大ヒット中の映画『ゴジラ-1.0』。この作品では、20.3cm主砲を持つ重巡洋艦「高雄」が大怪獣「ゴジラ」と交戦します。では「ゴジラ」と戦うのが、世界最大の46cm主砲を備えた戦艦「大和」だったらどうなったでしょうか。
1947(昭和22)年を舞台とし、太平洋戦争に敗れて疲弊した日本が大怪獣と戦う映画『ゴジラ-1.0』。敗戦によって陸海軍が解体され、一方で自衛隊も発足前の日本ですが、旧軍の各種兵器が残されているという想定ゆえに、さまざまな兵器が「ゴジラ」に対して火を噴いています。
大戸島の兵士以外で最初に交戦したのは、機雷を処理する木製船舶「新生丸」です。新生丸には、機雷処理用の13.2mm機銃と、船上に引き上げた機雷を武器に、迫りくるゴジラと応戦しました。
機銃はほとんど効き目がありませんでしたが、機雷については「ゴジラ」の口内で爆破させることで、顔の一部を吹き飛ばし、ある程度ダメージを負わせることに成功しています。この機雷は丸い形状だったことから、旧日本海軍の六号機雷二型に類似しています。もし、この六号二型だったとすると、炸薬量は下瀬火薬200kgです。
重巡じゃゴジラに勝てない…戦艦「大和」ならどうよ!? 世界最…の画像はこちら >>旧日本海軍の戦艦「大和」(画像:アメリカ海軍)。
一方、クライマックスに登場した戦闘機「震電」の機内に搭載された爆弾は、二五番(250kg爆弾)2発、五十番(500kg爆弾)1発とされていました。この「震電」の口内への体当たり攻撃が「ゴジラ」に対する致命傷となるのですが、爆弾3発を通常爆弾とするなら、炸薬量は3発合計443kgであり、この爆発力に、体当たりした「震電」自体の運動エネルギーや燃料・弾薬の誘爆も加わります。海神作戦などによりダメージが蓄積し弱っていたとはいえ、「ゴジラ」を倒すためにはどれぐらいの威力が必要なのか、ひとつの指針になるでしょう。
そう考えると、劇中に登場した重巡洋艦「高雄」には、魚雷発射管が備わっていたことから、「ゴジラ」が海中を進んでいる際にそれを使って炸薬量780kgの九三式酸素魚雷三型を「ゴジラ」の弱点といえる口内めがけて撃ち込めたら倒せたかもしれません。前提として、水中を進む敵には照準できないという点がいかんともしがたいのですが。
劇中では、この「高雄」が、20.3cm主砲で「ゴジラ」を砲撃していました。「ゴジラ」は驚異的な細胞再生能力を持っていたため、ダメージを受けるものの、当該箇所をすぐさま復元させていました。
ただ、再生こそしているものの、命中した部分は色が変わっており、ある程度表面を破壊した後で再生しているように見えます。つまり、表面硬化された徹甲弾であれば、「ゴジラ」の表皮を傷つけられるということです。
ならば、史上最大の艦載砲である46cm主砲を搭載した、戦艦「大和」が「ゴジラ」と戦ったなら、「高雄」よりも有利に戦えたのではないでしょうか。
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進水後の1941年9月20日、呉で艤装中の戦艦「大和」。艦後方から撮影しているため、写真の砲塔は後部の3番砲塔(画像:アメリカ海軍)。
史実の「大和」は1945(昭和20)年4月7日に沖縄行きの途中、鹿児島県の坊ノ岬沖合でアメリカ海軍の艦載機によって撃沈されていますが、もし沖縄へ行かず、無傷で終戦を迎え、クロスロード作戦の原爆実験にも使われず、賠償艦扱いから日本へ一時供与されて、対ゴジラ戦に投入されたらどうだったのでしょう。
「高雄」の代わりに「大和」が戦った場合、主砲の威力が段違いです。「高雄」の20.3cm 50口径砲は、徹甲弾重量125.85kg、初速835m/秒。射程10kmで190mm、20kmで114mm、29.3kmで74mmの鋼板貫通力を持ちます。
