“保護率39%”のAI判定で保護見送りの末の虐待死 子どもの命を守るためにAIをどう活用する?

2023年6月、三重県津市で起きた4歳の女の子の虐待死事件など、児童虐待は深刻な社会問題となっています。津市の事件では、児童相談所がAIによる評価を参考にしながらも、一時保護を見送っていたことなどが問題視されました。子どもの命を守るために、AIをどう活用していくべきなのでしょうでしょうか。
2023年6月に三重県津市で起きた虐待死事件。43歳の母親が4歳の娘を転倒させて死亡させたとして逮捕・起訴される、痛ましい事件でした。
(三重県児童相談センター・中澤和哉所長)「シングルマザーですので、仕事をしないと生活していけない。赤ちゃんをみてくれる人もいないという理由で、児童相談所との関わりが始まった」
母親は2019年に児童相談所に相談し、児童相談所は生後間もない娘を一時保護していました。その後、保育園入園などを条件に母親と娘は再び一緒に暮らし始めましたが、2022年2月、保育園から虐待通告が寄せられます。
「両頬と両耳にアザがある」と通告を受けた児童相談所が、娘を一時保護するかどうか判断するうえで参考にしたのがAIでした。AIがはじき出した答えは「保護率39%」。つまり、過去の同じような事例では61%のケースで保護していないという結果が出たのです。
母親が指導に応じる姿勢を見せていたこともあり、児童相談所は娘の一時保護を見送りました。
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子どもを保護するかどうかを判断するAIとはどんなものなのでしょうか。システムを開発している企業の一つが、大手情報通信機器メーカーのNECです。
三重県のシステムと同様に、子どもの傷の有無や栄養状態など、およそ60項目を入力すると過去の虐待事案を学習したAIが、一時保護に至った確率などを表示します。一方で、開発チームがこの数値以上に注目すべきと考えているのが「重点調査項目」です。
(NECソリューションイノベータ・井上俊輔さん)「不明になっているリスクの中で、危険なケースに多く関係している項目がここに表示されるようになっている。この不明をなるべく早く解消して、リスクの状態を調べたほうがいい」
例えば、「不登校が続く」や「転居の繰り返し存在」など、危険なケースに繋がる情報を早く調べるべきだと示しています。このように、一時保護などの判断を的確に下すために不足している情報を知らせてくれるツールとしても活用できるといいます。
CBC
このNECのシステムを2024年4月から導入するのが、静岡市です。
(静岡市児童相談所・大石剛久所長)「児童相談所で経験を重ねた職員の知識が、継承していかない。体制強化をしても、経験の浅い職員が増えてきている」
静岡市では昨年度、児童相談所が虐待事案として対応した件数が過去最多を更新。対応件数は増える一方で、職員の入れ替わりが激しく、知識や経験が受け継がれないため、AIの導入を決めました。
(静岡市児童相談所・大石剛久所長)「職員の対応が個の能力ではなく、均一化される。児童相談所の対応が向上していく」
静岡市と同様、職員の経験を蓄積するために2020年、全国で初めて児童相談所にAIを導入した三重県。幼い命を二度と失わないために、AIをどう運用していくのでしょうか。2023年5月に津市で起きた事件について、三重県の一見知事は次のように述べています。
(三重県・一見勝之知事)「今回は児童相談所が直接対面で娘の様子を見られなかったが、保育園では見ておられたということで、その情報共有がきちんとできていたら今回の事案も、ひょっとしたら助けられたという思いがないわけではない。最終的に判断するのはAIではなく人間なので、その人間の判断力というものを向上させる必要がある」
行政としてもまだAIについてのノウハウが少ない中、子どもの命を救う現場で、どう活用するのか試行錯誤が続きます。
CBCテレビ「チャント!」12月23日放送より