「本当に桐島か?」「逮捕できるのか?」“秘密の暴露”に矛盾はないけど顔が違う…? 迫るタイムリミットと49年の壁。連続企業爆破事件を振り返る〈「さそり」指名手配犯確保?〉

桐島、捕まったってよ。若者世代にとって「桐島」といえば、朝井リョウ原作の青春小説で、バレーボール部を辞める辞めないで登場人物たちの気をやきもきさせた人物を思い浮かべるかもしれない。しかし、今回の「桐島」は、1974年8月から75年5月にかけ12件もの連続企業爆破事件を起こした過激派「東アジア反日武装戦線」のメンバーで、全国指名手配から約49年逃亡していた桐島聡容疑者(70)のことだ。その「桐島」が末期がんを患い、入院先の神奈川県鎌倉市内の病院で身柄を確保されたというニュースが1月26日、飛び込んできた。
連続企業爆破事件は1974年8月の三菱重工ビル爆破事件を皮切りに三井物産や帝人、大成建設、鹿島建設、間組など海外進出企業を「アジア侵略に加担している企業」と標的にして起こり、桐島容疑者は1975年4月に東京・銀座の韓国産業経済研究所のビル爆発事件に関わったとして爆発物取締罰則違反容疑で指名手配されていた。このうち東京・丸の内のオフィス街で起こった三菱重工ビル爆破事件では、昼休み中のサラリーマンら8人が死亡、165人が重軽傷を負う大惨事となった。これら計12件の爆弾事件を起こした東アジア反日武装戦線は「狼」「大地の牙」「さそり」の3グループに分かれて犯行に及んでおり、桐島容疑者は「さそり」に所属していた。
桐島容疑者の手配写真
一連の事件で警視庁は1975年5月にメンバー7人を一斉逮捕したが、うち1人が取り調べ中に服毒自殺。佐々木規夫容疑者は、国際武装組織「日本赤軍」が同年8月にマレーシアの米国大使館などを占拠したクアラルンプール事件による超法規的措置で釈放され出国。大道寺あや子容疑者ら2人は公判中だった1977年9月、日本赤軍が日航機をハイジャックしたダッカ事件でやはり超法規的措置で釈放され、日本赤軍に合流した。また、浴田由紀子さんは18年後の1995年、偽造旅券で入国したとしてルーマニアで身柄を拘束されて日本に移送、再開した公判で懲役20年の刑が確定して栃木刑務所に収監され、2017年3月に刑期満了で釈放されている。佐々木容疑者と大道寺容疑者は逃亡中で国際手配が続き、公判停止中。メンバーのうち、死刑が確定したのは2人。そのうち大道寺容疑者の夫である大道寺将司被告は2017年5月、多発性骨髄腫により収監中の東京拘置所で死去(享年68)している。犯行メンバーのなかで、捕縛されることなく行方をくらましていたのが「さそり」の桐島容疑者だった。
東アジア反日武装戦線「狼」「大地の牙」「さそり」の3グループが犯行に及んだ三菱重工ビル爆破事件の現場となったビル(写真・産経新聞社)
手配容疑の犯行から約49年、突然の桐島の「告白」には捜査関係者も戸惑いを隠せない。偽名で入院していた「桐島」は25日、病院関係者に「俺が最後だから捕まえてくれ」と打ち明けたという。病院から通報を受けた神奈川県警が警視庁に連絡、公安部が大慌てで情報収集に乗り出した。ある捜査関係者の1人は驚きを隠せなかった。「正直、桐島が神奈川にいるとの情報はまったく掴んでおらず、海外にいるものだと思っていました。恥ずかしながら『何でここにいるの?』というのが率直な感想です。報道にもありますが、入院している男は桐島しかわからない“秘密の情報”を知っていたり、身体的特徴も矛盾していません。ですが病院で確認した捜査員にも聞いたところ、顔は手配写真とは似ておらず『本当に桐島か?』と首をかしげる捜査員もいます。もちろん書類や身分証のなかに桐島本人につながるものはありませんし、50年近く前の当時のDNAがわかるブツと、彼のDNAが一致するかどうかも現時点では未知数です」
長年、指名手配されていた桐島聡容疑者
近年急速に信頼度を高めているDNA鑑定も、あまりの逃亡期間の長さにはお手上げとなる可能性もある。照合資料集めにも時間が必要だ。「これが冤罪だったら何を言われるかわかりませんし、裏付けには時間がかかる。ましては末期ガン患者ですから、逮捕や起訴、その後に控える裁判のことを考えると、どこまで進めるか、時間との勝負だと思います」1971年に起きた渋谷暴動事件で警察官を殺害したなどとして翌年に指名手配された中核派の大坂正明被告(74)は、45年間の逃亡の末に2017年に広島市内のアジトで見つかった。大坂被告は昨年12月22日、東京地裁で懲役20年の判決を言い渡されたばかりだ。捜査関係者が続けた。「大坂を逮捕した際は、実際に手配書を見ていた警察官が活躍しました。今回の『桐島』のケースでも、本人のことを知っている警察官がいるかどうかもカギになると思います。一般論ですが、仮に彼が桐島だとしたら、偽装の保険証で入院していた可能性が高いわけですから、まずは別件で逮捕して、その後に手配容疑の本件で逮捕する流れになるでしょう。ただ、健康状態を考えるとどこまで彼がもってくれるか…」突然飛び込んだ末期がん患者の衝撃の告白。「桐島」は本当に「さそり」なのか。50年越しの事件解決に向け、タイムリミットまでは残りわずかだ。