安全性を軽視した自動車業界の不正が、また発覚した。利用者の信頼を裏切る悪質な行為であり、日本のものづくりへの信頼を揺るがす深刻な事態だ。 ダイハツ工業は、品質・安全の試験などに不正があり、全ての車の出荷を停止すると発表した。 今年4月の側面衝突試験で不正が明らかになり、第三者委員会の調査では新たに174件の不正が明らかになった。親会社のトヨタ自動車など他社ブランドを含め、計64車種に及ぶ。 調査報告書では、開発を急ぐあまり、安全を確かめる試験で虚偽のデータを記録したり、エアバッグを不正に加工したりしていた。 万が一の際、運転手や同乗者を守る性能にも関わり、悪質極まりない。 しかも、不正行為は1989年以降、30年以上も続いていたとされる。この間、他社の不正も次々に発覚し、その都度、品質管理に問題がないかの確認があったはずだ。 なぜ、今まで放置されてきたのか。 第三者委は「試験で不合格は許されない」という圧力があったことなどを挙げており、組織風土の問題をうかがわせる。経営幹部が積極的に現場に出向き、実務を把握することもなかったとみられる。親会社のトヨタ自動車からの受託増も一因のようだ。 低コストで短期開発を「ダイハツらしさ」として現場に押し付けた実態。ダイハツ経営陣を含め、トヨタの責任も重大と言わざるを得ない。■ ■ 沖縄は、保有する自動車のうち軽自動車が5割を超える全国有数の「軽自動車王国」だ。ダイハツの主力である軽自動車は県内にもユーザーが多く、2022年度の軽自動車の新車販売台数のうちダイハツは3割を占める。 琉球ダイハツ販売によると、問題発覚以降、新車を契約した客を中心に問い合わせが相次いでいる。20日以前に生産が完了し出荷された新車はそのまま納車やキャンセルによる返金など客の意向に応じるという。 ダイハツ工業の奥平総一郎社長は記者会見で、既に販売した車には「安心して乗っていただければ」と語ったが、不安が広がるユーザーの立場に立った発言とは思えない。 ダイハツの車は福祉車両としても多くの施設で利用されている。事故が起きていなくても、決められた試験を受けていない車のどこが安心できるのか。無料点検の実施など誠意ある対応が求められる。■ ■ 国土交通省は道路運送車両法に基づき、大阪府池田市のダイハツ本社を立ち入り検査し、行政処分も視野に事実関係の確認を進めている。 不正の背景を徹底的に調べなければならない。 安全性だけでなく、ダイハツ車の在庫を抱える中古車業者、レンタカーや配送業、取引業者など経済への影響も懸念される。 ダイハツをはじめトヨタグループは問題の大きさを直視し、国交省の判断を待たずに、ユーザーの安全確保や関係者への不安に対する方策を一刻も早く示すべきだ。