【舛添要一連載】日銀の慎重な対応 「賃金と物価の好循環」とは…の画像はこちら >>
日銀は、12月19日までに開いた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持することを決めた。
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12月7日の国会で、植田和男総裁は、「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言したため、今回は大きな政策変更があるのではないかと期待されていた。しかし、「チャレンジング」というのは金融政策の修正を意図した発言ではなく、仕事の姿勢として「一段と気を引き締めて」というつもりという意味だったと述べた。
市場は肩透かしを食らった形で、円高になるどころか、円安へと動いてしまっている。
日銀は、10月30、31日の両日、金融政策決定会合を開き、大規模な金融緩和政策を維持した上で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)について、長期金利の上限を柔軟にして、1%を上限ではなく「目途」にすると見直した。つまり、1%を一定程度超えることを容認した。金融緩和政策の微修正であり、今回はそれ以上の修正がなされるものと予想されていたのである。
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円安の大きな原因は、内外の金利差である。私たちが預金をするときは、当然のことであるが、金利の高い金融機関を選ぶ。
日本の長期金利は1%程度であるが、アメリカは5%である。円で日本の銀行に預金するよりも、ドルでアメリカの銀行に預金するほうが5倍の利息がつく。それだけにドルを求める人が増え、円を選択する人は減る。そこで、ドルの需要が高まるためにドルの価値は上がる。逆に、円の価値は下がる。単純化して説明すると、これが円安なのである。
円安・ドル高は、金利差のみで生じるものではない。通貨の価値が上がるというのは、その国の力が上がるということである。円安になるというのは、日本が弱くなっているということである。つまり、日本の生産性の低下である。
かつて円高が進んだとき、自動車のような輸出産業は大きな打撃を受け、円高批判が強まった。もちろん急激な円高は弊害をもたらすが、日本の国力が増していることの反映であることも忘れてはならない。
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日本ではデフレが続いている。最近の物価高、インフレはウクライナ戦争や円安という要因によるもので、経済の体質が変化したから起こっているのではない。一時は急上昇した物価も、最近は落ち着いてきている。
デフレを脱却するというのは、物価上昇率が2%程度になることであり、日銀はこの数字をインフレターゲット(物価目標)にしているのである。10月の日銀の予測によれば、物価上昇率の見通しは、2024年度が2.8%、2025年度が1.7%という。
大規模金融緩和策を修正するには、これから経済動向を見極め、「賃上げと物価の好循環」を確かなものにする必要があると日銀は言う。
日本のGDPの6割は個人消費である。つまり、経済が活性化し、物価も少し上昇するには、個人消費が増える必要がある。
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消費が低迷しているのは、家計の節約志向や将来不安に伴う過剰貯蓄も原因であるが、最大の理由は可処分所得の伸び悩みである。つまり、給料が増えていないということである。
そこで、人々は給料が上がれば、消費を増やす。需要と供給の関係で、需要が増えれば物価は上がり、それは企業収益を増加させる。儲かった企業は、従業員の賃金を増やす。そこで、従業員はまた消費を増やす。これが「賃金・物価の好循環」である。
企業については、設備投資が進んでいないことが問題である。成長率が下がっているため、進んで設備投資を行うという意欲が殺がれているのである。借金してまで設備投資を行うという企業が激減している。これでは経済は拡大しない。
「賃上げと物価の好循環」が確立するというのが理想的なシナリオであるが、大企業はともかく、中小企業がすぐに賃上げに踏み切れるかどうかは疑問である。植田総裁が慎重な対応をしているのはそのためである。
金融政策の修正には、もう少し時間がかかりそうである。
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今週は、「日銀の金融緩和策」をテーマにお届けしました。