一方、「大和」の46cm 45口径砲は、徹甲弾重量1460kg、初速780m/秒。射程0mで864mm、18.2kmで521mm、27.4kmで391mmもの鋼板貫通力を持っています。
しかも「大和」の主砲は貫通力だけでなく、砲弾重量も段違いです。そのため、同一条件での運動エネルギーで比較した場合、「高雄」の主砲弾は43.8メガジュールなのに対し、「大和」の主砲弾は444.1メガジュール、つまり約10倍の威力を持っているとも言えるのです。
劇中では「高雄」の徹甲弾がある程度効いている感じでした。そこから類推すると、その10倍もの威力がある「大和」の46cm砲弾なら、「ゴジラ」にかなりのダメージを与えたはずです。
ちなみに、かなり大ざっぱな計算ですが、劇中で弱った「ゴジラ」は駆逐艦「雪風」「響」の2隻と力比べをして、均衡していました。エネルギー効率を考えないなら、両艦の機関出力は合計10万2000馬力。これを換算すると76メガジュールです。
そう考えると「大和」主砲弾の444.1メガジュールは、ケタ違いの威力がありますし、命中時にそのエネルギーは一点に集中するわけです。数発同時に命中したなら、いかに「ゴジラ」といえども転倒する可能性が高いのではないでしょうか。
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1941年10月30日、宿毛湾沖で全力公試中の「大和」(画像:アメリカ海軍)。
また貫通力についても「高雄」主砲弾と比べて「大和」の46cm砲は5倍以上なので、場合によっては「ゴジラ」の表皮を貫通したのち、そのエネルギー質量で筋肉を破断させたり骨を砕いたりする可能性もあります。「ゴジラ」といえど、体内は異常な硬度ではないようですので、表皮を貫通すればかなりのダメージを与えられると考えられます。
特に、口の中に主砲弾が命中するとか、脳を破壊するとかすれば致命傷もあり得ます。また、放射熱線を放つ体内器官を主砲弾が貫通したなら、エネルギーが暴走して自壊するかもしれません。いかに再生能力が高くても、機雷などで体の一部が吹き飛ぶ以上、破壊できない物質ではなく、徹甲弾の貫通自体は防げないようにも思えます。
ただ、主砲弾で致命傷を与えられなかった場合は「ゴジラ」の反撃を受けます。そこで焦点となるのがスピードです。
「ゴジラ」の泳ぐスピードは不明ですが、新生丸と年代が近い海上自衛隊の掃海艇1号型は最大11ノット(約20.4km/h)です。「ゴジラ」は新生丸になかなか追いつけませんでしたし、駆逐艦が捕捉できる程度の移動速度で、そこまでのスピードはなさそうなので、奇襲されないなら27ノット(約50km/h)の「大和」は距離を取り続けられるでしょう。
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1944年10月24日、レイテ沖海戦にて戦闘中の「大和」(画像:アメリカ海軍)。
ただ、潜水されると厳しいかもしれません。「ゴジラ」は砲撃目標としては身長50.1mで小さいため、砲弾の着水で水柱が立つなか、潜水されると厄介です。潜って接近され、「高雄」のように圧し掛かられたなら、体重2万tの衝撃の前では「大和」の装甲も役には立たないと思われます。
何より、「ゴジラ」には最大の武器といえる放射熱線があります。これが命中するとひとたまりもないことは明らかです。なので、できることなら観測機や偵察機などを飛ばして、間合いを取りつつ砲撃し続ける長時間の間接照準射撃で、ダメージを与え続けたいところです。
この両者の対決は、46cm主砲が「ゴジラ」の表皮を貫通するか、口内に命中するなら「大和」の勝利。致命傷を与えられず、接近されるか放射熱線を受ければ「ゴジラ」の勝利に終わると筆者(安藤昌季:乗りものライター)は考えます。
日本が生んだ史上最大の戦艦「大和」と、同じく日本が生んだ最も有名な大怪獣「ゴジラ」。両者が激突したらとイメージすると、ハナシは尽きそうにありません。