「松本人志の性加害報道は自民党が書かせた」との“陰謀論”が1000%ありえない理由

「ダウンタウン」の松本人志(60)が1月8日、所属する吉本興業の公式サイトを通じて今後の芸能活動休止を電撃発表した。昨年12月、「週刊文春」が2015年に都内高級ホテルでの松本の性加害疑惑を報道したが、吉本興業はこれを全面否定し、法的措置を検討するとしていたが、休業発表は文春の“続報”が報じられる前日のことだった。
吉本興業は今回の休業について「まずはさまざまな記事と対峙して、裁判に注力したい」という松本の意向があったと説明。松本自身もX内で「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす」と投稿したが、10日、「ワイドナショー」出演は急遽中止となった。「松本さんといえば、言わずもがなお笑い界の頂点に君臨してきたキング。文春を訴えるとなれば訴状には腕利きの弁護士がズラリと並び、賠償金額もケタ違いのものになるでしょう。また、松本さんサイドは文春だけでなく性加害報道に乗っかった後追い記事を出した雑誌やネットメディアへの訴訟もにおわせており、これまでに類をみない芸能裁判となるでしょう」(スポーツ紙記者)
松本人志(写真/共同通信社)
一方の週刊文春も「記事には十分に自信を持っています」と徹底抗戦の構え。文春の取材チームは、これまで政治家や芸能スクープを連発したエース記者が複数投入される“最強チーム”の編成となっており、情報提供者も次々と現れているという。これまでなら大手事務所の大御所タレントの“スキャンダル報道”となるとテレビやスポーツ紙はダンマリを決めるのが通例だったが、今回は様相が違う。テレビ局関係者が証言する。「吉本はキー局の株主でもありますし、今や吉本芸人ナシでは番組は成り立たない。これまでのテレビ局なら『何年も前の出来事だから』という理由で間違いなくスルーしていたでしょうが、昨年のジャニー喜多川氏の性加害問題以降、スルーができない立場となった。局によって文春報道のどこまでに触れるか、程度の差はありますが、触れないとメディアとしての意義を問われることになる。とはいえ、局内には松本さんの“飲み会”に参加しているえらい人がいるともいわれ、万が一、それが表に出たらどうなるか…」
1月14日の「ワイドナショー」は急遽出演中止となった(撮影/集英社オンライン)
各メディアが今回の騒動に注目をするなか、盛り上がりをみせているのがネット掲示板やSNSだ。連日、「トレンド」「急上昇ワード」にはこの文春報道に関連した言葉が並び、中には無法地帯と化しているところもある。「今回の騒動に対してはさまざまな声があがっていますが、記事の内容が『不倫』ではなく『性加害』となったことで、松本さんに対して否定的な声も少なくない。ただし、ダウンタウンを見て育った40~50代からは『本人が会見で話すまで信じたい』『裁判の結果がでるまで待ちたい』『松っちゃんがテレビから出なくなるのがただただ悲しい』といった声が多い印象です。一方で『自民党が裏金問題から世間の目を逸らさせるために文春に書かせた』といった陰謀論も盛り上がりをみせている」(スポーツ紙記者)今回に限らず、芸能人などのスキャンダル報道が盛り上がると必ずでてくるのが陰謀論だ。筆者も週刊文春記者時代、国民的アイドルグループや有名人の不倫騒動をスクープする度に幾度となくネットで陰謀論と騒がれたが、これに関しては「1000%ない」と声を大にして否定したい。
国会議事堂
筆者は山尾志桜里元衆議院議員の不倫スキャンダル(2021年)や、宮崎謙介元衆議院の“ゲス不倫”(2016年)も担当した。山尾氏の記事についてははある著名人に「民主党をつぶすためにCIAがやらせたんだと野党議員が言ってましたが、本当ですか?」と真顔で質問され、開いた口が塞がらなかった。種明かしをすると、山尾氏のスキャンダルは、最初に情報がもたらされたときは確度の低い情報で、取材チームもまったく信じていなかったのだが、別の芸人の張り込みをしていた際、たまたま山尾氏の密会現場に遭遇することとなったのだ。さらに取材を重ねるうちに山尾氏の党内での役職も上がり、結果的に大きな反響を呼ぶ記事となったわけだが、このときも陰謀論はついてまわった。
2016年のユーキャン新語・流行語大賞。週刊文春は「ゲス不倫」、山尾志桜里議員は「保育園落ちた日本死ね」で奇しくも同時受賞(写真/共同通信社)
今回は自民党の裏金問題が年末に大いに騒がれていたため、こうした“陰謀論”疑惑が起きるのももはや通例ともいえるのだが、週刊誌の年末に発売される合併号は1年間の目玉の号であり、ネタによっては“年単位“で仕込んでいたネタをぶつけることもある。今回もずいぶんと前から文春のエース記者が仕込んでいたネタだったと聞いている。これが陰謀論というのはあまりに信憑性に欠けるだろう。それでも一応、現役の文春記者、関係者に「陰謀論は事実ですか?」と電話をかけてみたが、「あるわけないでしょ」「勘弁してくださいよ、取材内容は教えられませんが、記者や被害者の名誉のため100%違うとだけ書いてください」と全員が否定した。それでも盛り上がる陰謀論、次はどんなスクープ記事が“自民党からのリーク”と囁かれるのか…。とりあえず筆者の経験から、そして記者仲間の名誉のためにも、100%ならぬ、1000%、陰謀論はないと断言したい。取材・文/鈴木ひろあき 集英社オンライン編集部ニュース班