決定者を決めておき、各業務の担当者を決めておくこと(誰が、何をするか)、関係者の連絡先、連絡フローの整理をしなければなりません。
仮に施設内で感染(疑い)者が発生した場合、入居者・利用者に対して必要なサービスを継続的に提供するための対応策についてです。感染者を個室で管理したり、医療機関との連携をどうするのか、あらかじめ確認しておく事項をまとめる必要があります。
新型コロナウイルスなどの感染症が発生した場合、職員が感染者や濃厚接触者となることで出勤できなくなり、職員が不足することが想定されます。
濃厚接触者とその他の入居者・利用者の介護を行うに当たっては、できる限り担当職員を分けることが望ましいとされていますが、職員が不足した場合、こうした対応が困難となり交差感染のリスクが高まることから、感染対策の観点からも職員を確保しなければなりません。そのため、その事業所での職員確保体制、関係団体や都道府県等への応援依頼などの具体的な対策を決定します。
職員が不足した際に、大切になるのが業務の分担。優先順位をあらかじめ決めておき、限られた職員でサービス提供を継続できる効率的な体制の構築が求められます。こうした体制を、職員の出勤状況に応じて対応できるように業務の仕分けが重要になります。
BCPは、作成するだけでなく、緊急時に迅速に行動できるよう職員や利用者、またはその家族など関係各所への周知が大切です。施設内においては平時からシミュレーションや訓練をすることなどを盛り込む必要があります。
このように、ポイントが絞られているものの、それぞれ普段では行わない業務を決めておかなければなりません。
しかし、このガイドラインやひな形は情報量が多く、読むだけでも時間がかかります。そのため、事業者が現場に出て業務に当たるような事業所では作成の余裕がないのでしょう。
専門家は、厚労省が挙げるポイント以外に、次のようなことに注意して作成するよう呼び掛けています。
ここで、特に重要なのが①です。特に事業所の形態別の運営基準をきちんと理解したうえで作成することが大切です。
ただ、厚労省が公表している解釈通知などを読み込むのは、いかに介護の専門家といえども大変な労力がかかります。一度弁護士や行政書士などに相談することが最初の第一歩になるでしょう。
中小事業者では、人材が不足しているうえに日々の業務に追われてBCP策定に手が回らないケースが多いようです。
しかし、すでに期限まで半年を切っており、半数以上の事業所が策定完了まで2ヵ月以上かかっていることを考えると、すでにギリギリのタイミングに差し掛かっています。
まだ手付かずの事業者は、真っ先にBCP作成の担当者を決め、弁護士や行政書士とコンタクトを取るべきでしょう。
BCP作成の手を抜くと、提出後に減算などの痛手を負う可能性もあります。今から情報収集を進めて、期限までの提出を目指しましょう。