スポーツ報知では今年一年を振り返る年末企画「2023年プレーバック アレコレ」をスタートする。初回は、社会面での記事の掲載回数や大きさをランキング化した「報知社会面大賞」。第17回の今年は藤井聡太八冠(21)=竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖=が3年ぶり3度目の1位に輝いた。五冠からスタートし、前人未到の八冠制覇へと上り詰めたこの一年と今後の藤井、将棋界の展望を日本将棋連盟常務理事・森下卓九段(57)に聞いた。(瀬戸 花音)
この一年、将棋界の主人公は間違いなく、藤井だった。2016年のクリスマスイブにプロ初白星をつかんでから7年。96年に羽生善治九段が七冠制覇した際、「屈辱以外の何ものでもない」と語った森下九段は「藤井さんの第1幕が完結した一年」と23年を総括した。
「デビュー戦から29連勝という信じられないような記録を達成した藤井さん。今年たどり着いた八冠王は一つの完結にふさわしい成果だったと思います」
幕開けからすでに、メモリアルイヤーの香りがしていた。1月8日、23年の藤井の最初のタイトル戦は全冠制覇(当時は七冠)を成し遂げたことのある羽生九段との王将戦七番勝負だった。タイトル100期を目指す羽生九段との戦いを4勝2敗で制した藤井は幸先のよいスタートを切った。
「新旧の王者の激突。あまりにも歴史的なタイトル戦が一年の始まりとなりました」
勢いをつけた藤井は3月、続く棋王戦をも制し、最年少の六冠に。A級順位戦を1期で駆け抜け挑んだ名人戦で6月1日、史上最年少名人&七冠が誕生した。そして、八冠を懸けた永瀬拓矢九段との王座戦。森下九段は1年間で最も印象に残った藤井の対局として、大逆転で藤井勝利となった王座戦の第3局、第4局を挙げる。
「棋士と100局指すとおそらく55局は藤井さんが完勝するでしょう。それと、通常起こりうる逆転がおそらく25局くらい。それで勝率8割。藤井さんにはプラスして信じられないような逆転が5局くらいある。それがおそらく王座戦で出た。この大逆転は念力、執念、運、そういう星の下に生まれた者の力だと思います」
藤井は「木村義雄十四世名人から始まる王者の系譜を継ぐ者」と森下九段はいう。王者たちの共通点は「純度100%の勝ちたいという気持ち」だ。
「普通は『負けたらどうしよう』という思いも交じり、純粋に『勝ちたい』とは正直思えていない。藤井さんは最初のころは負けそうになるとバシバシ太ももをたたくなど、当初は連盟にも『マナーが悪い』とお叱りがあったぐらい。勝ちたいと思って努力して、そしてまた勝ちたいと思う。この繰り返しが雪だるまみたいに大きくなったのが藤井さんであり、王者たち」
来年からの第2幕は、誰が藤井を止めるかに注目が集まる。
「八冠がどこまで続くかは分からないが、あと30年近くは藤井時代が続くと思う。その中で何が何でも藤井先生を負かすんだという若手が何人出てくるか。一人でもいい。絶対勝つと思えたら、全てが変わっていく。そういう若手が出てきてほしいですよね」
◆報知社会面大賞 2005年スタート。スポーツ報知社会面が伝えた人物の「登場回数」「記事の大きさ」を独自にポイント化する。1面は20ポイント、最終面は10ポイント、社会面トップ記事は5ポイント、トップに次ぐ記事は2ポイントで集計。藤井聡太の受賞は18年、20年に続き史上最多の3度目。