[社説]見た目で職務質問 警察の人権侵害把握を

外国にルーツを持つ人の見た目などに基づき警察が職務質問(職質)することは法の下の平等を定めた憲法14条などに違反するとして、外国出身の男性3人が国と東京都、愛知県に損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した。 人種や肌の色を理由に犯罪捜査の対象とすることを「レイシャル・プロファイリング」という。その違法性を問う訴訟は国内では初めてと見られる。 原告の一人、パキスタン生まれで日本国籍を取得した男性は昨年、たばこを吸おうと自宅玄関から路上に出た途端警察から職質を受けた。 警察官職務執行法は、何らかの罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるときは職質できると定めている。 しかし「外国人だから」という理由で質問したのであれば明らかな差別だ。 アフリカ系米国人の男性は10年間に16、17回の職質を受けた。バイクに乗っている時にも警察に呼び止められ、「何の仕事をしているのか」など運転とは関係ないことを質問された。インドにルーツを持つ男性は約20年間で少なくとも70回以上の職質を受けたという。 1回の職質で1時間以上足止めされた事例もあり、乱用されれば生活に大きな支障が出る恐れがある。理由も告げられず衆人環視の中で所持品を検査されるなど、人権侵害にも当たる事例もあり、原告側はこうした職質は「違法な警察権の行使だ」と訴える。 外国ルーツを理由に差別的な扱いが横行しているとすれば看過できない。■ ■ 本紙の取材では、県内でもこうした職質が相次いでいることが分かった。沖縄生まれで父が米国人の男性はたった4時間に那覇市や沖縄市で計4回も足止めされたという。 東京弁護士会が2022年、外国にルーツを持つ人を対象に実施したアンケートで沖縄は、東京や神奈川など大都市圏に次ぎ7番目に被害の訴えが多かった。 21年には在日米国大使館がSNSで日本の警察官によるレイシャル・プロファイリングを警告し国会でも取り上げられた。これを受け警察庁は同年初めて実態調査し、4道府県警で計6件の不適切な言動があったと認定した。 一方、先のアンケートでは約2千人が回答し、うち約6割が「過去5年間に職質を受けた」とした。多くの訴えが寄せられたことを考えれば、調査は不十分と言わざるを得ない。■ ■ 今回の訴状では、警察官の研修に用いられている資料で、人種など見た目に基づく職質を推奨する内容が複数あることも明らかになった。 国連はレイシャル・プロファイリングの禁止と、各国に防止のためのガイドライン策定を求めている。 日本で暮らす外国人労働者は23年10月末時点で過去最多の204万人超に上っており、社会の多様化が急速に進んでいる。 警察による差別的な扱いは許されない。政府も第三者機関による相談窓口を設置するなど差別や人権侵害の把握に乗り出すべきだ。