99歳の看護師女性「定年は必要ない」 働き続ける姿から考える人生100年時代 気持ちは“生涯現役”

高齢になっても働き続けることを「生涯現役」と言いますが、それを体現する99歳の看護師がいます。「定年は必要ない」と働く彼女が考える“人生100年時代”とは?年下の入居者の看護をする、彼女の日常に密着しました。
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三重県津市にある高齢者施設「いちしの里」。大正13年生まれの御年99歳の女性、池田きぬさんはこの施設の入居者ではなく、“看護師”として働いています。
(看護師・池田きぬさん)「ここに就職した時には88歳でした。もう2、3年最後の仕事をして、それでもう辞めようと思ってそのつもりでここに来たんですけど、もう10年たちました」
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働き始めた頃は、週4日のフルタイムで働いていましたが、最近は人手が少ない週末などに、数時間だけ勤務しています。入居者のほとんどが池田さんより年下です。エプロン姿で生き生きと働く池田さんの姿に、入居者も元気をもらっているようです。
池田さんが看護の世界で働き始めたのは19歳。太平洋戦争中は日本軍の看護要員として兵士たちの手当てをしていました。終戦後は地元の三重県に戻って結婚し、子育てをしながら、看護師の仕事を続けてきたのです。
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(看護師・池田きぬさん)「仕事に出てばっかりおるから、うちにいると取り残されている気がして。みんなと一緒に、話しながら動きながら仕事をするという環境が、いつの間にか合っているようになったんです」
看護師一筋、80年。しかし、最近では年を重ねるにつれて衰えを感じ「他のスタッフの足手まといになりたくない」と思うようになりました。それでも、池田さんが働き続けるのは「誰かの役に立ちたい」という思いがあるからです。
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2023年3月に行われた、ASEAN(東南アジア諸国連合)のオンライン会合。厚生労働省が主催した会合のテーマは『人生100年時代』です。ASEAN10か国の関係者らが社会福祉・保健医療・雇用について議論しました。
(看護師・池田きぬさん) 「看護の場合に65歳の定年を引くのは、働きたい人の意欲を阻害する気がするので定年が65歳は若すぎるような気がします」
そんな中、池田さんは日本代表として、自分の経験を踏まえた高齢者雇用の現状について講演し、日本の「定年制」の在り方について疑問を呈したのです。
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(看護師・池田きぬさん)「耳が聞こえて健康で動ける人だったら、80歳までは大丈夫、働けると思うんです。今の社会情勢、働く人を掘り起こしているわけですから。意欲のある高齢者だったら、働いてもらったらよろしいですよね」
日本では、ほとんどの企業が従業員の定年退職を60歳もしくは65歳と定めています。池田さんは「仕事をしたい高齢者が働く機会を作る必要がある」と訴えます。
一方、海外の定年退職を調べてみると、イギリス・カナダ・オーストラリアなど 原則、定年制そのものがない国が想像以上に多くあります。さらにアメリカなど、定年制を“年齢差別”として禁止している国もあることがわかりました。
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(看護師・池田きぬさん)「定年制はやっぱり違うんじゃないかな。働きたい人はいるわけですし、年齢は関係ないです」
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池田さんが働いている「いちしの里」ではスタッフ83人中、3分の1が60代以上で、池田さんを筆頭に70代、80代のスタッフも雇用されています。
(いちしの里・浅野信二代表)「年齢差別はしていません。能力があればできるという形でやっている」
看護師の橋口光子さんは82歳。池田さんと同じく10年ほど前からこの施設で働き始め、今もフルタイムで働いています。入居者とも歳が近いため、良き話し相手になっていました。
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(看護師・橋口光子さん)「もっと働くチャンスをみなさんが得られるといいと思うんですけど、私は働けているから幸せ。『ありがたいことだ、一生懸命頑張りますよ』と思いますよね」
他にも、夜勤専属を希望して勤務する80代の看護師も。ここではそれぞれの事情や希望に合わせた働き方をしています。
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一緒に働く若いスタッフは。
(30代の看護師)「すごく苦労されて今があるので、的確な声かけをしていて、すごく見習う部分が多い。若いスタッフだと、小さいお子さんがいて急に休んだりとか。高齢のスタッフは『少なかったら入れるよ』と言ってくださるので、とても助かっています」
高齢のスタッフは、子育て世代のスタッフが出勤しにくい土日なども、率先して入ってもらえる上、価値観や年代が多様な人と働くことで、お互いを補い合えているといいます。
2023年12月。いつものように職場の更衣室にいた池田さん。自分のロッカーから取り出したエプロンを、着ることなくかばんへ入れました。ロッカーに入っていた荷物も、いつも履いていたスリッパも片付けてしまいました。
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(看護師・池田きぬさん)「本当に腰が痛いし、あきませんな。働きたい気持ちはあるけど、体力がついていきませんでな」
自分の体力に限界を感じ、周りに迷惑をかけないよう、一線を退く決断をしたのです。
(いちしの里・浅野信二代表)「本当は(池田さんも)仕事したいんですよ。ずっと働きたいんだと思います」
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いちしの里・代表の浅野さんは、池田さんが仕事以外の形で、なんらか施設に関わる機会を作れないかと、新たな試みを考えています。
(いちしの里・浅野信二代表)「看護小規模多機能施設ってあそこに書いてあるんですけど『地元のお年寄りも来られます』『若い人も来られますよ』という、お茶のみ話ができる場所を作るようにしたいと思っています。今度そういうのができますので、できたら池田さんにはボランティアを含め、遊びに来てもらったら」
仕事を辞めた池田さんはどうしているのでしょうか。2024年1月に、1人で暮らす池田さんの自宅を訪ねました。そこには、元気な池田さんの姿が。短歌の勉強をし、新たな生きがいを見つけようとしています。
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(池田きぬさん)「(Q.働きたい気持ちはありますか?)ありますね。ボランティアで皆さんとお話しするのはいいかもしれませんね」
池田さんの気持ちは“生涯現役”です。
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CBCテレビ「チャント!」1月22日放送より
【取材後記】 厚生労働省が2023年に実施した、従業員21人以上の企業23万社あまりが対象の調査では、60歳定年が約7割、65歳は約2割、70歳以上は2.3%、定年廃止が3.9%と、圧倒的に60歳定年が主流です。国は「高齢者雇用安定法」で企業に対し、65歳までの雇用確保を義務づけると同時に70歳まで何らかの形で就業機会を確保することを努力義務としていますが、これを達成している企業は全体の3割しかありません。少子高齢化に歯止めがかからず、人手不足が深刻な日本。社会経済を回していくためには今後さらに、高齢者雇用は重要になると思います。定年制のあり方も含めて”人生100年時代”を改めて考える必要があるのではないでしょうか。
【CBCテレビ報道部・横山朋未】