介護業界におけるAI活用で人材不足は解消する?導入することによる業務効率化の可能性

近年、AI(人工知能)を活用する企業が増加傾向にあり、その流れは介護業界にも波及しています。
公益財団法人介護労働安定センターが公表した『令和3年度介護労働実態調査』では、ICT機器や介護ロボットを導入する介護施設が徐々に増加していることを明らかにしました。
ICT機器の活用状況は、いずれも昨年よりも増えています。
近年、こうした機器にはAIが搭載されているものも増えており、特に見守りサービスや介護記録などを支援するサービスの普及が進んでいます。
厚生労働省も補助金制度などを整備して、積極的な活用を促しており、それに応じるかたちで介護事業所でも広がっていることがわかります。
実際に介護施設では、どのようなAI機器が導入されているのでしょうか。厚生労働省は活用事例をまとめており、そのなかでさまざまなAI機器が紹介されています。
例えば、TAOS研究所が開発したAI技術による見守りサービス「AiSleep」。これは、ベッドにセンサーマットを敷くだけで簡単に使用できる見守り機器です。
基本機能としてリアルタイムの「心拍」「呼吸」データを記録したり、ベッド上での「離床」「起き上がり」「覚醒」「睡眠」の状態を表示します。そして、夜間の睡眠状態(深い・浅い・REM・覚醒)のチャートの表示と、睡眠スコア、ゆらぎ健康度、呼吸イベントなども計測してくれます。

この機器によって、睡眠中の異常を早期発見できるほか、利用者の起きるタイミングがわかるので、転倒予防などの効果があったと報告されています。
また、同社の調査によると、介護職員は「利用者がいつ離床し、転倒するかもしれない」という心理的ストレスが高かったのが、導入後はそのようなストレスの軽減したという結果も出ています。
介護現場でAI機器を導入する最大の目的は業務効率化です。介護現場は慢性的な人材不足だと言われており、処遇改善などのさまざまな施策が行われてきましたが、現場ではいまだに人材の不足感が蔓延しています。
先述した介護労働実態調査によると、介護事業所の人材不足感は2020年度に60.8%まで低下傾向にありましたが、2021年度に再び前年を上回る63%に上昇しています。
厚生労働省がICT機器を導入した事業所に対して、そのメリットを調査したところ、「情報共有がしやすくなった」90.3%、「文書作成の時間が短くなった」81.9%などの効果が明らかになっています。
そのほか、事業所からは「職員の業務改善の意欲が高まった」「新しい提案が増えるなど、職員の就業意欲向上につながった」との声があがっているようです。
ただ、ICT機器などの導入にはハードルもあります。

まだ導入していない施設に対して機器の導入や利用についての課題や問題を尋ねたところ、「導入コストが高い」が48.3%で最も高く、次いで「設置や保管等に場所をとられてしまう」が25.2%、「投資に見合うだけの効果がない(事業規模から考えて必要ない)」が24.9%となりました。
また、すでに導入している施設に今後の課題を聞いたところ、運用できる人材の確保に難しさを感じていることもわかっています。
補助金制度などもありますが、助成される団体には限りがあり、小規模事業者などでは必要性を感じていない実情が浮き彫りになっています。
AIには、さまざまな可能性があるとされていますが、なかでも認知症ケアでの活用に注目が集まっています。
総務省は日本ユニシスと共同で「認知症対応型IoTサービス」の実証事業を高知県の介護施設で行いました。
認知症による症状は介護者にとって大きな負担になります。なかでも行動心理症状(BPSD)は徘徊や暴力的な言動を伴うことが多く、対応に頭を悩ませる介護職も少なくありません。
そこで、実証事業ではバイタルデータなどを収集し、AIが必要なケアの内容や量を推定。介護職員に利用者の状態を詳細に知らせるシステムを導入しました。
その結果、BPSDの発症予防率は74%を達成し、介護負担が25%軽減されました。

AIはこれまで介護職の経験などに頼ってきた指標を数値化して、誰にでもわかるように見える化することができます。もちろんすべて正しい結果になるとは限りませんが、少なくとも介護職の負担は軽減されます。
こうしたAI活用は、さまざまな分野に広がっており、高齢者向け住宅にも採用されています。そのひとつが福岡市にある「健康スマートハウス」という住宅です。
これは、AIを活用して、在宅生活を送る人の体温や血圧などバイタルデータの異常を、健康管理システムが検知。医療機関などに迅速に通知するといったシステムが導入されています。
また、NTTでも地域包括ケアシステムを支援する「AI電話サービス」事業の実証実験を重ねています。これはスマートフォンを持たない高齢者でも、AIを活用して自動的に電話をかけることで見守る取り組みです。
これらのサービスは介護施設だけでなく、高齢者の在宅介護をも視野に入れたものです。AI活用は介護職の業務効率化だけでなく、高齢者の健康を守る役割も担うことになるかもしれません。