ロシアによるウクライナ侵略から、24日で1年を迎えた。ウクライナは米欧から軍事支援を受けるなど徹底抗戦の構えを見せており、膠着(こうちゃく)状態が続く。両国では推計で30万人が死傷するなど、消耗戦の様相を呈している。北朝鮮など各国の軍事事情に詳しい元防衛省情報分析官の西村金一氏(70)が現状と今後の見通しについて分析した。(久保 阿礼)
世界に衝撃を与えたロシアによるウクライナ侵略が始まって1年を迎えた。
露軍は当初、空港や原発を制圧し、首都キーウを陥落させるという早期決着を狙っていたとされる。だが、露側にとってウクライナの猛反撃は想定外とされ、「早期逃亡する」との見方もあったゼレンスキー大統領らが奮闘。米欧などから幅広い支援を取り付けた。その結果、露軍は東部・南部にとどまるなど戦略変更を余儀なくされ、戦況は泥沼化している。
西村氏はウクライナ側の反撃が奏功した要因について「電子戦が機能した」と指摘する。防衛白書によると、電子戦とは、電波を始めとする電磁波を利用した戦いのこと。戦闘時の「攻撃」「防護」「支援」という3つの局面で活用する。例えば、敵国の通信機器やレーダーを攻撃したり、電波を妨害するジャミングや高出力レーザーによる破壊活動などがある。
「開戦当初から、ウクライナ側の電子戦が能力を上回り、ジャベリン(歩兵携行式多目的ミサイル)などで、露軍の戦車を中心とした機甲部隊の進軍を止めた。露軍は兵器のレベルで劣り、地域確保がままならない。ウクライナの防空システムも機能しており、空軍も使えない状況です」
1次攻撃をしのいだウクライナは昨年8月末から反撃を開始。北東部ハリコフ州、南部ドニエプル川沿岸などを取り戻し、米欧は次々と反撃に必要な最新の武器を提供している。
ただ、現場の消耗は激しく、戦闘は長期化するとの見通しもある。中でも西村氏が気になる動きとして挙げるのが「塹壕(ざんごう)」の増加だ。陣地の周りに掘る穴や溝のことで、敵の銃砲撃から身を守るため、木材などで屋根を作る。地上戦では攻撃、防御ともに活用される。
「塹壕には戦闘用と衣食住の2種類がある。私も自衛官だったのでよく分かりますが、塹壕に入ると『穴から出たくない』という感覚に陥る。戦闘が長期化すれば、人は誰しも『死にたくない。じっとしていよう』という心理になるもの。プーチン大統領が『攻めろ』と言っても相手は塹壕の中。そう簡単に倒せないし、戦線も進みません。こうした状況も膠着状態になった要因の一つでしょう」
今後の展望はどうか。
「一般的に、投入した戦力の3割を失うと敗北を意味します。露軍はすでに約15万人の死傷者を出しており、どう考えても勝ち目はない。ただ、露軍が占領した領土を返還するという可能性はほぼない。停戦前に、なるべく多くの領土を獲得しようとして戦闘が激しくなる可能性もある。プーチン大統領が失脚するなど大きな動きがないと、なかなか今の状況は変わらないと思います」
◆西村 金一(にしむら・きんいち)1952年4月23日、佐賀県生まれ。70歳。法大卒業後、陸上自衛隊の幹部学校指揮幕僚課程(CGS)修了。防衛省・統合幕僚監部・情報本部などの情報分析官、幹部学校戦略教官などを歴任。定年後、12年に軍事・情報戦略研究所長として独立。著書に「こんな自衛隊では日本を守れない」など。