スズキ「スイフト」といえば「走り」のイメージを打ち出し、日本の小型車市場で独特な存在感を放ってきた人気車だが、発売となったばかりの新型は、少しイメージチェンジを図ったようだ。新たに加えた要素とは? 狙うはZ世代? デザイン担当者に話を聞いた。
キャラは継承、近づくと新型?
スイフトは新型で通算4世代目。今回は7年ぶりのフルモデルチェンジとなる。CVT車(いわゆるオートマ車)は2023年12月、5速MT車(いわゆるマニュアル車)は2024年1月に発売となった。
新型スイフトのコンセプトは「エネルギッシュ×軽やか」。デザインは「一目見たら印象に残る」を目指して開発した。エクステリアでは、クルマ全体を包み込む「ラウンド形状」で先進的なイメージを表現したという。
スズキ商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリアグループ係長の髙橋秀典さんによると、新型スイフトは「ドライバーの姿勢なども含め、レイアウトはほぼ変わっていません」(以下、カッコ内は髙橋さん)とのこと。今回はデザインに磨きをかけ、「遠くから見るとスイフト、近づくと新型」だと感じてもらえるような外観を狙ったという。
走りそうな見た目を敬遠する人も
スイフトといえば初代から一貫して「走りに特化した、欧州テイストの走りを特徴とした小型車としてやってきた」クルマだ。スタイリングに関しても、「ライバルは国産車というよりも、欧州の小型車」との思いで作りこんできたのだという。スイフト購入者の平均年齢は44.8歳で、国産小型車の競合に比べ約10歳も若いとスズキ。若い世代から支持を得た理由として、「スタイリングも評価されたのでは」というのが髙橋さんの見立てだ。
スイフトのスポーティーな見た目については、「私には合わない」「壁が高い」といった意見もあったとスズキは率直に認める。気軽に使える普段使いのクルマを求める人やクルマを買い物や送迎に使う人、クルマは普通に走ればいいという人たちにとって、スイフトは見た目からしてオーバースペック気味でトゥーマッチに感じたのかもしれない。
それともうひとつ、新型スイフトでは想定ターゲットに「Z世代」を挙げている。
想定ターゲットはZ世代?
ということで新型スイフトは、走りのスイフトを支持するファンだけでなく、これまでスイフトを敬遠していた人たちやZ世代といった新規顧客候補にも好印象を与えるデザインを獲得しなくてはならなかった。作り手にしてみれば、かなり重いタスクだ。そのため、「これまでは割と筋肉質なスタイリング」を目指してきたスイフトを今回は、「スリークで丹精な」姿に仕上げたのだという。うまくいっているかどうかは写真で判断していただきたい。
Z世代はいろいろな自動車メーカーがターゲットに据える人気のユーザー像だが、彼らに受けるクルマを作り出すのは並大抵なことではない。スマホを使いこなし、スマートウォッチを身に着けたりしている一方で、音楽はカセットテープで聴いて、写真はインスタントカメラで撮るという人がいた場合、どんなクルマを提案すればいいのか。そもそも、上記のような人物が本当に存在するのか。Z世代は多様な価値観を持っていると聞くので、これといった人物像を思い浮かべることすら困難だ。「多様化ということもあり、何が中央にあるのか、何が王道なのかというと、そういうモノはなくて、それぞれに好き嫌いがあります。そこには苦労しました」と髙橋さんは開発当時を振り返る。
こうなると、キャラの立った商品で勝負するしかない。好きになってもらえるか嫌われるかはさておき、まずはZ世代に注目してもらわないことには話にならないからだ。
「スズキには割と、とんがった商品があります。ジムニーとか、スイフトスポーツといったようなクルマです。突き抜けた商品はけっこう評価されていると思うので、『スズキの商品って面白いよね』といったような文脈で新型スイフトにも注目してもらいたいです。(Z世代の人には)まずはディーラーに来ていただかなくてはならないわけですが、それには、普通のことをやっていてはダメだと思うんですね」
小型車市場でキャラを立たせるのであれば「走り」にもっと特化する手もあったと思うのだが、スズキはそちらの道を選ばなかった。新型スイフトの新たな路線が若年層に受けるかどうか、結果が楽しみだ。